※1999年創業の会社が運営する「シニアのあんしん相談室」よりサービス提供を受けております。

離れて暮らす親が認知症と診断され、それでも一人暮らしを続けています。
施設に入ってもらうと決めた家族が最初にぶつかるのは、本人が「まだ大丈夫」と言って話が止まる場面と、契約は誰が結ぶのかという問いです。
相談から引っ越しまでの10段階を並べ、本人の同意を法律がどう扱い、遠距離からどう動くかを、条文と公的な統計から組み立てました。
認知症の親を一人暮らしから施設へ進める手順は10段階あります。
順番どおりに一つずつ進めると、後半で足が止まる箇所が3つあります。成年後見の申立て、特別養護老人ホーム(特養)の申込み、住民票の判断です。この3つは、前の段階が終わってから始めると入居日が後ろへずれる関係にあるため、最初から並行して動かします。なお、一人暮らしを続けられるかどうかの判断そのものは、認知症の親の一人暮らしは限界?続けられる条件と備えで扱っています。
| 段階 | やること | 誰が担うか | 並行して始めるもの |
|---|---|---|---|
| 1 | 地域包括支援センターに相談する | 家族 | |
| 2 | 要介護認定を申請する | 本人・家族(代行あり) | 成年後見の申立ての準備 |
| 3 | 医師の診断と主治医意見書 | 本人と家族 | |
| 4 | ケアマネジャーを決める | 家族 | |
| 5 | 暮らしの実情を共有し慣らしを始める | 家族・医師・ケアマネ | 特養の申込み |
| 6 | 施設の種別と地域を決める | 家族 | 住民票の判断 |
| 7 | 見学と申込み | 家族(本人は体験入居で) | |
| 8 | 契約(署名者を決める) | 本人か成年後見人 | |
| 9 | 引っ越し | 家族 | |
| 10 | 家と口座と住所の手続き | 家族か成年後見人 |
最初にやることは、親が住む市区町村の地域包括支援センターへの相談です。介護保険法第115条の46第1項は、地域包括支援センターを「地域住民の心身の健康の保持及び生活の安定のために必要な援助を行うことにより、その保健医療の向上及び福祉の増進を包括的に支援することを目的とする施設」と定めています。要介護認定の申請、認知症の診断を受けられる医療機関、市区町村が持つ見守りの仕組みを、一度に聞ける窓口です。
次が要介護認定の申請です。同法第27条第1項は、申請書に被保険者証を添えて市町村に申請すると定めたうえで、指定居宅介護支援事業者、地域密着型介護老人福祉施設、厚生労働省令で定める介護保険施設、地域包括支援センターに、申請の手続を代わって行わせることができるとしています。遠方に住む家族が申請書を出す場合の扱いは市区町村の窓口で確かめ、迷ったら包括支援センターに代行を頼みます。認定は申請から30日以内に行われる決まりで、認定が出ればケアマネジャーが決まります。
そこから先は、暮らしの実情の共有と慣らし、種別と地域の決定、見学と申込み、契約、引っ越し、家と口座と住所の手続きと進みます。10段階を先に見ておくと、今どこにいて次に何が来るかが分かり、家族の間で話す順番も揃います。
出典: e-Gov法令検索 介護保険法(平成9年法律第123号)第27条・第115条の46・厚生労働省 認定調査員テキスト2009改訂版(平成30年4月改訂)
1つ目は成年後見の申立てです。ここで誤解が多いのは、家庭裁判所の審理そのものにかかる期間です。最高裁判所事務総局家庭局の集計では、令和7年に終局した成年後見関係事件42,674件のうち、2か月以内に終局したものが約71.1%、4か月以内に終局したものが約93.8%でした。時間がかかるのは審理より前、診断書や財産の資料をそろえる段階です。しかも成年後見人は家庭裁判所が職権で選任するため(民法第843条第1項)、誰が契約に署名するのかは審判が出た時点で決まります。施設の申込みの前に着手する理由は、待ち時間よりこの順序にあります。
2つ目は特養の申込みです。介護保険法施行規則第17条の9により、対象となる要介護状態区分は要介護3・要介護4・要介護5です。要介護1・2の人は、同規則第17条の10が定める「居宅において日常生活を営むことについてやむを得ない事由」があると認められる場合に特例入所の対象となります。要介護3以上の認定が出たら、施設の種別を決める前に申し込みます。入所までの見込みは地域と施設で開きがあるため、申し込んだ施設の受付窓口に直接尋ねます。
3つ目は住民票の判断です。グループホーム(認知症対応型共同生活介護)は地域密着型サービスで、介護保険法第42条の2第1項により、市町村長が指定した事業所を、その市町村が行う介護保険の被保険者が使う形になります。子どもの近くのグループホームを候補にするなら、親の住まいの移動が先に来ます。この3つを段階1から2の時点で走らせると、後半で待たされる場面が減ります。
出典: 裁判所 成年後見関係事件の概況―令和7年1月~12月―(最高裁判所事務総局家庭局)・e-Gov法令検索 民法(明治29年法律第89号)第843条・e-Gov法令検索 介護保険法施行規則(平成11年厚生省令第36号)第17条の9・第17条の10
一人暮らしの認知症の親は、自分では困り事を感じていない場合が多く、手順のほとんどを家族が担います。兄弟姉妹がいる家で、包括支援センターにはAが、ケアマネジャーにはBが、施設にはCが連絡する形にすると、同じ説明を3回することになり、施設に伝わる内容も食い違いやすくなります。
窓口になる家族を1人に決めます。厚生労働省の有料老人ホーム設置運営標準指導指針は、「緊急時において迅速かつ適切に対応できるようにする観点から、入居者及びその身元引受人等の氏名及び連絡先を記載した名簿を整備しておくこと」と定めています。夜間に体調が急変したとき、施設が電話をかけるのはこの名簿に載った番号です。誰の名前と番号をそこに載せるかは、契約の前に家族で決めておく事柄です。
費用の分担や親の家の扱いといった家族の中の相談は、窓口とは別の場を持ちます。遠距離で動きにくい家族がいる場合は、近くに住む家族が窓口になり、遠い家族が費用と書類を担う形で分けます。
出典: 厚生労働省 有料老人ホームの設置運営標準指導指針について・厚生労働省 有料老人ホーム設置運営標準指導指針
「本人が嫌がっていても、家族の意向があれば入居できる」という説明を見かけます。
法律の上では、入居契約の当事者は入居する本人です。家族が署名する欄は身元引受人のもので、契約の当事者の欄とは別に用意されています。本人の判断能力がどの段階にあるかで、契約を成り立たせる手段が変わります。
| 本人の判断能力 | 契約の形 | 用意するもの |
|---|---|---|
| 説明を理解して自分で判断できる | 本人が契約する | 任意後見契約を公正証書で結んでおく |
| 低下しているが説明は理解できる | 本人が契約し家族が同席する | 医師の診断書を残す |
| 説明を理解できる状態から離れている | 成年後見人が契約する | 家庭裁判所への後見開始の申立て |
民法第3条の2は「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする」と定めています。有料老人ホームやグループホームの入居契約も法律行為なので、契約の内容を理解できる状態から離れた本人の名前で結んだ契約は、効力を争われる余地を抱えます。後見開始の審判を受けた後であれば、民法第9条により、本人がした法律行為は取り消すことができます。
家族が契約書に署名する形は、身元引受人としての署名です。厚生労働省の指導指針は、入居契約書に「利用料等の費用負担の額及びこれによって提供されるサービス等の内容、入居開始可能日、身元引受人の権利・義務、契約当事者の追加、契約解除の要件」を明示することを求めています。身元引受人と契約当事者が別の項目として並んでいるところに、この2つの立場の違いが表れています。同指針は、要介護状態になった入居者を一時介護室で処遇する場合について「本人の意思を確認するとともに、身元引受人等の意見を聴く」とも定めており、ここでも本人と身元引受人は別に扱われます。
つまり、判断能力が落ちている親の入居を進めるなら、「家族が代わりに署名する」の先を用意する必要があります。判断能力の段階によって手段が変わるので、順に見ます。
出典: e-Gov法令検索 民法(明治29年法律第89号)第3条の2・第9条・厚生労働省 有料老人ホーム設置運営標準指導指針
本人が説明を理解して自分で判断できる段階なら、本人が契約します。このときに一緒に用意したいのが任意後見契約です。任意後見契約に関する法律第2条第1号は、これを「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況における自己の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務の全部又は一部を委託し、その委託に係る事務について代理権を付与する委任契約」と定めています。同法第3条により、契約は法務省令で定める様式の公正証書で結びます。
効力が生じるのは、契約を結んだ時より後です。同法第4条第1項により、任意後見契約が登記されている状態で、本人の事理を弁識する能力が不十分な状況になったとき、家庭裁判所が本人・配偶者・四親等内の親族または任意後見受任者の請求で任意後見監督人を選任し、その時から効力が生じます。同条第3項は、本人以外の請求で選任する場合にあらかじめ本人の同意を要すると定めています。本人が意思を表示できる段階で話を通しておく理由がここにあります。
厚生労働省のガイドラインも、「本人が自ら意思決定できる早期(認知症の軽度)の段階で、今後、本人の生活がどのようになっていくかの見通しを、本人や家族、関係者で話し合い、今後起こりうることについてあらかじめ決めておくなど、先を見通した意思決定の支援が繰り返し行われることが重要である」としています。判断能力が低下しつつも説明を理解できる段階なら、本人が契約し、家族が同席し、契約の内容を理解できる状態であることを医師の診断書に残します。
出典: e-Gov法令検索 任意後見契約に関する法律(平成11年法律第150号)第2条・第3条・第4条・厚生労働省 認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン(平成30年6月)
本人が契約の内容を理解できる状態から離れている段階なら、法定後見の申立てをします。民法第7条により、申立てができるのは本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人、検察官です。裁判所が案内する必要書類は、申立書のほか、本人の戸籍謄本、住民票、成年後見人候補者の住民票、医師の診断書と本人情報シートの写し、健康状態に関する資料、登記されていないことの証明書、財産と収支に関する資料です。費用は申立手数料の収入印紙800円分と登記手数料の収入印紙2,600円分、連絡用の郵便切手で、鑑定を行う場合はその費用も申立人が負担します。
この申立ては、施設の入居を進める家族にとって身近な手続です。令和7年の集計では、主な申立ての動機のうち「介護保険契約」が19,502件で全体の約45.7%を占め、開始原因では認知症が約61.3%でした。申立人は本人が約24.8%、市区町村長が約23.7%、本人の子が約18.5%です。
覚えておきたいのは、後見人を選ぶのは家庭裁判所だという点です。民法第843条第1項は「家庭裁判所は、後見開始の審判をするときは、職権で、成年後見人を選任する」と定めています。令和7年に成年後見人等が選任された42,732件のうち、親族が選任されたのは7,014件で約16.4%、親族以外が35,718件で約83.6%でした。内訳は司法書士11,966件、弁護士8,903件、社会福祉士7,280件です。専門職が選ばれた場合、民法第862条により、家庭裁判所は本人の財産の中から相当な報酬を後見人に与えることができます。「家族が後見人になる」前提で費用を組むと、後で計算が変わります。
出典: 裁判所 後見開始・裁判所 成年後見関係事件の概況―令和7年1月~12月―・e-Gov法令検索 民法第7条・第843条・第862条
成年後見人がつけば、施設の契約は後見人が結べます。ただし、民法第859条第1項が後見人に与えているのは「被後見人の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為について被後見人を代表する」権限で、住む場所を指定する権限は、この文言の外にあります。あわせて民法第858条は、後見人が生活・療養看護・財産の管理に関する事務を行うにあたり、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮することを求めています。
厚生労働省のガイドラインは、社会生活における意思決定支援の例として「自宅からグループホームや施設等に住まいの場を移動する場合」を挙げ、「本人の示した意思は、それが他者を害する場合や、本人にとって見過ごすことのできない重大な影響が生ずる場合でない限り、尊重される」としています。そのうえで、重大な影響が生ずる場合の例として「自宅での生活を続けることで本人が基本的な日常生活すら維持できない場合」を注記に挙げ、その場合も意思決定支援チームで話し合い、適切なプロセスを踏み直すことを求めています。
つまり、一人暮らしが立ち行かなくなっている状況は、ガイドラインが想定している場面そのものです。そして想定されている進め方は、家族が本人を押し切ることではなく、医師・ケアマネジャー・包括支援センターの職員と家族がチームとして話し合い、本人の意思をくみ取り直すことです。本人の同意の扱いは、「法律の手段を整える」と「本人の納得を作る」の両輪で進みます。手段は後見で整い、納得は次に見る段階で作ります。
出典: e-Gov法令検索 民法第858条・第859条・厚生労働省 認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン
一人暮らしの認知症の親を説得する難しさは、親が「自分は大丈夫」と感じている点にあります。
厚生労働省のガイドラインは、本人の意思決定能力を、説明の内容をどの程度理解しているか(理解する力)、それを自分のこととして認識しているか(認識する力)、論理的な判断ができるか(論理的に考える力)、その意思を表明できるか(選択を表明できる力)の4つで捉えています。このうち認識する力が下がっている相手に「危ないから施設へ」と伝えると、説得というより否定として届きます。だから伝え方を変え、段階を踏みます。施設入居そのものを嫌がる親への一般的な向き合い方は、老人ホームに入りたくない親を説得する方法と対策で扱っています。
火を消し忘れた、薬を飲み残した、同じものを何度も買った。こうした出来事を本人が覚えていない場合も、覚えていて小さなことと受け止めている場合もあります。ガイドラインが言う認識する力が下がっている状態です。ここで家族が事実を並べて詰めると、本人には身に覚えのない話として届きます。
ガイドラインは、意思を引き出す場のつくり方まで書いています。「初めての場所や慣れない場所では、本人は緊張したり混乱するなど、本人の意思を十分に表明できない場合があることから、なるべく本人が慣れた場所で意思決定支援を行うことが望ましい」。「本人を大勢で囲むと、本人は圧倒されてしまい、安心して意思決定ができなくなる場合があることに注意すべきである」。「時期についても急がせないようにする、集中できる時間帯を選ぶ、疲れている時を避けるなどに注意すべきである」。帰省した兄弟が実家の居間に集まって親を囲む形は、この3つすべてから外れます。
もう一つ、ガイドラインは「本人は、意思決定の内容によっては、立ち会う人との関係性から、遠慮などにより、自らの意思を十分に表明ができない場合もある」と述べ、必要な場合は本人と支援者の間で意思を確認する配慮を求めています。子どもの前では言えることと言えないことがあります。ケアマネジャーや医師と本人が二人で話す時間を、家族の側から用意します。
出典: 厚生労働省 認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン
ガイドラインは、意思形成の支援としてまず確かめる点を4つ挙げています。本人が意思を形成するのに必要な情報が説明されているか。分かりやすい言葉や文字にして、ゆっくりと説明されているか。本人が理解している事実認識に誤りがないか。本人が自発的に意思を形成するのに障害となる環境がないか。3つ目の「事実認識に誤りがないか」が、実例を一緒に見る段階に当たります。
焦げた鍋、飲み残しの薬の袋、同じ食品が並んだ冷蔵庫。責める形を避け、「これ、どうしたんだろうね」と並んで見ます。ガイドラインは「本人が何を望むかを、開かれた質問で聞くことが重要である」とも述べています。「施設に入る気はある?」と閉じた質問で聞くより、「これからどんなふうに暮らしたい?」と開いて聞きます。
次の段階が医師です。かかりつけ医か認知症の専門医を受診し、体調を整える目的として本人に伝えてもらいます。この受診は手続にもつながります。介護保険法第27条第3項により、市町村は要介護認定の申請があったとき本人の主治医に意見を求めるため、主治医がいる状態を先に作っておくと認定の手続が滞りなく進みます。同じ受診で、後見開始の申立てに使う診断書も相談できます。
医師に頼んでおく一言の例
「血圧と物忘れの薬の調整をしたいので、しばらく食事と薬を見てもらえる場所で過ごして、また診せてください」。病名を突きつける言葉より、体調を整える目的として伝えてもらうと、本人が受け取りやすくなります。
出典: 厚生労働省 認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン・e-Gov法令検索 介護保険法第27条
入居の話をいきなり持ち出すより、小さな一歩から慣らします。この順番には公的な裏づけがあります。ガイドラインは「本人が実際の経験をする(例えば、ショートステイ体験利用)と、本人の意思が変更することがあることから、本人にとって無理のない経験を提案することも有効な場合がある」と述べています。言葉で説得する代わりに経験を提案する進め方を、厚生労働省の指針が有効な手段として挙げています。
最初はデイサービスです。日中だけ通い、食事や入浴、他の人との会話を経験します。「お風呂に入りに行く」「体操に行く」と目的を具体的にすると入りやすくなります。慣れたらショートステイで、数日から泊まります。家族の用事を理由に「その間だけ泊まってきてほしい」と頼む形が使えます。泊まる経験があると、施設が「知らない場所」から「行ったことのある場所」に変わります。
最後が体験入居です。厚生労働省の指導指針は「既に開設されている有料老人ホームにおいては、体験入居を希望する入居希望者に対して、契約締結前に体験入居の機会の確保を図ること」と定めています。有料老人ホームを候補にしているなら、体験入居は施設に頼んでよい仕組みです。ここで本人の反応と、施設側の対応を両方見ます。慣らしにかかる期間は人によって違うため、急がず段階を踏みます。
出典: 厚生労働省 認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン・厚生労働省 有料老人ホーム設置運営標準指導指針
「ずっと施設で暮らす」と伝えると、本人は帰る場所を失う話として受け止めます。始め方は「一時的」にします。「冬の間だけ」「退院後の1か月だけ」「私の仕事が落ち着くまで」と期限をつけて入居し、期限が近づいたら本人の様子を見て考え直します。
この進め方は、意思が動くことを前提にしています。ガイドラインは「本人の意思は変更することもあるので、意思決定支援チームでの事後の振り返りや、意思を複数回確認することが求められる」と述べています。入居してみて落ち着けば本人の意思は変わり、なじめなければまた変わります。期限を置くことで、本人にも家族にも考え直す余地が残ります。
避けたいのは、騙して連れて行く形と、強引に運ぶ形です。ガイドラインは意思決定支援者に「本人の意思を尊重する態度で接していること」と「本人との信頼関係に配慮する」ことを求めています。「病院に行こう」と言って施設へ連れて行けば、この信頼関係が壊れたところから入居後の暮らしが始まります。入居日は医師やケアマネジャーから本人に伝えてもらい、家族は迎える側に回ります。
出典: 厚生労働省 認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン
離れて暮らす親を施設へ進める場合、帰省の回数が限られます。
帰省1回で済ませる用事を束ね、帰省の間を見守りの仕組みで埋め、現地の施設に入れるか呼び寄せるかを介護保険の被保険者の要件から決めます。この3つを順に見ます。
帰省1回で済ませる用事は次の6つです。
このうち日程を最優先で合わせるのが認定調査です。厚生労働省の認定調査員テキストは「独居者や施設入所者等についても、可能な限り家族や施設職員等、調査対象者の日頃の状況を把握している者に立ち会いを求め、できるだけ正確な調査を行うよう努める」と定め、在宅で介護者がいる場合は「介護者が不在の日は避けるようにする」としています。家族の立ち会いは、調査員の側からも求められている手続です。
伝え方にも決まりがあります。同テキストは、調査時の環境が日頃と異なったり、本人の緊張などで日頃の状況と異なると考えられる場合は、「より頻回に見られる状況や日頃の状況について聞き取りを行い、一定期間(調査日より概ね過去1週間)の状況において、より頻回な状況に基づいて選択する」と定めています。徘徊や物取られ妄想などの項目は概ね過去1か月間が対象です。家族が伝えるべきは印象ではなく、この1週間と1か月に何回起きたかという頻度です。火の不始末、服薬の抜け、金銭の混乱を、回数と日付で書き出して持参します。同じ内容を主治医意見書を書く医師にも渡します。
出典: 厚生労働省 認定調査員テキスト2009改訂版(平成30年4月改訂)・e-Gov法令検索 介護保険法第27条
帰省と帰省の間を埋める仕組みは、自治体のサービスと介護保険のサービスの2種類です。自治体の側は、市区町村ごとに中身も名前も違います。世田谷区を例に取ると、ひとりぐらし・高齢者のみ世帯向けの一覧には、見守り機器サービスの利用料の補助、高齢者安心コール、火災安全システムの給付、救急通報システム「愛のペンダント」、福祉電話訪問、会食サービス、入浴券の支給が並びます。救急通報システムは65歳以上のひとりぐらしなどで慢性疾患があるなど常時注意を要する方が対象で、設置時の利用者負担金は8,000円、前年度住民税が非課税の方は免除です。
ここで知っておきたいのは、この一覧が年ごとに入れ替わることです。世田谷区は令和8年4月から、70歳以上のひとりぐらし高齢者を対象に見守り機器サービスの利用料の補助を始めました。補助額は1人当たり最大で月額1,000円、機器はボタンを押すと人が駆けつける緊急通報型、センサーで異常を感知するセンサー型、ドアの開閉等を感知する生活リズム型に分かれます。「緊急通報」「配食」といった名前で探すより、親の市区町村の一覧を包括支援センターでその年に確かめる方が早く着きます。
介護保険の側では、訪問介護に見守りの役割を持たせます。ケアマネジャーには、遠距離の家族の連絡先、連絡してほしい異変の種類、家族が動ける範囲と日数を先に伝えます。この見守りは施設入居までの時間を作る仕組みで、長く続ける前提のものとは性格が違います。遠距離で在宅を任せられる範囲は、遠距離介護の限界はどこ?任せられることと緊急時の決め方で扱っています。
出典: 世田谷区 ひとりぐらし・高齢者のみ世帯の方へのサービス・世田谷区 救急通報システム「愛のペンダント」・世田谷区 ひとりぐらし高齢者見守り機器サービスの利用料の補助
親の近くの施設に入れるか、子どもの近くに呼び寄せるかで、手順の順番が変わります。分かれ目はグループホームです。介護保険法第8条第20項は認知症対応型共同生活介護を、要介護者であって認知症であるものについて、その共同生活を営むべき住居において介護や日常生活上の世話、機能訓練を行うものと定めています。これは地域密着型サービスで、同法第78条の2第1項により、事業所の指定は「当該指定をする市町村長がその長である市町村が行う介護保険の被保険者」に対するサービス費の支給について効力を持ちます。子どもの近くのグループホームを希望するなら、親の住まいの移動が申込みより先に来ます。
転居した後の認定は引き継げます。同法第36条は、他の市町村で要介護認定を受けている人がその市町村の被保険者になった場合、資格を取得した日から14日以内に、前の市町村が交付した認定に係る事項を証明する書面を添えて申請したときは、認定審査会の審査及び判定を経ることなく認定できると定めています。転出のときに証明書を受け取り、転入から14日以内に出すのが要点です。
一方、住所地特例の対象になる施設は扱いが違います。同法第13条第1項が挙げるのは、介護保険施設、特定施設、老人福祉法第20条の4に規定する養護老人ホームの3つです。特定施設は、同法第8条第11項と同法施行規則第15条により、有料老人ホーム・養護老人ホーム・軽費老人ホームを指します。有料老人ホームは老人福祉法第29条第1項の定義に当たるもので、食事の提供などを行うサービス付き高齢者向け住宅もここに含まれます。これらの施設は、入居して住民票を移しても、介護保険の保険者は元の市町村のままです。なお認知症対応型共同生活介護は、住所地特例の対象者が使える特定地域密着型サービスの列挙の外にあるため、この扱いが及ぶ範囲からも外れます。
呼び寄せは、本人の生活圏を切り替える判断でもあります。かかりつけ医、友人、通い慣れた店を離れる負担と、子どもの近くにいる安心を並べて決めます。
出典: e-Gov法令検索 介護保険法第8条・第13条・第36条・第78条の2・e-Gov法令検索 介護保険法施行規則第15条・e-Gov法令検索 老人福祉法(昭和38年法律第133号)第29条
一人暮らしの認知症の親が入る施設は、3つの種別に絞れます。
面談では認知症に伴う行動を隠さず伝え、契約では誰が署名し、費用をどの口座から払うかを決めてから、入居日を組みます。
| 種別 | 制度上の条件 | 合う人 |
|---|---|---|
| グループホーム | 要介護1以上+認知症であること+その市町村の被保険者 | 身の回りのことがある程度できる・少人数の環境が合う |
| 特別養護老人ホーム | 要介護3以上(要介護1・2は特例入所) | 費用を抑えたい・入所まで待てる |
| 介護付き有料老人ホーム | 施設ごとの入居要件 | 医療への対応が要る・入居時期を選びたい |
グループホームの条件は、介護保険法第8条第20項の「要介護者であって認知症であるもの」という文言から決まります。要介護1以上の認定と認知症であることの両方が要り、そのうえで住まいのある市町村が指定した事業所を使う形です。少人数の共同生活で、認知症があり身の回りのことがある程度できる人に合います。
特養は、介護保険法施行規則第17条の9により、対象が要介護3・4・5です。要介護1・2の人は同規則第17条の10の特例入所の枠になります。費用を公的な基準で抑えられる代わりに、入所の時期を選びにくい種別です。介護付き有料老人ホームは、介護保険法第8条第11項の特定施設入居者生活介護を提供する施設で、入居の要件は施設ごとに決まります。看護体制のある施設を選べば、医療への対応が要る人も候補に入ります。
絞り方の順番は、まず認知症の診断があるかどうか、次に要介護度が3以上かどうか、最後に医療への対応が要るかどうかです。要介護1・2で認知症の診断があればグループホームが中心の候補になり、要介護3以上なら特養にも申し込みます。医療への対応が要れば介護付きを探します。
出典: e-Gov法令検索 介護保険法第8条第11項・第20項・e-Gov法令検索 介護保険法施行規則第17条の9・第17条の10
施設に申し込むと、施設側が本人と面談します。ここで家族がやりがちなのが、認知症に伴う行動を軽く伝えることです。夜間に起き出す、「家に帰る」と言って出ようとする、介護を拒む。これらを伝えずに入居すると、施設が対応できないまま契約の解除の話が出ます。
厚生労働省の指導指針は「入居契約書に定める設置者の契約解除の条件は、信頼関係を著しく害する場合に限るなど入居者の権利を不当に狭めるものとなっていないこと」と定めています。裏返すと、退去は施設の気分ではなく契約書の解除条項で決まります。入居の前に、その施設の解除条項がどう書かれているかを読みます。同指針は、契約締結前に十分な時間的余裕をもって重要事項説明書と入居契約書について説明し、説明を行った者と受けた者が署名することも求めています。
面談では、行動の種類、起こる時間帯、頻度、何をすると落ち着くかを具体的に伝えます。施設側はその情報で受け入れられるかを判断します。入居を断られるのは辛いものの、入居後に暮らしが崩れるより、この段階で分かる方が本人の負担は軽く済みます。見学は本人の拒否が強ければ家族だけで先に行き、本人は体験入居で施設を経験する形にします。
契約の段階で決めることは3つです。1つ目は署名者です。本人が契約できる状態なら本人、判断能力が失われている場合は成年後見人が署名します。2つ目は身元引受人です。厚生労働省の指導指針は、入居契約書に身元引受人の権利・義務を明示することを求めており、何をどこまで引き受ける立場なのかは施設ごとの契約書で確かめます。身元引受人を頼める家族がいない場合の手段は、身元保証人がいなくても老人ホームに入れる|代わりの手段と保証会社の費用で扱っています。
3つ目は費用を払う口座です。施設の費用は本人の年金や貯金から払うのが基本で、成年後見人がいれば、民法第859条第1項により後見人が本人の財産を管理し、財産に関する法律行為について本人を代表します。後見人がいない状態で本人が金融機関の手続をできなくなると、費用の支払いが止まります。代理人カードや家族信託の扱いは金融機関ごとに違うため、親と取引のある銀行に契約の前に確かめます。
この3つが決まったら入居日を組みます。荷物は使い慣れたものを少なく、家族の写真や時計など本人が安心する品を持ち込みます。入居日は本人に医師やケアマネジャーから伝えてもらい、家族は施設で迎える形にします。
出典: 厚生労働省 有料老人ホーム設置運営標準指導指針・e-Gov法令検索 民法第859条
入居が済んでも、手順は続きます。
空き家、お金、面会の3つが残ります。この3つを入居の前に見ておくと、入居後の家族の負担が軽くなります。
親が住んでいた家は、入居後すぐに手放さず、当面は管理を続けます。郵便は転送の届出を出し、水道と電気は必要最小限で残します。火災保険は、居住から空き家に変わると契約の条件が変わる場合があるため、保険会社に扱いを確かめます。「一時的な入居」として始めた場合、家が残っていることが本人の安心にもつながります。
家を売ったり貸したりする段になると、確かめる決まりがあります。民法第859条の3は、成年後見人が本人に代わって、その居住の用に供する建物またはその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除、抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには、家庭裁判所の許可を得ることを求めています。売却のほか、賃貸と抵当権の設定も許可の対象です。許可を得ないまま結んだ契約は効力を争われるため、不動産会社と話を進める前に家庭裁判所へ相談します。
後見人がいない場合でも、本人の家は本人の財産です。本人の判断能力が失われた状態で家族が売る手段は用意されておらず、結局は後見の申立てが必要になります。家の処分を見込むなら、後見の申立てを早めに進める理由がもう1つ増えます。
お金の手続は3つです。1つ目は年金の住所変更で、ここには落とし穴があります。日本年金機構は「住所変更の届出は、日本年金機構にマイナンバーが登録されている方は原則不要です」としたうえで、「日本年金機構にマイナンバーが未登録の方や住民票の住所と違う場所にお住まいの方、成年後見を受けている方等は、届出が必要です」と案内しています。施設に入って住民票を移さない場合と、成年後見を受けている場合は、どちらも届出が要る側に入ります。この2つは施設へ入る親に重なりやすい条件です。届出は住所を変更してから10日以内で、様式は「年金受給権者 住所変更届」です。
成年後見人等が、本人あての通知書の送付先を後見人の住所に変えたり、年金の振込先を本人の氏名を含む管理口座に変えたりする場合は、別の申出書を年金事務所に出します。添付する書類は、法務局が発行する登記事項証明書の原本などです。
2つ目は介護保険の住所です。住所地特例の対象施設に入って住民票を移した場合、介護保険法第13条第1項により保険者は元の市町村のままで、元の市町村に届出をします。グループホームで住民票を移した場合は、転入先の市町村で認定を引き継ぐ手続になります。3つ目は本人の口座の管理です。施設の費用、医療費、日用品の購入を誰がどの口座から払うかを決め、記録を残します。成年後見人がいれば後見人が管理し、家庭裁判所の監督を受けます。記録を残しておくと、後で親族の間で使途を問われたときに説明できます。
出典: 日本年金機構 年金を受けている方が年金の受取機関や住所を変更するとき・e-Gov法令検索 介護保険法第13条・法務省 成年後見制度・成年後見登記制度Q&A
入居直後は、多くの人に「家に帰る」という言葉が出ます。環境が変わった不安、家族に置いていかれた感覚、夕方に強まる混乱が背景にあります。厚生労働省のガイドラインは「日常生活については、これまで本人が過ごしてきた生活が確保されることを尊重することが原則になる」と述べています。使い慣れた品を持ち込む意味も、起床や入浴の時間を本人の習慣に寄せてもらう意味も、ここにあります。
家族が決めておくのは、面会の頻度と伝え方です。頻度は「毎週土曜の午後」のように定期にすると、本人が見通しを持てます。伝え方は、「一時的」と言って始めた場合に、期限が近づいたときの言葉を家族で揃えておきます。家族の間で言うことが違うと、本人の混乱が増えます。ガイドラインが「本人の意思は変更することもある」として振り返りを求めているとおり、入居後も本人の気持ちを聞き直す機会を作ります。
入居後に施設から「対応が難しい」と言われる場合もあります。そのときは、その場で退去に同意せず、何が起きているかを確かめます。確かめる順序は老人ホームから退去を求められたときに、その場で同意せず確かめることで扱っています。入居は手順の終わりというより、本人の新しい暮らしの始まりです。面会と連絡を続けます。
出典: 厚生労働省 認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン
いちばん重いのは、入居契約の当事者が本人だという点です。民法第3条の2により、意思能力を有しない状態でした法律行為は無効です。家族の署名は身元引受人としての署名で、契約の当事者は本人のままです。そして成年後見人がついても、民法第859条第1項が与えるのは財産の管理と財産に関する法律行為の代表で、住む場所を指定する権限はその外にあります。だから手順の中心は、法律の手段を整えることと並んで、本人が納得する段階を作ることになります。
次の一歩は、親が住む市区町村の地域包括支援センターに電話をかけ、要介護認定の申請と、成年後見の相談先を同じ日に聞くことです。ここを飛ばして施設探しから始めると、気に入った施設が見つかった段階で「契約に署名するのは誰か」で止まります。成年後見の審理は令和7年の集計で約93.8%が4か月以内に終わっていますが、それは書類がそろってからの期間です。診断書と財産の資料を集める時間は、施設探しと並行して使えます。
次に確かめるのは、親の市区町村にある見守りの仕組みの一覧と、候補にする施設の入居契約書の解除条項です。どちらも包括支援センターと施設の窓口で受け取れます。介護のあんしんでは、本人の同意の扱いや遠距離からの進め方も含めて、老人ホーム探しで悩むあなたに信頼できる情報を提供しています。