インスリン注射があっても老人ホームに入れる?受け入れ条件と看護師配置の見方

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親がインスリン注射をしています。老人ホームを探して検索サイトで「インスリン対応」に絞ると候補が一気に減り、電話をすると「ご自分で打てる方なら」「朝の注射は看護師がおりませんので」と言われる。そこで手が止まった方に向けて書いています。

入れるかどうかを決めるのは、病名でも血糖値の高さでもなく、「自分で打てるか」「注射の時刻に看護師がいるか」「1日に何回打つか」の3つです。

そして、この3つは施設を探し回る前に、主治医との相談で動かせることがあります。断られる理由、施設の種類ごとの違い、受け入れてもらう方法、入居前の確認点の順に説明します。

インスリン注射があっても老人ホームに入れる条件

施設が最初に聞くのは「ご自分で打てますか」「1日何回、何時に打ちますか」の2つです。病名やHbA1cの値は、そのあとに聞かれます。この2つの答えで、入れる施設の範囲がほぼ決まります。

分かれ目は次の4つです。

  • 自分で注射を打てる人は多くの施設で受け入れられる
  • 自分で打てない人は注射の時刻に看護師がいる施設に限られる
  • 朝食前の注射があると受け入れ先が大きく減る
  • 注射が1日1回なら受け入れ先が広がる

全国有料老人ホーム協会が2021年に行った設置者アンケートでは、インスリンの自己注射が困難な入居者に退去を求め、自己注射が困難な入居希望者の入居を断ると答えた施設が22%でした。裏を返せば、約8割の施設は条件次第で受け入れています。この数字は、日本IDDMネットワークが2024年に厚生労働大臣へ出した要望書が引用したものです。「入れない」ではなく「条件の合う施設を探す」問題として考えてください。

出典: 日本IDDMネットワーク 介護施設などでの介護職員によるインスリン療法の実施についての要望

出典: 全国有料老人ホーム協会 【調査】インスリン注射を必要とする入居者に関する状況調査

自分で注射を打てる人は多くの施設で受け入れられる

インスリンのペン型注射器を自分で操作でき、打つ時刻を自分で守れる人は、看護師の勤務時間に関係なく受け入れる施設が多くあります。

施設が担うのは「打ち忘れがないか」「単位数が合っているか」を確かめる役目で、これは介護職員でもできます。厚生労働省が2022年12月1日に出した通知(医政発1201第4号)は、介護職員が行ってよい行為として次を挙げました。

あらかじめ医師から指示されたタイミングでの実施の声かけ、見守り、未使用の注射器等の患者への手渡し、使い終わった注射器の片付け(注射器の針を抜き、処分する行為を除く。)及び記録を行うこと

つまり、自分で打てる人は「介護職員が見守れる人」として扱われます。認知症が軽く、手が動く人は、この形で入居できます。

出典: 厚生労働省 医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(その2)

自分で打てない人は注射の時刻に看護師がいる施設に限られる

注射を打つ行為そのものは医行為で、施設では看護師の持ち場です。

医師法第17条は「医師でなければ、医業をなしてはならない。」と定めています。注射は医行為にあたり、施設で行えるのは医師と、医師の指示を受けた看護師です。2022年12月の通知が介護職員に認めたのも、声かけ・見守り・注射器の手渡し・片付け・記録と、血糖値や単位数の確認までです。注射する行為は、いまも医師と看護師の持ち場のままです。

ですから、自分で打てない人が入れるのは、注射の時刻に施設の看護師か訪問看護師がいる施設です。「看護師がいる施設」では足りず、「その時刻にいる」が条件になります。

介護付き有料老人ホームは看護職員の配置が義務ですが、勤務は日中が中心の施設が多くあります。住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅は、外部の訪問看護を注射の時刻に入れる形をとります。どちらにしても、注射の時刻と看護師がいる時間を重ねられるかが分かれ目です。

出典: e-Gov法令検索 医師法 第17条

出典: 厚生労働省 医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(その2)

朝食前の注射があると受け入れ先が大きく減る

最大の壁は朝です。

日本IDDMネットワークが2024年6月に厚生労働大臣へ出した要望書は、看護師の勤務と注射の時刻の関係を次のように書いています。

施設によっては常勤の看護師が配置されているところもありますが、有料老人ホームなど看護師が24時間常駐していない場合は深夜や朝食前の早朝などの対応ができないことになります。

朝食前の注射は、看護師が出勤する前の時間帯に当たります。夜勤か宿直の看護職員がいる施設か、早出の看護師を置く施設ではじめて、朝の注射が成り立ちます。

逆に、注射の時刻が昼や夕方なら、日中の看護師で対応できます。朝の注射を動かせるかどうかは、受け入れてもらう方法の章で扱います。

出典: 日本IDDMネットワーク 介護施設などでの介護職員によるインスリン療法の実施についての要望

注射が1日1回なら受け入れ先が広がる

注射の回数も、入れる施設の数を左右します。

1日3〜4回(毎食前と眠前)の注射は、看護師が一日中いる施設でようやく担えます。1日1回の持効型溶解インスリンなら、看護師の勤務時間内に1回打てば済むので、対応できる施設が増えます。日本糖尿病学会の一覧表でも、持効型溶解インスリンは1日1回の製剤として並んでいます。

1型糖尿病で毎食前の注射が欠かせない人は、夜勤の看護職員がいる施設か、訪問看護を1日に複数回入れられる住宅型有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅が候補になります。

2型糖尿病で1日1〜2回の人は、回数と時刻を主治医と相談することで、選べる施設の数が変わります。

出典: 日本糖尿病学会 インスリン製剤、GLP-1受容体作動薬 一覧表

インスリン注射で老人ホームの入居を断られる理由

断られる理由は、打てる職種が限られること、その職種がいる時間帯が限られること、低血糖という急変があること、この3つに集約されます。病状の重さよりも、施設側の体制で決まっています。

施設側の事情は次の5つです。

  • インスリン注射は医行為で介護職員が打てないから
  • 看護師が朝食前と夜間にいない施設が多いから
  • 低血糖の急変を介護職員だけでは判断しにくいから
  • 認知症の打ち忘れや二重打ちを施設が防ぎきれないから
  • 有料老人ホームの2割は自己注射困難を断る方針だから

順に、なぜそうなるのかを説明します。

インスリン注射は医行為で介護職員が打てないから

施設が「医療行為は行いません」と言うのは、職員に法律違反をさせないためです。

医師法第17条は「医師でなければ、医業をなしてはならない。」と定めています。厚生労働省は2005年7月26日の通知(医政発第0726005号)で原則として医行為ではない行為を列挙し、2022年12月1日の通知(医政発1201第4号)でその範囲を広げてきました。2022年の通知で加わったのは、声かけ・見守り・注射器の手渡し・片付け・記録と、血糖値や単位数の確認までです。インスリンを注射する行為は、医行為のまま残りました。

施設は、職員に違法な行為をさせないために「医療行為は行わない」と線を引きます。全国有料老人ホーム協会のアンケートでも、断る理由として「看護師不在」「ホームでは医療行為を行わない」が挙がっていました。

出典: e-Gov法令検索 医師法 第17条

出典: 厚生労働省 医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)

出典: 厚生労働省 医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(その2)

出典: 日本IDDMネットワーク 介護施設などでの介護職員によるインスリン療法の実施についての要望

看護師が朝食前と夜間にいない施設が多いから

人員基準が求めているのは施設全体の看護職員の人数までで、何時に誰がいるかは施設ごとの勤務の組み方で決まります。

介護付き有料老人ホームの根拠は、指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)第175条です。看護職員の数は、利用者が30人までなら常勤換算で1人以上、30人を超えると、超えた分の50人ごとに1人ずつ加わります。この人数では、看護師の勤務時間はおのずと日中に寄ります。

特別養護老人ホームも同じで、指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第39号)第2条が定めるのは入所者数に応じた看護職員の人数です。住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅にいたっては、看護師を置くかどうかが施設の判断になります。

インスリンの注射は食前です。朝食前の7時台や眠前の21時台は、看護師の勤務時間から外れやすい時間帯にあたります。施設が「朝の注射は難しい」と言うのは、この勤務の組み方のためです。

出典: e-Gov法令検索 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準 第175条

出典: e-Gov法令検索 指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準 第2条

低血糖の急変を介護職員だけでは判断しにくいから

施設がインスリンで最も恐れるのは、注射そのものより低血糖です。

高齢者の低血糖は、気づきにくい形で現れます。糖尿病情報センターは、高齢者では「汗をかく」「ドキドキする」「手がふるえる」といった症状がはっきり出ず、「頭がくらくらする」「目がかすむ」「ろれつが回らない」「元気がない」などの典型的でない低血糖症状が出るため、低血糖が見逃されやすいと説明しています。ふだんの様子との違いとしてしか現れないので、気づけるかどうかは見る人の経験によります。

血糖を測るために指先へ針を刺す操作は、介護職員の持ち場の外にあります。2022年の通知が介護職員に認めたのは、本人が測った血糖値の確認と、持続血糖測定器のセンサーの貼付や測定値の読み取りまででした。夜間に介護職員だけの施設では、「様子がおかしい」と思っても、低血糖かどうかを確かめる手段が限られます。施設が夜の体制を気にするのは、この急変への備えのためです。

出典: 糖尿病情報センター 高齢者と糖尿病

出典: 厚生労働省 医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(その2)

認知症の打ち忘れや二重打ちを施設が防ぎきれないから

「自分で打てます」という申告は、入居した後に変わります。

全国有料老人ホーム協会は、2021年の調査への協力を求める文書で「有料老人ホームでインスリン注射を必要とするご入居者のうち、加齢や認知症になられることなどにより、自己注射が困難になるケースが散見されます」と書いています。施設は、この変化を入居前から見込んでいます。

施設が抱える心配

「自己注射できる」と聞いて受け入れた入居者が、半年後に打ったかどうか分からなくなる。看護師のいない夕方に、介護職員が「打ちましたか」と聞いても「打った」と答える。この状態を看護師なしで抱えることを、施設は入居前から想定しています。

打ち忘れと二重打ちを見分ける手立ては、2022年の通知にあります。介護職員は「患者が準備したインスリン注射器の目盛りが、あらかじめ医師から指示されたインスリンの単位数と合っているかを読み取ること」ができ、使い終わった注射器の片付けと記録もできます。この記録があれば、打ったかどうかを後から確かめられます。施設がこの通知を知っているかどうかで、返ってくる答えが変わります。

出典: 全国有料老人ホーム協会 【調査】インスリン注射を必要とする入居者に関する状況調査

出典: 厚生労働省 医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(その2)

有料老人ホームの2割は自己注射困難を断る方針だから

数字で見ると、断る方針の施設は5軒に1軒です。

全国有料老人ホーム協会が2021年6月から8月にかけて全国の有料老人ホームの設置者へ行ったアンケートでは、インスリンの自己注射が困難な入居者に退去を求め、自己注射が困難な入居希望者の入居を断ると答えた施設が22%でした。一方で、事前の教育やトレーニングなどの条件が整えば、介護職員へインスリン注射の業務を広げることに「賛成」と答えた施設は60%にのぼりました。この調査は日本IDDMネットワークの求めに応じて協会が会員のホームへ行ったもので、結果の数字は同ネットワークの要望書に引用されています。

条件が整えば受け入れたいと考える施設のほうが多い、ということです。断る側にあるのは、職員に違法な行為をさせられないことと、看護師を24時間置く費用が重いことという、体制の問題です。

探す側にとって、この数字は目安になります。5軒に1軒は最初から対象外、残る4軒は条件次第です。電話で断られたときは「体制が合わなかった」と受け取り、次の施設へ進んでください。

出典: 日本IDDMネットワーク 介護施設などでの介護職員によるインスリン療法の実施についての要望

出典: 全国有料老人ホーム協会 【調査】インスリン注射を必要とする入居者に関する状況調査

老人ホームの種類によるインスリン対応の違い

種類で違うのは、看護師が施設の職員としているか、外から入るか、いないかです。これが、注射の時刻をどこまで自由に組めるかを決めます。サービス付き高齢者向け住宅は、以下「サ高住」と書きます。

種類看護師の配置夜間注射を担う人外部の訪問看護
介護付き有料老人ホーム義務あり(日中が中心)夜間看護体制加算(Ⅰ)のある施設は夜勤か宿直の看護職員あり施設の看護師介護保険では対象外
住宅型有料老人ホーム施設の判断施設による訪問看護師介護保険で使える
サ高住施設の判断施設による訪問看護師介護保険で使える
特別養護老人ホーム義務あり(日中が中心)電話で呼び出す形が多い施設の看護師原則として対象外
グループホーム施設の判断介護職員のみ本人(自己注射)医療連携体制加算のある施設は看護師を確保

以下、上の種類を順に説明します。

介護付き有料老人ホームは日中の看護師が注射を担う

介護付き有料老人ホームでは、注射は施設の看護師が担います。

介護付きは、介護保険の「特定施設入居者生活介護」の指定を受けた施設です。指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準第175条が看護職員の配置を義務づけており、利用者が30人までなら常勤換算で1人以上、30人を超えると超えた分の50人ごとに1人ずつ加わります。

ただし、介護付きでは外部の訪問看護を介護保険で使う組み方が対象外です。厚生省老人保健福祉局企画課長通知(老企第40号)は、特定施設入居者生活介護費を算定した月について「当該居宅サービス及び地域密着型サービスに係る介護給付費(居宅療養管理指導費を除く。)は算定しないものであること」と定めています。注射は施設の看護師で完結させることになり、その看護師がいる時間帯が、そのまま注射に使える時刻です。

介護付きを候補にするなら、「看護師は何時から何時までいますか」「その時間に注射を打ってもらえますか」の2つを、最初に聞いてください。

出典: e-Gov法令検索 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準 第175条

出典: 全国老人保健施設協会 法令検索 老企第40号 4の(1)①

夜間看護体制加算のある介護付きは夜勤の看護師がいる

夜も看護職員がいる介護付きは、加算の名前で見分けられます。

2024年度の介護報酬改定で、特定施設入居者生活介護の夜間看護体制加算が2つの区分に分かれました。新しく設けられた夜間看護体制加算(Ⅰ)は「夜勤又は宿直を行う看護職員の数が1名以上であって、かつ、必要に応じて健康上の管理等を行う体制を確保していること」を要件のひとつとし、1日18単位です。従来からの区分は夜間看護体制加算(Ⅱ)となり、看護職員によるか、病院・診療所・訪問看護ステーションとの連携により24時間連絡できる体制を求める内容で、1日9単位に変わりました。

つまり、(Ⅰ)は夜に看護職員が施設にいる印、(Ⅱ)は夜に連絡がつく体制がある印です。朝食前や眠前の注射を頼めるのは、(Ⅰ)を算定している施設です。

電話の前にできる見分け方

施設の重要事項説明書には、算定している加算の一覧が載っています。「夜間看護体制加算(Ⅰ)」が入っていれば、夜勤か宿直の看護職員がいる施設です。検索サイトの「インスリン対応」の表示より、確かな目印になります。

出典: 札幌市 令和6年度介護報酬改定 特定施設入居者生活介護等における夜間看護体制の強化

住宅型とサ高住は訪問看護を注射の時刻に入れられる

住宅型有料老人ホームとサ高住では、外部の訪問看護を注射の時刻に呼べます。

この2つは、施設そのものの看護師配置が施設の判断です。その代わり、入居者が外部の訪問看護ステーションと契約し、介護保険で訪問看護を使えます。訪問看護には20分未満の区分があり、訪問看護ステーションの場合は2024年度から314単位です。

ただし、この区分には条件が付きます。厚生労働省の留意事項通知(老企第36号)は、20分未満の訪問看護を「短時間かつ頻回な医療処置等が必要な利用者」に対するものと位置づけ、20分未満だけを設定する計画は適切ではないとして、20分以上の保健師または看護師による訪問看護を週1回以上含めることを求めています。あわせて、24時間対応できる事業所として緊急時訪問看護加算を届け出ていることも要件です。

同じ通知は、前回の訪問からおおむね2時間未満の間隔で訪問看護を行う場合は所要時間を合算すると定めたうえで、20分未満の訪問看護費を算定する場合をその例外としています。朝と夕の2回のように短い訪問を分けて組めるのは、この例外があるためです。

夜間の見守りは介護職員だけになる施設が多いので、低血糖への備えは別に確かめてください。

出典: 横須賀市 令和6年度介護報酬改定説明(訪問看護)

出典: 全国老人保健施設協会 法令検索 老企第36号 訪問看護費

特別養護老人ホームは看護師が日中だけで朝の注射が難しい

特養は費用を抑えられる一方で、朝の注射に対応できる施設が限られます。

指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準第2条が定めているのは、入所者30人までなら常勤換算で1人以上、30人を超えて50人までなら2人以上というように、施設全体の看護職員の人数です。時間帯ごとの配置は施設の勤務の組み方によるため、夜は介護職員が勤務し、看護師には電話で連絡する形をとる施設が多くなります。

日中1回の注射なら、対応できる特養もあります。申込のときに「注射は1日1回、昼です」と伝えられる形にしておくと、相談が進みやすくなります。

自己注射ができるかどうかも、あわせて伝えてください。看護職員の人数に対して入所者が多いので、注射を看護師が担う前提だと、受け入れの相談は難しくなります。

出典: e-Gov法令検索 指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準 第2条

グループホームは看護師の配置がなく自己注射が前提になる

グループホームでインスリンを続けるには、自己注射ができることが前提になります。

指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第34号)第90条が認知症対応型共同生活介護に定めているのは、介護従業者の人数です。看護職員の配置は、この基準の外にあります。

医療連携体制加算を算定している施設は、職員としてか、病院・診療所・訪問看護ステーションとの連携により看護師を1名以上確保し、24時間連絡できる体制をとっています。ただし、この加算が求めるのは看護師の確保と連絡体制です。注射の時刻に看護師が来るかどうかは、施設ごとに確かめる話になります。

見分けの手がかりが、もうひとつあります。医療連携体制加算(Ⅱ)は、医療的なケアが必要な入居者を受け入れた実績を評価する区分で、その項目のひとつにインスリン注射があります。厚生労働省のQ&Aは、この要件について「利用者自身がインスリン自己注射を行うための声掛けや見守り等のサポートを行った場合は算定できない」としています。(Ⅱ)を算定している施設は、看護師が行う医療的なケアを受け入れた実績を持つ施設です。

出典: e-Gov法令検索 指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準 第90条

出典: 厚生労働省 厚生労働大臣が定める施設基準(平成27年厚生労働省告示第96号)

出典: 厚生労働省 介護保険最新情報Vol.1225 令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.1)

自己注射ができない場合に受け入れてもらう方法

施設を探し回る前に、主治医へ相談してほしいことがあります。「注射の時刻と回数を、施設の看護師の勤務に合わせて変えられないか」です。

高齢者では、血糖の目標そのものが年齢や心身の状態で変わります。日本老年医学会と日本糖尿病学会が2016年に示した目標は、次のとおりです。

高齢者の状態目標HbA1c(インスリンなど重症低血糖が危惧される薬剤を使う場合)
カテゴリーⅠ(認知機能正常でADL自立)65歳以上75歳未満は7.5%未満(下限6.5%)/75歳以上は8.0%未満(下限7.0%)
カテゴリーⅡ(軽度認知障害から軽度認知症、または手段的ADL低下)8.0%未満(下限7.0%)
カテゴリーⅢ(中等度以上の認知症、または基本的ADL低下、または多くの併存疾患や機能障害)8.5%未満(下限7.5%)

高齢者糖尿病診療ガイドライン2023は、臨床的な判断としてカテゴリーⅢを「要介護に相当する患者」と置き換えることも想定される、と書いています。老人ホームを探す段階の人は、カテゴリーⅡかⅢに当たることが多くなります。目標を主治医と確かめるところから、話が始まります。

出典: 日本老年医学会 高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)

出典: 日本老年医学会 高齢者糖尿病診療ガイドライン2023 Ⅵ 高齢者糖尿病の血糖コントロール目標・治療方針

主治医に注射の時刻を看護師の勤務内へ動かせるか相談する

最初の一手は、施設探しではなく主治医への相談です。

1日1回の持効型溶解インスリンは、毎日同じ時刻に打つ薬です。その「同じ時刻」を朝から昼や夕方へ移せるかどうかは、本人の血糖の動きを見ている主治医が判断します。移せた場合、「朝は看護師がおりませんので」と断っていた施設が候補に戻ります。

主治医への伝え方

「入居を考えている施設の看護師が9時から18時までいます。注射をその時間に動かせますか」。勤務の時間を具体的に伝えると、主治医は処方を検討しやすくなります。

主治医が知っているのは本人の血糖の動きまでで、施設の勤務は家族が持ち込む情報です。時刻を伝えてはじめて、処方の相談が始まります。探す前にできて、候補の数がいちばん変わる一手です。

出典: 日本糖尿病学会 インスリン製剤、GLP-1受容体作動薬 一覧表

注射の回数を1日1回や週1回に減らせるか相談する

回数を減らせれば、看護師の勤務に合わせやすくなります。

高齢者糖尿病診療ガイドライン2023は、治療を緩める考え方を次のように書いています。

カテゴリー分類における血糖コントロール目標が十分に達成し目標下限値を大幅に下回っている場合,低血糖やポリファーマシーのリスクを勘案し,緩やかな治療への変更(脱強化)や複雑な治療の回避(単純化)により過剰に治療を進めない配慮を要することがある.

具体的な選択肢は3つです。

  • 1日3〜4回の注射を、持効型溶解インスリン1日1回と飲み薬の組み合わせにする
  • 週1回のGLP-1受容体作動薬に切り替える
  • 持効型溶解インスリンとGLP-1受容体作動薬の配合剤にして1日1回にする

日本糖尿病学会の一覧表には、週1回の持効型インスリン製剤も載っています。看護師が週1回打てば済む形になれば、対応できる施設はさらに増えます。

ただし、GLP-1受容体作動薬はインスリンそのものとは違います。糖尿病情報センターは、インスリンの分泌が大きく落ちている人が切り替えると血糖が上がることがあるとして、切り替えの直後は血糖値について主治医と密に連絡を取り、こまめに血糖を測るよう促しています。どの薬に変えられるかの判断は、主治医に委ねてください。

出典: 日本老年医学会 高齢者糖尿病診療ガイドライン2023 Ⅵ 高齢者糖尿病の血糖コントロール目標・治療方針

出典: 日本糖尿病学会 インスリン製剤、GLP-1受容体作動薬 一覧表

出典: 糖尿病情報センター インスリン治療をGLP-1受容体作動薬に切り替えた際の高血糖

介護職員ができる声かけと見守りの範囲を施設に示す

「介護職員は何もできません」と言う施設には、通知の番号を伝えてください。

2022年12月1日の厚生労働省通知(医政発1201第4号)は、インスリンの投与と血糖測定について、介護職員が行ってよい行為を次の4つに整理しました。

  • あらかじめ医師から指示されたタイミングでの実施の声かけ、見守り、未使用の注射器等の患者への手渡し、使い終わった注射器の片付け(注射器の針を抜き、処分する行為を除く。)及び記録を行うこと
  • 患者が血糖測定及び血糖値の確認を行った後に、介護職員が、当該血糖値があらかじめ医師から指示されたインスリン注射を実施する血糖値の範囲と合致しているかを確認すること
  • 患者が準備したインスリン注射器の目盛りが、あらかじめ医師から指示されたインスリンの単位数と合っているかを読み取ること
  • 患者への持続血糖測定器のセンサーの貼付や当該測定器の測定値の読み取りといった、血糖値の確認を行うこと

自己注射が「ほぼできる」人は、この支援があれば入居できます。見学のときにこの4つを示して「ここまでお願いできますか」と聞くと、施設の答えが具体的になります。

全国有料老人ホーム協会は、この通知を会員のホームへ周知しています。候補の施設が協会の会員なら、施設側も文書で確かめられます。

出典: 厚生労働省 医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(その2)

出典: 全国有料老人ホーム協会 「医行為に該当しない行為について(通知)」の周知について

持続血糖測定器で夜間の低血糖を見える化する

夜の不安を下げる手立ては、記録に残る血糖です。

腕にセンサーを貼り、かざして血糖の傾向を読み取る「間歇スキャン式持続血糖測定器」を使うと、夜間の血糖の動きが記録に残ります。センサーの貼付と測定値の読み取りは、2022年の通知で介護職員ができる行為に入りました。指先に針を刺さずに済むので、介護職員だけの時間帯でも見守りが成り立ちます。

保険では、血糖自己測定器加算の区分のひとつとして扱われます。医科診療報酬点数表のC150は、間歇スキャン式持続血糖測定器によるものを1,250点とし、「インスリン製剤の自己注射を1日に1回以上行っている入院中の患者以外の患者」に対して使った場合に、3月に3回を限度に加算すると定めています。

主治医に「施設に入るために持続血糖測定器を使いたい」と相談してみてください。施設へ「夜間の低血糖は記録で分かります」と説明する材料になります。

出典: 厚生労働省 医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(その2)

出典: 厚生労働省 別表第一 医科診療報酬点数表 C150 血糖自己測定器加算

住宅型やサ高住なら訪問看護を注射の時刻に組む

介護付きで時刻が合わないときは、住宅型かサ高住で訪問看護を組む形があります。

順番は、ケアマネジャーと訪問看護ステーションへ「注射は朝7時半と夕方17時半」のように、時刻を先に伝えることです。20分未満の訪問看護(314単位)は、20分以上の訪問を週1回以上含む計画の中で組みます。前回の訪問からおおむね2時間未満でも、20分未満の訪問看護費を算定する場合は所要時間を合算せずに済むため、朝と夕に分けて入れられます。

訪問看護ステーションが朝の早い時間帯に回れる件数には限りがあります。入居を決める前に、施設と組んでいる訪問看護ステーションが「その時刻に来られるか」を確かめてください。施設が「訪問看護が使えます」と言った場合も、時刻の枠が空いてはじめて注射が成り立ちます。

出典: 全国老人保健施設協会 法令検索 老企第36号 訪問看護費

出典: 横須賀市 令和6年度介護報酬改定説明(訪問看護)

入居前に施設へ確認する血糖管理の項目

「看護師がいます」の一言から、さらに6つを聞きます。見学のときに持っていける確認表にまとめました。

確認点聞き方
看護師の勤務時間看護師は何時から何時までいますか。土日と夜はどうなりますか
血糖測定誰が、いつ、どの方法で測りますか
低血糖のとき誰が判断し、夜はどこへ連絡しますか
食べられない日主治医と注射の扱いを決めていますか
食事糖尿病食は出せますか。間食はどう扱いますか
できなくなった後自己注射ができなくなったら退去になりますか

順に、なぜその質問が要るのかを説明します。

看護師の勤務時間と注射の時刻が重なるか

「日中に看護師がいます」と言われたら、「何時から何時までですか」と時刻で聞き直してください。

9時から18時なら、担えるのは昼と夕方の注射までです。土日や祝日、夜の体制も、平日の日中とは別に聞きます。

そのうえで、親の注射の時刻(たとえば朝7時半と夕方17時半)を並べて、「この2回を看護師が打てますか」と聞きます。1回でも重ならなければ、その時刻を主治医と動かせるか、訪問看護で埋められるかを考える段階に進みます。

看護師が1人だけの施設では、その人が休む日を誰が代わるのかも聞いておきます。「休みの日はご家族が打ちに来てください」と言われることがあります。

血糖測定を誰がどの方法で行うか

インスリンを打つ前には血糖を測ることが多く、誰が測るかは注射と同じくらい大事です。

指先を針で刺す操作は医行為で、介護職員の持ち場の外にあります。測定器の値を読み取ることや、持続血糖測定器のセンサーを読むことは、2022年の通知で介護職員にも認められました。

「血糖は誰が、いつ、どの方法で測りますか」と聞き、本人が測れない場合に看護師が測る時刻と、注射の時刻が合うかを確かめます。持続血糖測定器を使うなら、施設がその読み取りに慣れているかも聞いておきます。

測定の記録がどこに残り、主治医に届く仕組みがあるかも聞いてください。血糖の記録があってはじめて、主治医は処方を調整できます。

出典: 厚生労働省 医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(その2)

低血糖が起きたとき誰が判断してどこへ連絡するか

低血糖は夜間や早朝に起きやすく、そのとき施設にいるのは介護職員だけという場合がほとんどです。

「元気がない」「ろれつが回らない」に気づいたとき、誰が低血糖と判断し、どう動くかを決めてある施設かどうかを聞きます。具体的には3つです。

  • ブドウ糖や砂糖を居室か詰所に常備しているか
  • 判断を仰ぐ看護師や協力医療機関の夜間の連絡先が決まっているか
  • 救急車を呼ぶ基準があるか

高齢者では低血糖の症状が典型的でなく、見逃されやすいことを、施設の介護職員が知っているかも確かめてください。「低血糖のときはどうしますか」と聞いて即答できる施設は、受け入れの経験があります。

出典: 糖尿病情報センター 高齢者と糖尿病

食べられない日の注射の扱いを主治医と決めているか

風邪や下痢で食事が取れない日(シックデイ)の注射をどうするかは、主治医があらかじめ指示を出しておくものです。

日本糖尿病協会は、シックデイのインスリン注射について「糖尿病のタイプ(1型・2型)や体調の悪さの症状によって異なりますので、主治医に是非、ご相談ください」と案内しています。いつもどおり打てば低血糖に傾き、やめれば高血糖に傾くので、その人に合わせた指示が要ります。

施設には「食べられない日の注射の指示を、主治医からもらっていますか」「そのとき主治医に直接連絡できますか」と聞きます。施設の協力医が糖尿病を診るのか、今の主治医のままなのかで、連絡の経路が変わります。

入居を機に主治医が変わる場合は、今の主治医から新しい医師へ、シックデイの指示を含めた診療情報提供書を書いてもらってください。

出典: 日本糖尿病協会 インスリンQ&A シニア版

糖尿病食と間食の扱いをどうしているか

インスリンの量は食事の量に合わせて決まっています。

施設の食事が今までと大きく違うと、血糖が動きます。「糖尿病食(カロリー指示食)を出せますか」「主治医の指示カロリーに合わせられますか」を聞いてください。

もうひとつは間食です。施設ではおやつの時間があり、他の入居者からの差し入れもあります。低血糖のときの補食は要りますが、それ以外の間食をどう扱うかは、施設ごとに違います。

食事の量が減ったときにインスリンの量をどう調整するか、主治医と施設の看護師が連絡を取り合える体制かも、あわせて聞きます。

自己注射ができなくなったときに退去になるか

いま自分で打てていても、認知症の進行や手のふるえで、いずれ打てなくなる日が来ます。

そのとき施設がどう対応するかを、入居前に聞いておいてください。全国有料老人ホーム協会のアンケートでは、自己注射が困難になった入居者に退去を求めると答えた施設が22%ありました。

重要事項説明書の契約解除の条項に「医療行為が必要になった場合」が入っているかを見ます。入っていれば、「インスリンを看護師が打つ形になったら退去ですか」と具体的に聞きます。

「その場合は訪問看護で対応します」「日中1回なら看護師が打ちます」と答えられる施設なら、長く住めます。この質問への答えが、その施設の本当の受け入れ方針です。

出典: 日本IDDMネットワーク 介護施設などでの介護職員によるインスリン療法の実施についての要望

まとめ:インスリンで入れるかは注射の時刻に看護師がいるかで決まる

入れるかどうかを分けるのは、病名でも血糖値の高さでもなく、注射の時刻に看護師がいるかどうかです。全国有料老人ホーム協会のアンケートで「自己注射が困難なら断る・退去を求める」と答えた施設は22%で、残る約8割は条件次第で受け入れています。断られたのは、親の病状ではなく施設の勤務の組み方が理由です。

次の一歩は、施設へ電話をかける前に、主治医へ「注射の時刻と回数を、施設の看護師の勤務に合わせて動かせますか」と相談することです。ここを飛ばして施設探しから始めると、朝7時半の注射を前提に候補を絞ることになり、条件の合う施設をいくつも取りこぼします。

時刻と回数の見通しが立ったら、候補の施設に「看護師は何時から何時までいますか」「その時間に注射を打ってもらえますか」を聞いてください。介護のあんしんでは、インスリン注射をしている方の老人ホーム探しも含めて、老人ホーム探しで悩むあなたに信頼できる情報を提供しています。