※1999年創業の会社が運営する「シニアのあんしん相談室」よりサービス提供を受けております。

親の介護と仕事の両立が苦しくなると、辞めて自分で見た方が安く済むのではという考えが浮かびます。
ところが、辞めて減る収入と、施設に入れたときに子が出す額は、たいてい別々に語られたままです。同じ表に並べてみると、桁がひとつ変わる場合があります。
減る収入の出し方、子の持ち出しの出し方、働きながら支える場合の費用と限界、3つの選択肢を同じ表で比べる手順、そして決める順番を並べます。
介護のために仕事を辞めたときの損失は、辞めている間の年収に加えて3つあります。
復職した後の年収の差、厚生年金の減少、退職金の減少が、一生の形で続きます。
総務省の令和4年就業構造基本調査では、「介護・看護のため」に過去1年間に前職を離職した人は10.6万人でした。一方、介護をしている人は629万人で、そのうち有業者は365万人います。働きながら介護をしている人の方が多い形です。
| 減る項目 | 出し方 | 読者が入れる値 |
|---|---|---|
| 離職中の年収 | 今の年収 × 離職する年数 | 年収・離職年数の見込み |
| 復職後の年収差 | (今の年収 − 復職後の年収) × 定年までの年数 | 復職後の年収の見込み・定年までの年数 |
| 厚生年金の減少 | 止まった加入月数分の年金額 × 受給年数 | 平均標準報酬額・止まる月数 |
| 退職金の減少 | 勤続年数が短くなる分 | 会社の退職金規程 |
離職の損失は、4つに分けて足します。
1つ目は、辞めている間に入らなくなる年収です。今の年収に離職する年数を掛けます。2つ目は、復職した後の年収の差です。介護を終えて再就職しても、年収は以前より下がる場合があります。その差に定年までの年数を掛けます。
3つ目は厚生年金の減少で、加入が止まった月数で決まります。4つ目は退職金の減少です。勤続年数で額が決まる会社では、辞めた時点で計算され、定年まで勤めた場合との差が出ます。
これに加えて、会社が半分を負担していた社会保険料が、離職中は国民年金と国民健康保険の全額自己負担に変わります。
出典: 日本年金機構 国民年金保険料
厚生年金は、会社員として働いている間だけ加入します。離職すると加入が止まり、その月数の分だけ将来の老齢厚生年金が減ります。
老齢厚生年金の報酬比例部分は、平成15年4月以降の期間について、平均標準報酬額に5.481/1000を掛け、さらに加入月数を掛けて計算します。5年間離職すると、60か月分が一生の年金額から抜けた形になります。
離職中は国民年金に加入し直し、保険料(令和8年度は月額17,920円)を自分で払います。未納のままだと老齢基礎年金も減ります。
減る額の目安は、年金事務所の窓口やねんきんネットの試算で確かめられます。離職を考え始めた時点で、この数字を先に取っておきます。
出典: 日本年金機構 国民年金保険料
離職の損失は、介護が続く期間で決まります。1年で終わると考えて辞めた人が、5年続いて貯金を使い切る形が、よくある失敗です。
生命保険文化センターの2024(令和6)年度「生命保険に関する全国実態調査」では、介護を行った期間の平均は55.0か月、4年7か月でした。4年を超えて介護した人は約4割です。
自分の親の見込みは、年齢、要介護度、持病から、主治医と担当のケアマネジャーに聞きます。「あと何年」とは言い切れなくても、要介護度が上がる速さや在宅で見られる期間の見通しは伝えてもらえます。
比較の表の「期間」には、この見込みか平均の4年7か月を入れます。短く見積もると、離職の損失が小さく見えます。
出典: 生命保険文化センター 介護にはどれくらいの費用・期間がかかる?
施設の費用と離職の損失を比べるとき、比べる相手は施設の月額そのものより、子の持ち出しです。
施設の費用は親の年金と貯金が先で、子が出すのは足りない分だけです。
子の持ち出し = 施設の月額 − 親の年金の月額 − 制度で戻る分
親の年金が月14万円で、施設の月額が18万円なら、子が出すのは月4万円です。18万円と自分の年収を比べると、判断を誤ります。施設の費用を誰が払うかの原則は有料老人ホームの費用は誰が払う?で扱っています。
施設の月額は、候補の施設の料金表にある家賃、管理費、食費、介護費、自費サービスを足した額です。生命保険文化センターの調査では施設で介護した場合の費用は月平均13.8万円ですが、実際は施設と要介護度で変わります。相場と料金表の読み方は月々の予算で視野に入る老人ホームにまとめています。
その月額から、親の年金の月額を引きます。
さらに、介護保険の利用者負担が所得に応じた上限を超えた分は、高額介護サービス費として市区町村への申請で戻ります。要介護度が高いほど戻る額が大きく、実質の月額は請求額より小さくなります。目安は老人ホームの費用が払えないとどうなる?で扱っています。
残った額が、子が出す不足額です。親の年金の額によっては月数万円に収まり、離職の損失とは桁が変わります。
出典: 生命保険文化センター 介護にはどれくらいの費用・期間がかかる?
出典: 厚生労働省 介護サービス情報公表システム サービスにかかる利用料
不足額が出たら、親の貯金をその額で割ります。親の貯金が240万円で不足額が月4万円なら60か月、5年です。介護期間の見込みが5年なら、子が出す額はゼロに近くなります。
親の年金の月額は、2か月ごとの振込額を2で割って出します。年金は偶数月の15日に前の2か月分がまとめて振り込まれるので、通帳の1回分をそのまま月額にすると2倍に見えます。
入居一時金や引っ越しの費用も親の貯金から出すので、その分もつ月数は短くなります。
この計算で、子が出し始める時期が「いつか分からない」から「何か月後」に変わります。離職の判断は、その時期が来るまで先送りできます。親の貯金を知らないまま比べると、施設だけが高く見えます。
施設に入れても、子の時間は3つ残ります。
1つ目は面会で、施設に通う時間と交通費がかかります。2つ目は通院の付き添いで、施設の職員が付き添う場合と、有料か家族に頼む場合があります。3つ目は施設との連絡で、体調の変化、費用の相談、ケアプランの見直しの面談があります。
この3つは、仕事を続けながらこなせる範囲に収まります。介護休暇は1年度に5日(対象家族が2人以上なら10日)まで、1日未満の単位でも取れるので、有給休暇と組み合わせれば平日の通院にも当てられます。
在宅の「毎日の介護」と、施設の「週に数時間の関わり」の差が、働き続けられるかどうかの差になります。
働きながら在宅で支える選択肢は、施設より月額が安く見えます。
ただし、家族の時間を費用に入れ、在宅の限界の線を知った上で比べる必要があります。
| 両立支援の手段 | 内容 | 細部 |
|---|---|---|
| 介護休業 | 対象家族1人につき通算93日・3回まで分割。給付金は休業開始時賃金日額の67% | 2073へ |
| 介護休暇 | 1年度に5日(対象家族2人以上は10日)・1日未満の単位で取れる | 2073へ |
| 所定労働時間の短縮等の措置 | 利用開始から連続する3年以上の期間で2回以上使える | 2073へ |
| 所定外労働と深夜業の制限 | 請求すれば残業と深夜業が免除される | 2073へ |
| 介護のためのテレワーク | 事業主の努力義務(2025年4月から) | 2073へ |
制度の要件と会社への伝え方は介護で仕事を辞めるとどうなる?で扱っています。
出典: e-Gov法令検索 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律
在宅の費用は4つに分かれます。
1つ目は、介護保険のサービスの自己負担です。デイサービスや訪問介護などを要介護度ごとの区分支給限度基準額(要介護1で月167,650円、要介護5で月362,170円)の中で使い、かかった費用の1割(所得により2割か3割)を払います。2つ目は、限度額を超えて使った分で、全額自己負担です。3つ目は配食や見守りなどの自費のサービスです。在宅の介護費用は月平均5.3万円(生命保険文化センター)で、内訳は在宅介護の費用はなぜ増える?で扱っています。
4つ目が、家族の時間です。残業ができなくなる分の収入減、休日を介護に使う分、有給休暇の消費を数字にして足します。ここを入れずに「在宅は月5万円で済む」と比べると、判断を誤ります。
出典: 厚生労働省 介護サービス情報公表システム サービスにかかる利用料
出典: 生命保険文化センター 介護にはどれくらいの費用・期間がかかる?
介護休業は、対象家族1人につき通算93日まで、3回に分けて取れます。この93日は、自分で介護をする期間より、介護の体制を作る期間として設計されています。厚生労働省は、令和6年改正の案内資料で次のように説明しています。
「介護休業制度」は介護の体制を構築するため一定期間休業する場合に対応するもの
体制作りとは、要介護認定の申請、ケアマネジャーの選定、ケアプランの作成、在宅サービスの開始、施設の見学と申込です。これを93日で済ませて復職するのが、制度の想定です。
「93日だけ自分で介護して、その後は辞める」使い方が、最も損をする形です。辞めた後も体制作りに追われます。
介護休業中は、雇用保険から休業開始時賃金日額の67%にあたる介護休業給付金が出ます。この期間に、施設か在宅サービスかを決めます。
働きながらの在宅介護には、続けられる線があります。この線を越えると、在宅の費用は「安い」の外に出ます。
線になるのは3つです。1つ目は夜間の介護で、排泄の介助や徘徊の見守りが毎晩になると、家族の睡眠が削れて仕事に響きます。2つ目は認知症の見守りで、火の元や外出の心配から目が離せなくなると、日中のデイサービスだけでは足りなくなります。3つ目は医療処置で、たん吸引や経管栄養が要ると、家族だけで24時間は続きにくくなります。
このほか、転倒が続く、ショートステイの空きが取れない、家族の体調が崩れる、も線になります。
線を越えているかは、地域包括支援センターとケアマネジャーに正直な状況を伝えて判断を頼みます。「まだ頑張れる」と家族が抱えると、離職に追い込まれます。
比べる選択肢は3つです。A 離職して在宅で介護する、B 働きながら在宅サービスを使う、C 働きながら施設に入れる。
この3つを同じ行で比べます。
| 行 | A 離職して在宅 | B 働きながら在宅 | C 働きながら施設 |
|---|---|---|---|
| 子の収入の減少(4項目) | 大きい | 残業減の分 | 面会分の有給など |
| 介護の費用(月額×期間) | 在宅サービスの自己負担 | 在宅サービスの自己負担 | 施設の不足額 |
| 家族の時間 | 毎日 | 平日の朝夕と休日 | 週に数時間 |
| 親の貯金の減り方 | 在宅サービス分 | 在宅サービス分 | 施設の月額分 |
| 期間 | 介護期間の見込み | 同じ | 同じ |
数字はすべて読者が自分の家庭の値を入れます。記事の中のモデルケースは仮定の値です。
Aは、仕事を辞めて自分で介護する形です。子の収入の減少が最も大きく、介護の費用は在宅サービスの分だけです。
Bは、働き続けながら、デイサービスやショートステイなどの在宅サービスを使う形です。両立支援の制度を使う前提で、子の収入の減少は残業ができない分などに限られます。
Cは、働き続けながら、親を施設に入れる形です。子の収入の減少は面会や通院で使う有給休暇の分などで、介護の費用は施設の不足額です。
「AかC」の二択で悩む家庭が多いのですが、Bを含めた三択にすると、Bで続けられる期間と、Bの限界を越えたらCに移る順番が見えてきます。
表の行は5つです。
1行目は子の収入の減少で、離職で減る4項目を足した額です。2行目は介護の費用で、在宅なら在宅サービスの自己負担、施設なら不足額です。3行目は家族の時間で、数字にしにくければ「毎日」「平日の朝夕」「週に数時間」の言葉で並べます。4行目は親の貯金の減り方、5行目は介護期間の見込みです。
1行目、2行目、4行目に期間を掛けて、合計を出します。
モデルケース(すべて仮定の値です)
入力値: 50歳、年収500万円、親の年金が月14万円、施設の月額が18万円、在宅サービスの自己負担が月5万円、介護期間5年(60か月)
計算の順序: ①離職の年収減 = 年収 × 離職年数 → 500万円 × 5年 = 2,500万円(復職後の年収差と年金の減少が別に加わります)
②Bの介護費用 = 在宅サービスの月額 × 月数 → 5万円 × 60か月 = 300万円
③Cの不足額 = (施設の月額 − 親の年金) × 月数 → (18万円 − 14万円) × 60か月 = 240万円
自分の家庭に置き換える式: ①今の年収 × 離職年数 ②在宅サービスの月額 × 介護月数 ③(施設の月額 − 親の年金の月額 − 高額介護サービス費で戻る分) × 介護月数
実額の確認先: 年収は源泉徴収票、親の年金は年金振込通知書、施設の月額は候補の施設の料金表、在宅サービスの自己負担はケアマネジャーの作るケアプランの利用票
比較の表で最も多い間違いは、親の貯金で払える分を、子の損失として数えることです。
施設の月額18万円のうち、親の年金14万円で払える分は、子の財布の外から出ていきます。親の貯金から出す一時金も同じです。これを子の損失に混ぜると、Cの施設が「月18万円×60か月で1,080万円」に見え、Aの離職より高く感じられます。
親の資産の行は「親の貯金がいつ尽きるか」を見るための行で、子の損失の行とは別に扱います。親の貯金が尽きた後に子が出す分だけが、子の損失に加わります。
モデルケースで親の貯金が240万円あれば、Cの子の持ち出しは5年間ゼロです。この整理で、離職の損失2,500万円と施設の不足額0円から240万円を、同じ物差しで比べられます。
離職は最後の選択肢です。
決める順番は、介護休業で体制を作る、会社の両立支援を使う、施設と在宅の費用を比べる、それでも続かないときだけ離職を考える、の順です。
決める順番の例
最初にするのは介護休業の取得です。93日を使って、要介護認定、ケアマネジャー、ケアプラン、在宅サービス、施設の見学と申込を進めます。
次に、復職して会社の両立支援を使います。短時間勤務、時差出勤、テレワーク、介護休暇を組み合わせて、在宅サービスの隙間を埋めます。2025年4月からは、介護に直面したと申し出た従業員に、会社が制度の内容と申出先、介護休業給付金を個別に知らせ、利用の意向を確認する義務があります。40歳に達した年度などに同じ内容を情報提供する義務も加わりました。「制度が無い」と言われたときの相談先は介護で仕事を辞めるとどうなる?で扱っています。
その上で、3つの選択肢の表を作って比べます。離職を考えるのは、両立支援を使っても在宅の限界を越え、施設にも入れられないと分かったときだけです。
出典: e-Gov法令検索 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律
表ができたら、5つの基準で決めます。
1つ目は、親の資産で施設の不足額が何年もつかです。介護期間の見込みより長ければ、施設は子の負担なしで成り立ちます。2つ目は、自分の老後資金と年金が離職で足りなくなるかです。3つ目は介護期間の見込みで、平均は55.0か月、4年7か月です。長いほど離職の損失が大きくなります。
4つ目は在宅の限界で、夜間、認知症、医療処置の線を越えているかです。越えていれば在宅の選択肢は外れます。5つ目は復職の見込みで、年齢、職種、会社の再雇用の制度から、同じ水準で戻れるかを見ます。
1つ目と4つ目で施設の可否が決まり、2つ目と5つ目で離職の可否が決まります。
出典: 生命保険文化センター 介護にはどれくらいの費用・期間がかかる?
それでも離職を選ぶ場合は、期限と条件を先に決めます。
「6か月以内に施設が決まらなければ復職する」「要介護4になったら施設に移す」「親の貯金が決めておいた額を切ったら施設に申し込む」のように、離職を終える条件を書いておきます。期限のない離職が、老後資金を崩す最も多い原因です。
期限を決めたら、ハローワークで介護休業給付金や失業給付の扱いを確かめ、国民年金と国民健康保険の手続きをします。細部は介護で仕事を辞めるとどうなる?で扱っています。
離職の前に、地域包括支援センターとケアマネジャーに「辞めようと思っている」と伝えます。在宅サービスの増やし方や施設の空きなど、辞めずに済む手を一緒に探してもらえます。
いちばん重い答えは、比べる相手は施設の月額より子の持ち出しだ、という一行です。施設の費用は親の年金と貯金が先に充てられ、子が出すのは足りない分だけです。親の年金が月14万円で施設が月18万円なら、比べる数字は月4万円のほうです。この一行で、離職の損失と施設の費用の大小が入れ替わる家庭があります。
次の一歩は、親の年金の月額と貯金の残高を確かめ、候補の施設の料金表から不足額を出して、親の貯金がもつ月数を割り算で出すことです。ここを飛ばすと、施設の月額だけが目に入り、辞めた方が安いという判断のまま介護休業の93日が過ぎ、体制が整わないうちに退職届を出すことになります。
不足額と月数が出たら、離職で減る4項目を足して、3つの選択肢を同じ表に並べましょう。介護のあんしんでは、介護離職の前に費用を比べる手順も含めて、老人ホーム探しで悩むあなたに信頼できる情報を提供しています。