※1999年創業の会社が運営する「シニアのあんしん相談室」よりサービス提供を受けております。

施設が10年後も続いているかを、確実に当てる方法はありません。決算書を読んでも、規模を見ても、当たらないものは当たりません。
だからこの記事は、当てにいきません。扱うのは、続かなかったときに備えて、契約前に確かめられる金銭の部分だけです。
そのうえで、最初に一つ、外したい思い込みがあります。500万円は「必ず戻る額」ではありません。厚生労働省の告示が保全の最低水準を計算するために置いた数字であって、上限でも、一律の保証額でもありません。
この記事の手順が当たるのは、老人福祉法上の有料老人ホームで、前払金を受け取る契約です。介護付き、住宅型、健康型のどれであっても、前払金を受け取る契約なら同じ手順が当たります。
※ 特別養護老人ホームなどの介護保険施設は、同法が定める有料老人ホームの定義から外れるため、この前払金の保全の規定の対象ではありません。
サービス付き高齢者向け住宅として登録されている住まいも、食事の提供や介護等を行うものは、老人福祉法上の有料老人ホームに当たることがあります。だから登録の名前で切り分けず、前払金が何の対価として支払われるかで見ます。判断がつかないときは、重要事項説明書に前払金と保全措置の記載があるかを確かめます。
なお、当サイトは介護施設を運営している事業者ではありません。だから、契約の中身について正面から書ける立場にあります。
500万円は、事業者が最低限いくら保全すべきかを計算するために置かれた数字です。
老人福祉法は、終身にわたって受領すべき家賃等の全部または一部を前払金として一括して受領する設置者に対し、算定の基礎を書面で明示すること、返還債務に備えて必要な保全措置を講じることを義務づけています。
言えるのはここまでです。義務があることと、実際にお金が戻ってくることは同じではありません。だから「法律が必ず守ってくれる」とは書きません。
次が金額の話になります。厚生労働省の告示は、保全金額を次のように定めています。
「前払金のうち、あらかじめ契約で定めた予定償却期間のうち残存する期間に係る額または五百万円のいずれか低い方の金額以上の金額」
要点は「以上」です。これは下限であって、上限ではありません。厚生労働省の告示は、事業者が500万円を超えて保全することを妨げていません。
法文の言い方も、そのまま覚えておいたほうが確実です。「あらかじめ契約で定めた予定償却期間のうち残存する期間に係る額」とは、契約で決めた償却の期間のうち、まだ経過していない分に相当する額のことです。
これを「未償却残高」と言い換えないほうが確実です。会計上の概念に寄ってしまい、契約で定めた期間を基準にするという法文の意味から離れるからです。
そもそも償却とは、払った前払金が、あらかじめ決めた期間をかけて少しずつ施設の取り分になっていく仕組みのことをいいます。だから時間が経つほど、まだ施設の取り分になっていない額は減っていきます。返還の対象になりうるのは、この残りの部分です。
対象になる「前払金」の範囲も広いところです。老人福祉法施行規則は、家賃または施設の利用料と、介護・食事の提供その他の日常生活上必要な便宜の供与の対価として収受する全ての費用(敷金を除く)と定めており、名称は問いません。
決まるのは名称ではなく、何の対価として受け取ったかです。入居一時金、介護一時金、協力金、入会金。名前が違っても、それだけで対象から外れるとは限りません。だからこそ、このあと前払金のどの部分が対象になっているかを、書面で確かめにいきます。
老人福祉法と厚生労働省の告示にもとづいて整理すると、前払金にまつわる金額は5つに分かれます。
| # | 金額 | 意味 |
|---|---|---|
| 1 | 前払金総額 | 契約時に支払う総額 |
| 2 | 残存期間対応額 | 契約で定めた予定償却期間のうち、まだ経過していない期間に対応する額 |
| 3 | 法定最低保全額 | 2と500万円の低いほう以上 |
| 4 | 実際の保全額 | 施設が保証・保険・信託等で実際に設定している額 |
| 5 | 実際の返還・回収額 | 契約、返還債務、保全契約、請求手続、事実経過により決まる額 |
この5つは一致しません。とくに3を5と読み替えないことが、この記事でいちばん大事なところです。法令が事業者に求めている最低水準と、自分の手元に戻ってくる額は、別のものです。
数字を入れて、一度だけ通しておきます。仮に前払金が1,000万円、契約で定めた予定償却期間が5年で、入居から1年が経ったところだとします。残っているのは4年分なので、残存期間対応額は800万円になります。
ここで事業者が法定の最低水準だけを保全している契約だとすると、法定最低保全額は500万円になり、800万円のうち500万円を超える部分は、保全契約の対象外となる可能性があります。ただしこの言い方でも、「実際に戻らない」とまでは言えません。これは仮の例であって、実際の契約から取ったものではありません。
逆向きも成り立ちます。500万円を超えて保全されている場合もあります。また、前払金総額が1,000万円でも、契約上の残存期間対応額が500万円未満なら、法定の最低額はその低いほうになります。
つまり、前払金の総額だけでは保全額は計算できません。だから、用意する書面から確かめにいきます。
用意する書面は3つあります。重要事項説明書。入居契約書と返還金算定表。そして、保全契約の内容が分かる書面です。
3つ必要なのは、5つの金額がひとつの書類には載っていないからです。どの書面から何が埋まるかを、先に対応させておきます。
| 書面 | ここから埋まる金額 |
|---|---|
| 重要事項説明書 | 1の前払金総額と、その算定の基礎。保全措置の方式と保全先 |
| 入居契約書と返還金算定表 | 2を出すための償却の期間と、返還金の算定の方式 |
| 保全契約の内容が分かる書面 | 4の実際の保全額と、対象になる範囲 |
3の法定最低保全額は、2が出れば自分で計算できます。5は契約と事実の経過で決まるため、契約前には確定しません。だから契約前に埋めにいくのは、1・2・4の3つになります。
重要事項説明書には、入居希望者への事前の情報開示について書く欄があります。国の様式では「入居希望者等への事前の情報開示」という名前ですが、自治体の様式では名前が違うことがあります。名前で探すより、財務諸表の原本や要旨、事業収支計画書、管理規程、入居契約書の雛形を公開するかどうかを書いている欄、と中身で探すほうが早く済みます。
ここは、会計の知識がなくても使えます。中身が読めなくても、開示すると書いてあるかどうかは誰でも判定できます。
冒頭で触れた施設の種類の判定も、この書類で行います。欄の名前ではなく、施設の種類が書かれている箇所と、前払金と保全措置についての記載があるかどうかを見ます。
重要事項説明書そのものの読み方は、別の記事で扱っています。
関連記事:介護付有料老人ホームの重要事項説明書で、見学の前に比べる三か所
書面が手元に届いたら、次は施設へ文書で聞きます。
文書で聞く項目は6つに絞れます。保全先の名称だけでは、金額も範囲も分かりません。銀行名や保証会社の名前は、いくらを、どこまで、いつの時点で保全しているのかを何も語りません。
聞く前に、ひとつ前提を置きます。保全措置には複数の方式があります。銀行等への連帯保証委託契約、保証保険契約、入居者を受益者とする信託契約、都道府県知事が認める一般社団法人等との保全契約です。方式が違えば、発動の条件も請求の手順も変わります。
だから聞きます。聞くことと、それによって何を確かめているかを、対にして並べます。
| 聞くこと | 確かめていること |
|---|---|
| 契約時点の実際の保全額はいくらか | 5つの金額のうち、4番目が実際にいくらか |
| 前払金のどの部分が保全の対象か | 払う総額のうち、対象に入らない部分があるか |
| 保全額はいつ、どのように更新されるか | 年月が経つと対象額がどう動くか |
| どの事態で保証や信託が発動するか | お金が実際に動き出す引き金は何か |
| 入居者や相続人が請求する手順は何か | 誰が、どこへ、何を出せば受け取れるか |
| 事業譲渡・休止・廃止のとき、保全契約と返還債務をどう扱うか | 運営会社が変わっても、この約束が続くか |
言葉を2つ、先に説明しておきます。「発動」とは、保証や信託の仕組みが実際に使われて、返還にあてられることをいいます。回答に「受益者」「被保証人」という語が出てきたら、受け取る側として名前が書かれているのは誰かと読み替えれば足ります。
返ってきた回答の読み方も決めておきます。答えになっている回答は、金額・対象範囲・時点の3つが埋まっているものです。
答えになっていない回答は、保全先の名称や「法令に基づき保全しています」という一般論だけで、金額も範囲も時点も埋まらないものです。この場合は、埋まっていない項目を名指しして、もう一度聞きます。
6つを一度に頼むなら、次の一文をそのまま写して使えば足ります。
契約前に、現在の保全額、保全の対象範囲、発動の条件、事業譲渡・廃止時の取扱いを、書面でご提示ください。
運営の終了は、倒産だけではありません。休廃業も、運営主体の変更もあり得ます。だから6つ目の質問が要ります。
ここで、確認できた範囲を正直にお伝えします。確認した標準指導指針では、廃止・休止時の転居先の確保を定めた記述を確認できませんでした。老人福祉法は、廃止・休止をその日の1か月前までに都道府県知事へ届け出ることを定めています。
確認できなかったのは、この1つの指針の中でのことです。そこから「入居者を守る仕組みが制度上どこにもない」と広げることはできません。だから、契約書と保全契約の側で確かめます。
支払方式そのものの比べ方は、次に扱います。
比べ方は1つで足ります。同じ想定入居期間で、総額を両方式で並べます。期間を合わせずに比べても、答えは出ません。
そして、ここでやることは、総額を計算することではありません。比較に必要な数字を、施設から集めるところまでです。前払金の総額と償却の期間、月額の費用、契約時に差し引かれる額、そして月払い方式の初期費用の有無です。
この比べ方を使うときの条件を3つ添えておきます。
まず、前払金のリスクだけで支払方式を決めないでください。言えるのは「前払金を支払わない契約なら、前払金の返還不能というリスクは生じない」という限定までです。総額で不利になる選び方は、これとは別に起こります。
次に、「月払い方式」という名称でも、契約時にまとまった初期費用がないとは限りません。敷金や別名目の前払金が置かれていることがあるので、初期費用の有無は先に確認します。
最後に、月払いにしても、施設が止まれば転居も、環境の変化も、受入先探しも、追加の費用も残ります。支払方式を変えても、経営を当てなくてよくなるわけではありません。
契約時に差し引かれる額がある場合は、名称ではなく、金額・算定の根拠・返還の対象になるかを確認します。
なお、損益の分かれ目や月額改定まで含めた本格的な比較は、この記事では扱いません。月額の側を費目ごとに分けて見積もる手順は、別の記事で扱っています。
関連記事:老人ホームの月額を四つに分け、重度化と入院に備えて三枚の見積りを用意する手順
最後に、倒産の件数をどう扱うかを決めておきます。
倒産の件数は、契約書面を確かめる理由の背景として一度見ておけば足ります。
東京商工リサーチの調査では、2025年に有料老人ホームに分類された倒産は16件でした。休廃業・解散は、別の調査で23件と集計されています。
この2つは調査も数え方も別なので、どちらが多いかを比べる数字ではありません。そして、どちらも全国の施設数で割って発生率にすることはできません。事業者を数えたのか施設を数えたのかが同じではなく、倒産のあとも営業を続けた施設をどう数えるかも決まっていないからです。
だから使い方は「多い」「少ない」ではありません。ゼロではないから、契約を確かめます。それ以上でも以下でもありません。
件数は判断材料になりません。判断材料になるのは、手元の契約書面のほうです。
ここまでの手順には入らないが、知っておくと迷わないこと
保全義務の適用時期には経過措置があり、令和3年4月1日以降の新規入居者が法的義務の対象になっています。これから入居する場合は、この対象に入ります。
標準指導指針は、貸借対照表および損益計算書またはそれらの要旨について、入居者および入居希望者の求めに応じて閲覧に供することを求めています。これは閲覧を求める根拠になります。ただし、法的に強制できる請求の仕組みとは別のものです。
法人の種別によって、財務情報をネットで確認できる範囲は異なります。ただし、公開の方法の違いは、そのまま経営の安全性の違いを意味しません。法人全体の財務と、個別の施設が続くかどうかも同じではありません。規模と継続性の関係を示す公的な材料は、見つかりませんでした。
保全先の名称だけで判断しません。実際の保全額と返還の条件を、文書で確認します。不明なまま高額の前払金を払いません。
やることは3つに絞れます。重要事項説明書、入居契約書、返還金算定表を用意します。実際の保全額・対象範囲・発動条件を書面で回答してもらいます。一時金方式と月払い方式を比べるために必要な数字を、施設から集めます。
続くかどうかは当てられません。ただ、いくらが保全されているかは、契約の前に書面で確かめられます。