※1999年創業の会社が運営する「シニアのあんしん相談室」よりサービス提供を受けております。

認知症の親が、家族や介護職員に暴言を吐く、手が出る、物を投げる。デイサービスからは「他の利用者に手が出たので次回から難しい」と言われ、グループホームからは「退去を考えてほしい」と切り出される。施設に電話をかけても「暴力のある方は」で話が終わる。
施設が断る理由は、暴力があるという事実そのものよりも、暴力の原因と落ち着く見込みが施設に伝わっていないところにあります。原因を見直し、医療の後ろ盾を作ってから問い合わせると、同じ施設から違う答えが返ってきます。
この記事では、断られる理由、受け入れ先になる施設の種類、退去を求められたときに確かめる契約の条項、精神科との連携、探し方の順に説明します。
施設は3つの制約の中で入居者を受け入れています。力で止めることが禁じられていること、共同生活が前提であること、他の入居者と職員の安全を守る義務を負っていることです。この章では、断られる理由を次の順で見ていきます。
前の3つは施設側の事情です。最後の1つだけは、家族の側から動かせます。
介護施設では、入居者を縛る、部屋に閉じ込めるといった身体拘束が原則として禁じられています。
厚生労働省の有料老人ホームの設置運営標準指導指針は、次のように定めています。
入居者に対するサービスの提供に当たっては、当該入居者又は他の入居者等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他入居者の行動を制限する行為(以下「身体的拘束等」という。)を行ってはならないこと。
「緊急やむを得ない場合」の線引きも厳しく引かれています。同じ指針は、緊急やむを得ない理由について「切迫性、非代替性及び一時性の3つの要件を満たすことについて、組織等としてこれらの要件の確認等の手続きを極めて慎重に行う」ことと、その内容を記録しておくことを求めています。特別養護老人ホームやグループホームの運営基準も同じ考え方です。
つまり、暴力が出たときに施設が取れる手段は、距離を取る、場面を変える、声のかけ方を変えるといった方法に限られます。だから施設は「暴力が出たときに職員が対応しきれるか」を入居前に判断します。判断の材料が乏しいと、断る側へ傾きます。
出典: 厚生労働省 有料老人ホームの設置運営標準指導指針(老発1206第2号・令和6年12月6日最終改正)
グループホーム(認知症対応型共同生活介護)は、法律の上で「急性の状態にある人」を対象から外しています。
介護保険法第8条第20項は、この施設の対象を次のように定めています。
要介護者であって認知症であるもの(その者の認知症の原因となる疾患が急性の状態にある者を除く。)
「急性の状態」は、症状が激しく動いている時期を指します。他の入居者に手が出る、夜中の大声が続くという状態は、5人から9人が一つの家で暮らす形と重なりにくく、法律の設計の上で対象の外にあります。グループホームが「今の状態では難しい」と答えるのは、この定めに沿った判断です。
指定地域密着型サービス基準には、事業者が正当な理由なくサービスの提供を拒むことを禁じる条文(第3条の8。第108条によりグループホームへ準用)もあります。ただし、急性の状態にあることは、この「正当な理由」に当たります。断りを制度で押し返すより、急性の時期を抜けるほうが先になります。
裏を返せば、症状が落ち着けば対象に戻ります。グループホームは、落ち着いた後の住まいとして考える施設です。
出典: e-Gov法令検索 指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第34号)
施設は、他の入居者の安全を守る義務と、職員を守る義務の両方を負っています。
東京都足立区は、区内の特別養護老人ホームの受け入れ状況を公表するページで、認知症の受け入れについて次のように書いています。
各施設とも、軽度から中度の方の受け入れはできますが、症状はその方によって様々です。お申し込みを希望する施設へご相談ください。また、「他者への暴力・集団生活が困難な方」は、全施設で受け入れができません。
自治体が受け入れの線を公に引いた例です。ただ、同じページの施設ごとの欄まで読むと、書きぶりが変わります。「他者への暴力行為がある場合要相談」「重度徘徊・自傷行為・他者への暴力行為等がある場合要相談」と書く施設が並び、はっきり不可としている施設は少数です。全体の案内は強い言葉でも、施設ごとの入り口は相談で開いています。ここは、一覧の見出しだけで諦めた家族が取りこぼしやすいところです。
人手の事情も重なります。グループホームの夜間は、指定地域密着型サービス基準第90条第1項により、共同生活住居ごとに介護従業者を1人以上置くことになっています。5人から9人を職員1人が担当する時間帯があるということです。暴力が出たときに他の入居者から引き離す人手が限られるため、施設は夜の体制を理由に慎重になります。
出典: 足立区 特別養護老人ホーム医療的ケア等の取扱いについて
出典: e-Gov法令検索 指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第34号)
ここが、探す側にいちばん知っておいてほしいところです。
認知症の行動・心理症状(BPSD)は、性格や認知症の重さだけで決まるものとは違います。令和6年度の厚生労働科学特別研究事業でまとめられ、厚生労働省が公表しているBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版)は、認知症のある人の約60〜90%が何らかのBPSDを経験するとしたうえで、「BPSDの管理においては非薬物療法が第一選択」と書いています。そのうえで治療の前に、感染症、脱水、痛み、便秘、視覚・聴覚の障害といった身体的な原因と、いま飲んでいる薬を除くことを求めています。
暴言や暴力は、本人の人柄が変わったから起きるというより、身体のどこかや薬の作用が言葉にならずに出ている、と考えるほうが実際に近いということです。
同じ電話でも施設の受け取り方が変わる
「暴力があります」とだけ伝えると、施設は「原因が分からず、落ち着く見込みも立たない人」として受け取ります。「便秘と痛み止めの見直しで週3回が週1回に減りました。精神科の主治医がついています」と伝えると、施設は「対応の手順を組める人」として受け取ります。同じ人の同じ症状でも、返ってくる答えが変わります。
断られる理由の多くは、暴力そのものよりこの情報の差にあります。原因の見直しと医療の後ろ盾を先に作ることが、探し方の出発点です。
出典: 厚生労働省 認知症関連ガイドライン(かかりつけ医・認知症サポート医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン 第3版)
受け入れ先は、症状の時期で分かれます。症状が激しい時期は精神科病院、落ち着くまでは老健や介護医療院、落ち着いた後は特養・グループホーム・介護付き有料老人ホームです。
| 種類 | 役割 | 医師・看護職員 | 認知症の加算 | 使う時期 |
|---|---|---|---|---|
| 精神科病院(認知症治療病棟) | 症状の治療と薬の調整 | 医師・看護職員が常駐 | 医療保険の入院料 | 症状が激しい時期 |
| 介護老人保健施設(老健) | 落ち着くまでの中間 | 医師常駐・看護職員を配置 | 認知症専門ケア加算/認知症チームケア推進加算 | 退院直後から落ち着くまで |
| 介護医療院 | 医療の要る人の長期療養 | 医師常駐 | 同上 | 身体の病気も重い場合 |
| 特別養護老人ホーム | 長く住む | 看護職員は主に日中 | 同上 | 落ち着いた後(申込は早く) |
| グループホーム | 5〜9人の共同生活 | 看護職員の配置は任意 | 同上 | 落ち着いた後 |
| 介護付き有料老人ホーム | 施設ごとに幅がある | 看護職員は主に日中 | 認知症専門ケア加算 | 落ち着いた後・施設による |
以下、上の表を順に見ていきます。
夜中の大声が止まらない、他の人に手が出るという時期の受け入れ先は、精神科病院の認知症治療病棟です。
厚生労働省の通知は、この病棟を「精神症状及び行動異常が特に著しい重度の認知症患者を対象とした急性期に重点をおいた集中的な認知症治療病棟入院医療」を行う病棟と説明しています。対象になる人は「ADLにかかわらず認知症に伴って幻覚、妄想、夜間せん妄、徘徊、弄便、異食等の症状が著しく、その看護が著しく困難な患者」です。家で見ている状態が、そのまま制度の言葉になっています。
入院料は、長くなるほど下がる設計です。令和8年6月から適用されている点数表では、認知症治療病棟入院料1が30日以内は1日1,897点、31日以上60日以内は1,589点、61日以上は1,289点です。認知症治療病棟入院料2は同じ順に1,397点、1,192点、1,066点です。診療報酬は1点が10円なので、入院料1の30日以内なら1日18,970円が計算のもとになり、ここに健康保険の自己負担割合と高額療養費の上限が掛かって自己負担額が決まります。短い期間で落ち着かせて次の場所へつなぐことが前提の病棟だと、点数の下がり方が示しています。
だから病院は入院の初日から退院先の話をします。急いでいるように聞こえますが、制度の設計がそうなっています。
出典: 厚生労働省 令和8年度診療報酬改定 別表第一 医科診療報酬点数表
出典: 厚生労働省 令和8年度診療報酬改定 医科診療報酬点数表に関する事項
精神科病院を退院した後、すぐに特養やグループホームへ移るのが難しいときに間に入るのが、介護老人保健施設(老健)と介護医療院です。
どちらも医師が常駐し、看護職員がいます。令和6年度の介護報酬改定で新しくできた認知症チームケア推進加算の対象施設でもあります。対象はグループホーム、介護老人福祉施設(特養)、地域密着型介護老人福祉施設、老健、介護医療院の5つで、BPSDの予防と出現時の早期対応にチームで取り組む施設を評価する加算です。届出をしている施設なら、行動・心理症状のある人を日常的に受けていると分かります。
老健は在宅復帰を目的にした施設なので、長く住む前提とは違います。ただ、薬の調整を続けながら生活のリズムを整える期間として使えます。介護医療院は、身体の病気も重い人が長く療養する施設で、認知症の行動と身体の病気が重なっている場合の候補になります。
特養は自治体ごとに入所評価基準を定め、申込者の点数で順番を決めています。この基準に、認知症の行動を加点する項目を持つ自治体があります。
福岡市の特別養護老人ホームの入所評価基準では、本人の状況の欄に「認知症度」があり、「認知症行動がほぼ毎日」が10点、「認知症行動が週1~2回程度」が5点です。同じ表の要介護度は要介護5で30点、要介護3で20点なので、認知症の行動の10点は小さくない重みを持っています。行動が多いほど点数が上がる作りです。
つまり暴言・暴力があることは、特養の申込では優先度を上げる要素として扱われる場合があります。一方で足立区のように、認知症の受け入れに全施設共通の線を引く自治体もあります。同じ「特養」でも、自治体によって扱いが逆に近いところまで違います。まず自分の市区町村の入所評価基準を取り寄せ、認知症の欄の配点を確かめます。
福岡市の基準には但し書きもあります。「要介護1・2の申込者については、特例入所の要件に該当しなければ、点数が高い場合であっても、優先順位名簿に登載することはできない」という一文です。要介護1か2の場合は、点数の話より先に、特例入所の要件に当たるかどうかを市区町村へ確かめます。
出典: 足立区 特別養護老人ホーム医療的ケア等の取扱いについて
グループホームは、5人から9人の少人数で、なじみの職員となじみの入居者と暮らす施設です。
環境の変化が少なく、認知症のある人が落ち着いて過ごしやすい作りです。認知症チームケア推進加算の対象でもあるので、BPSDの予防に取り組む施設かどうかが加算の届出で分かります。
ただし介護保険法が「急性の状態にある者を除く」と定めているため、症状が激しい時期の入居は制度の想定の外にあります。精神科での治療と薬の調整で落ち着いてからが、グループホームの出番です。
退去を言われたグループホームでも、落ち着いた後に戻れることがあります。この点は次の章で扱います。
介護付き有料老人ホームは、施設ごとに受け入れの幅が大きく違います。見分ける目印は2つです。
認知症専門ケア加算は、専門的な認知症ケアを行った場合に付く加算です。指定特定施設(介護付き有料老人ホーム)では(Ⅰ)が1日3単位、(Ⅱ)が1日4単位で、1単位はおおむね10円なので、金額としては小さい加算です。それでも、都道府県へ届出をして算定している施設は、認知症のある入居者を日常的に受けている施設だと分かります。
もう1つ、探すときに知っておくと迷わないことがあります。介護付き有料老人ホームは、認知症チームケア推進加算の対象の外にあります。対象は特養、地域密着型特養、老健、介護医療院、グループホームの5つです。介護付きを見るときは、認知症専門ケア加算の欄だけを見ます。
重要事項説明書の加算の欄と、協力医療機関の欄に精神科があるかを確かめます。
出典: 厚生労働省 指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準(平成12年厚生省告示第19号)
「暴力があったから退去」は、そのままでは通りにくい求めです。退去は契約書の解除条項に沿って行われ、その条項には「通常の接遇方法等ではこれを防止することができない」といった要件が付いています。この章では、退去を言われたときに確かめることを次の順で見ていきます。
順に説明します。
施設側からの退去は、契約書に書かれた条件に当てはまる場合に限られます。
厚生労働省の有料老人ホームの設置運営標準指導指針は、入居契約書について次のように定めています。
入居契約書に定める設置者の契約解除の条件は、信頼関係を著しく害する場合に限るなど入居者の権利を不当に狭めるものとなっていないこと。また、入居者、設置者双方の契約解除条項を入居契約書上定めておくこと。
国が都道府県へ示している指針の水準が、この一文です。「他の入居者が怖がっている」「職員が対応に疲れている」は、それだけでは契約書の条件に当てはまりにくい理由になります。
退去を言われたら、最初に契約書の「契約解除」の条項を開きます。そこに何が書いてあり、今の状態がそのどれに当たるのかを、施設に説明してもらいます。口頭の申し入れと契約書の条文が食い違っている例は実際にあります。
出典: 厚生労働省 有料老人ホームの設置運営標準指導指針(老発1206第2号・令和6年12月6日最終改正)
契約書の解除条項は、危害が起きたことだけでは足りない書き方になっているのが通例です。
さいたま市が有料老人ホームの事業者へ示している標準入居契約書は、事業者からの契約解除を第29条に定めています。解除できるのは、次の各号のいずれかに当たり、かつ契約を将来にわたって維持することが社会通念上著しく困難と認められる場合です。その第四号が、暴力に関する条項です。
入居者の行動が、他の入居者又は職員の生命に危害を及ぼし、又はその危害の切迫したおそれがあり、かつ施設における通常の接遇方法等ではこれを防止することができないとき
大事なのは後半の「施設における通常の接遇方法等ではこれを防止することができない」です。施設が解除を求めるには、対応を変えても防げなかったことを示す必要があります。声のかけ方の工夫、場面の調整、医療との連携を試さないまま「暴力があった」だけで解除するのは、この要件から外れます。
家族の側からは「どういう対応を試して、どのように防げなかったのか」を記録で説明してもらうよう頼みます。この問いかけが、退去を止める第一歩です。契約書の文言は施設ごとに違うので、手元の契約書で同じ趣旨の条文を探して読み比べます。
出典: さいたま市 住宅型有料老人ホーム標準入居契約書(様式)
解除には手続きが決まっていて、時間の余裕も定められています。
同じ標準入居契約書は、事業者から解除するときに次の3つを書面で行うことを定めています。
一 契約解除の通告について90日の勧告期間をおく
二 前号の通告に先立って入居者及び身元引受人等に弁明の機会を設ける
三 解除勧告の予告期間中に入居者の移転先の有無について確認し、移転先がない場合には入居者や身元引受人等と協議し、移転先の確保に協力する。
さらに、他の入居者や職員への危害を理由に解除する場合は、これに加えて「医師の意見を聴く」「一定の観察期間をおく」の2つを書面で行うことになっています。医師の意見を聴く手続きが要るということは、退去の話が出た時点で、医療の側から意見を示す余地が残っているという意味でもあります。
つまり「来週までに出てほしい」という求めは、この手続きの途中を飛ばしています。手元の契約書を開いて、予告期間が何日か、その間の入居を続けられるか、行き先探しにどう協力してもらえるかの3つを、その場で確かめます。
有料老人ホームの契約の相談先は、都道府県や市区町村の有料老人ホームの担当課です。グループホームは市区町村が指定する施設なので、介護保険課が窓口になります。
出典: さいたま市 住宅型有料老人ホーム標準入居契約書(様式)
退去を止める手立ては、暴力の原因を見直し、施設に落ち着く見込みを示すことです。
認知症疾患医療センターや精神科で、痛み・便秘・脱水・感染といった身体の要因と薬の副作用を除き、必要なら薬を調整します。前の章で見たとおり、これはガイドラインが治療の前に置いている手順そのものです。施設に対しても「思いつきで受診を入れた」ではなく「標準の手順を踏んでいる」と伝えられます。
施設への伝え方
「精神科の受診を入れます。薬の見直しの結果が出るまで、退去の判断を待ってもらえませんか」。医療の後ろ盾ができると分かれば、退去の判断を保留する施設があります。受診の予約日と、結果が出るおよその時期を添えると、施設は待つ期間を見通せます。
症状が激しい場合は、精神科病院への一時的な入院を挟み、落ち着いたら戻る約束を施設と取り付ける方法があります。次の章で、その入院が何をする期間なのかを説明します。
グループホームには、退去の求めを持ち込める公の場があります。運営推進会議です。
指定地域密着型サービス基準は、利用者、家族、地域住民の代表者、市区町村の職員、地域包括支援センターの職員などで構成する会議を第34条第1項に定め、第108条でグループホームに準用したうえで、開催の間隔を「六月」から「二月」に読み替えています。つまり、おおむね2か月に1回開かれます。事業者はこの会議に活動状況を報告し、評価を受け、要望や助言を聴く機会を設ける決まりで、その記録の作成と公表も求められています。
有料老人ホームの場合は、都道府県や市区町村の有料老人ホームの担当課が指導の窓口です。設置運営標準指導指針に照らして、契約解除の条件が適正かを確かめてもらえます。
相談先を知っているだけで、施設との話し合いの空気が変わります。一人で抱えないための窓口として、この2つを覚えておくと安心です。
出典: e-Gov法令検索 指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第34号)
精神科は預ける場所というより、暴力の原因を見直し、施設が受け入れられる状態と体制を作る場所です。この章では、次の順で説明します。
最初の2つは、入院しない場合にも当てはまります。
BPSDへの対応は、薬を足すことより先に、原因を引き算するところから始まります。
BPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版)の治療アルゴリズムは、非薬物的介入を最優先したうえで、次の確認要件を挙げています。
BPSD様症状を引き起こしうるような身体的原因はない。(特に、感染症、脱水、各種の痛み、便秘、視覚・聴覚障害等)
服用中の薬物と関係がない。
薬のほうは、具体名まで挙がっています。ガイドラインは、BPSDに似た症状を引き起こしうる薬剤として、抗認知症薬、H2ブロッカー、第一世代抗ヒスタミン薬、ベンゾジアゼピン系薬剤、三環系抗うつ薬、プレガバリン、ミロガバリンベシル酸塩、トラマドール塩酸塩、その他の抗コリン作用のある薬剤などを並べています。認知症の薬そのものや、痛み・しびれの薬、眠るための薬が並んでいるところが要点です。
暴言や暴力が出る前に、便秘が続いていないか、どこか痛がっていないか、水分が足りているか、新しい薬が増えていないかを見ます。そのうえで、かかりつけ医に「暴力の原因になる身体の問題や薬がないか、BPSDのガイドラインに沿って見てほしい」と頼みます。この一手だけで症状が減ることがあります。
出典: 厚生労働省 認知症関連ガイドライン(かかりつけ医・認知症サポート医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン 第3版)
各都道府県・指定都市が指定する認知症疾患医療センターは、原因の見直しを専門に引き受ける機関です。
厚生労働省は、その役割を次のように説明しています。
認知症疾患医療センターは、認知症の速やかな鑑別診断や、行動・心理症状(BPSD)と身体合併症に対する急性期医療、専門医療相談、関係機関との連携、研修会の開催等の役割を担います。
ここで受ける鑑別診断が効いてきます。ガイドラインは、レビー小体型認知症について「幻視や妄想を起こしやすいが、抗精神病薬への過敏性が認められるため、安易に抗精神病薬を使用しない」としています。原因の病気が違えば、選べる薬と避ける薬が変わるということです。同じ「暴言・暴力」でも、診断がついてはじめて手が決まります。
センターは全国に514か所あります(令和7年11月現在)。かかりつけ医からの紹介で受診し、専門医療相談の窓口も持っています。施設の一覧を出す機関ではありませんが、地域包括支援センターやケアマネジャーへつなぐ相談先として使えます。
出典: 厚生労働省 主な認知症施策について(認知症疾患医療センター)
出典: 厚生労働省 認知症関連ガイドライン(かかりつけ医・認知症サポート医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン 第3版)
閉じ込められる、薬漬けになるという不安には、調査の数字が答えになります。
認知症介護研究・研修仙台センターが公開している家族向けの資料は、BPSDの治療を目的に認知症専門医のいる精神科病院へ入院した人の家族へアンケートを行い、あわせて協力した病院での治療や入院期間を調べたものです。
| 調べた項目 | 結果 |
|---|---|
| 入院の原因となったBPSD | 興奮・暴力が69% |
| 平均入院期間 | 144日(家から入院し家へ退院した人は66日) |
| 入院中の行動制限(隔離・身体拘束) | 2割・平均10日間 |
| 精神科の治療薬の量 | 入院時を100とすると退院時は95 |
| 退院先 | 家から入院した人の7割は家へ/施設や病院から入院した人はいずれも施設か病院へ |
この資料は回答数を示していないため、小規模な調査として読みます。それでも、入院が薬を増やす場所というより、原因を見直して薬を整理する期間になっている様子は見えます。薬の量が入院時100に対して退院時95というのは、増やす前提の入院ではないという意味です。行動制限も入院した人の2割で、平均10日間でした。
気をつけたいのは退院先です。施設や病院から入院した人の退院先は、いずれも施設か病院でした。入院してから戻り先を探すのではなく、入院の前に「落ち着いたらどこへ戻るのか」を決めておくことが要ります。前の章で書いた「落ち着いたら戻る」約束を、入院の前に施設と交わしておく理由がここにあります。
出典: 認知症介護研究・研修仙台センター 介護されているご家族の方へ〜認知症の精神症状、行動症状(BPSD)による入院治療〜
抗精神病薬は、使い始めた時点で減らす時期まで決まっている薬です。
BPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版)は、抗精神病薬の留意点に次のように書いています。
常に減量・中止が可能かを検討し、長期使用は避ける。抗精神病薬でBPSDが軽快した場合には、投与開始4ヶ月以内に減量・中止を試みる。
同じ留意点には「抗精神病薬の併用(2剤以上)は避ける」もあります。薬漬けという不安への答えは、この4か月と1剤です。薬で落ち着いた状態を作り、その間に環境と対応を整え、薬を減らしていく。この流れが標準の手順です。
施設へ移った後も、主治医に4か月を目安に減量を試みる方針かどうかを確かめます。減量の時期に症状が戻ることがあるので、施設と主治医が直接連絡を取り合える体制を、移る前に作っておきます。
出典: 厚生労働省 認知症関連ガイドライン(かかりつけ医・認知症サポート医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン 第3版)
入院中に、退院先の施設と病院とで戻る条件を決めておきます。
この調整を担うのは、病院の精神保健福祉士(ソーシャルワーカー)です。決めるのは4つです。
この4つが書面で施設に渡ると、施設は対応の手順を組める相手として受け入れを判断できます。「退院したので戻ります」だけでは、施設は前と同じ不安を抱えたままです。入院前に暴力を見ていた職員が、そのまま働いています。
書面は、家族から頼んではじめて作られることもあります。「この4つを紙にしてもらえますか」と精神保健福祉士へ伝えます。
退院後に施設へ医療の後ろ盾を持ち込む中心は、精神科の医師による訪問診療です。
ここは思い違いが多いところなので、先に整理します。精神科訪問看護は、要介護認定を受けている人については使える場面が限られます。厚生労働省の給付調整の通知は、要介護被保険者等について訪問看護療養費を算定できる例外の1つに「精神科訪問看護基本療養費が算定される指定訪問看護を行う場合」を挙げたうえで、そこへ「認知症でない患者に指定訪問看護を行う場合に限る」という条件を付けています。医療機関から出す精神科訪問看護・指導料についても、同じ通知が「認知症が主傷病である患者(精神科在宅患者支援管理料を算定する者を除く。)については算定できない」と定めています。認知症が主な病名で要介護認定を受けている人の場合、施設に入る看護は、原則として介護保険の訪問看護のほうになります。
一方、精神科の医師の訪問診療は医療保険で行えます。同じ通知は、特別養護老人ホームの入居者について在宅患者訪問診療料を原則として算定できないと定めていますが、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、グループホームでは訪問診療を入れられます。施設にとっては、症状が動いたときにその場で相談できる医師がいることが受け入れの決め手になります。
施設に確かめるのは次の2つです。
「精神科の訪問診療を月1回入れます」と伝えられると、施設の答えが変わります。ここまでを整えてから電話をかけると、断りの理由が減ります。
出典: 厚生労働省 医療保険と介護保険の給付調整に関する留意事項及び医療保険と介護保険の相互に関連する事項等について(令和8年3月27日 老老発0327第2号・保医発0327第4号)
探す順番を変えると、断られる回数が減ります。この章では、次の順で説明します。
上から順に進めると、電話をかける段階で候補が絞れています。
最初にやることは、施設探しより、かかりつけ医と認知症疾患医療センターでの原因の見直しです。
身体の要因と薬の除外、鑑別診断、必要なら薬の調整。ここで症状が減れば、受け入れる施設の幅が一気に広がります。順番を入れ替えるだけで、同じ施設が違う答えを返します。
あわせて、精神科の主治医を持ちます。問い合わせで「精神科の主治医がいて、月1回受診しています」と言えるかどうかで、施設の受け取り方が変わります。施設が求めているのは、何かあったときに相談できる医師がいることです。
この段階を飛ばして施設へ電話をかけると、「暴力があります」の一言で断られ、疲れだけが残ります。断られた記録が増えると、家族の側も次の電話をかけにくくなります。
施設の受け入れ体制は、介護保険の加算で見分けられます。認知症に関わる加算は2つです。
どちらも重要事項説明書の加算の欄に載っています。ここで知っておくと役に立つのが、この2つを同じ月に両方は算定できないという決まりです。厚生労働省の告示は、認知症専門ケア加算を算定している場合は認知症チームケア推進加算を算定せず、その逆も同じだと定めています。両方が並んでいる施設を探しても意味はないので、どちらか一方が付いていればそれが今の体制だと読みます。
認知症チームケア推進加算のほうは、令和6年度にできた新しい加算で、中身が具体的です。厚生労働省の通知は、対象になる入所者を「日常生活自立度のランクⅡ、Ⅲ、Ⅳ又はMに該当する入所者等」とし、施設に対しては、研修を修了した職員を1名以上置いて複数の介護職員でチームを組むこと、対象者1人につき月1回以上のカンファレンスを開いてBPSDの評価とケア計画の見直しを行うことを求めています。研修は(Ⅰ)が認知症介護指導者養成研修と認知症チームケア推進研修の両方、(Ⅱ)が認知症介護実践リーダー研修と認知症チームケア推進研修の両方です。
だから見学のときは「認知症チームケア推進加算を算定していますか」「対象の方のカンファレンスはどのくらいの頻度で開いていますか」と聞けます。紹介センターや検索サイトの「認知症対応可」は施設の自己申告で、加算の届出とは別のものです。加算で絞ってから問い合わせると、無駄な電話が減ります。
出典: 厚生労働省 指定施設サービス等に要する費用の額の算定に関する基準(平成12年厚生省告示第21号)
出典: 厚生労働省 介護保険最新情報Vol.1228 認知症チームケア推進加算に関する実施上の留意事項等について
特養の入所申込書には、認知症の状態や行動を書く欄があります。
加点する自治体では、この欄が順番を左右します。福岡市の例のように「ほぼ毎日」と「週1〜2回程度」で配点が変わるので、「ほぼ毎日、暴言や叩く行為がある」なら、そのとおりに書きます。控えめに書くと点数が下がります。恥ずかしさや遠慮で丸めたくなる欄ですが、ここは事実をそのまま書く欄です。
ケアマネジャーの意見書が添付される自治体も多いので、ケアマネにも「行動の頻度を正確に書いてほしい」と伝えます。家族が見ている場面と、デイサービスで出ている場面が違うこともあるため、両方を伝えます。
ただし、受け入れの可否は施設ごとに判断されます。申込の点数が高くても、施設が集団生活は難しいと判断すれば入所は見送られます。申込と並行して、原因の見直しと精神科との連携を進めておくことが、施設の判断の場面で効いてきます。
自分で一軒ずつ電話をかけるより、施設探しを仕事にしている人に頼むほうが早く進みます。
精神科病院へ入院した場合は、病院の精神保健福祉士が退院先を探します。地域の施設がどこまで受けているかを知っていて、施設との調整も引き受けます。入院中は、この人が探し方の中心になります。
認知症疾患医療センターは、専門医療相談と関係機関との連携を役割に持っています。施設の一覧を出す機関ではありませんが、地域包括支援センターやケアマネジャーへつなぐ入り口として使えます。地域包括支援センターとケアマネジャーは、暴力のある人を受け入れた実績のある施設を知っていることがあります。
これらの人へ頼むときは、条件を具体的に伝えます。「他の入居者に手が出る人を受け入れた実績のある施設」「精神科の訪問診療を入れている施設」と言えば、候補の出方が変わります。
出典: 厚生労働省 主な認知症施策について(認知症疾患医療センター)
施設へ問い合わせるときは、「暴力があります」の代わりに、次の5つを伝えます。
この5つがそろっていると、施設はその場で対応の手順を思い描けます。逆に、病名と「暴力があります」だけでは、施設は最も重い状態を想定して断ります。伝える情報の量が、そのまま答えの違いになります。
紙に書き出して、電話の前に手元へ置いておきます。同じ内容を同じ順番で複数の施設へ伝えると、返ってきた答えを並べて比べられます。
あわせて、施設へ聞き返す質問も用意しておきます。「今、行動・心理症状のある方は何人いますか」「その方たちにどう対応していますか」。この2つの答え方で、施設の経験の深さが分かります。
いちばん重いのは、断られる理由が暴力そのものではないという点です。足立区の一覧は全体の案内で「他者への暴力・集団生活が困難な方」の受け入れができないと書いていますが、施設ごとの欄を読むと「他者への暴力行為がある場合要相談」が並びます。線は施設ごとに引かれていて、その線を動かすのは、暴力の原因が分かっていることと、落ち着く見込みを医療が裏づけていることです。
次の一歩は、施設へ電話をかける前に、かかりつけ医へ「暴力の原因になる身体の問題や薬がないか、BPSDのガイドラインに沿って見てほしい」と頼むことです。ガイドラインが治療の前に置いている手順で、便秘、痛み、脱水、感染、そして飲んでいる薬を確かめます。ここを飛ばして施設探しから始めると、「暴力があります」だけを伝える電話を何十本もかけ、断られた記録だけが積み上がります。
原因の見直しが進んだら、認知症チームケア推進加算や認知症専門ケア加算の届出で候補を絞り、協力医療機関に精神科があるかを確かめます。介護のあんしんでは、認知症の暴言・暴力がある方の施設探しも含めて、老人ホーム探しで悩むあなたに信頼できる情報を提供しています。