※1999年創業の会社が運営する「シニアのあんしん相談室」よりサービス提供を受けております。

見学まで済ませて候補が2件に絞れても、契約書に判を押す手前でもう一度止まります。夜と早朝の様子だけは、昼の見学では見えないからです。
体験入居は施設の好意で用意されたサービスに見えますが、国の指導指針が、既に開設している有料老人ホームに機会の確保を求めているものです。頼む側は引け目を感じずに申し込めます。
費用が全額自費になる理由、2泊3日を最低線にする理由、夜と早朝と入浴で見るところまで、国の指針と法令で確かめながら順に並べます。
体験入居は、契約の前に数日間そのホームで暮らしてみる仕組みです。厚生労働省の有料老人ホーム設置運営標準指導指針は、「12 契約内容等」の中に体験入居を1つの項目として立てて、次のように書いています。
既に開設されている有料老人ホームにおいては、体験入居を希望する入居希望者に対して、契約締結前に体験入居の機会の確保を図ること。
求められているのは施設の側です。重要事項説明書にも「体験入居の内容」の欄があり、施設は「1 あり(内容)」と「2 なし」から選んで書きます。「なし」の施設には、その理由を聞くところから始めます。
| 費目 | 体験入居の費用に | 決め方 |
|---|---|---|
| 宿泊費(居室の利用料) | 入る | 施設が1泊あたりで決める |
| 食費 | 入る | 1食ごとか1日ごと |
| 介護の自費料金 | 施設による | 介護保険の給付の外なので施設の料金表 |
| 日用品・おむつ | 実費 | 持ち込みか施設で購入 |
| 医療費 | 外 | 受診すれば通常の医療費 |
体験入居の費用は全額が自費で、介護保険の給付の外にあります。
内訳は、居室の宿泊費、食費、介護が必要な人は介護の自費料金、それに日用品の実費です。1泊あたりの額は施設が決めるので、候補の施設の案内書と料金表で確かめます。
申込の前に、体験する日数の総額を書面でもらいます。1泊の額だけ聞いて申し込むと、食費と介護の自費料金が別で、思っていた額の倍になることがあります。
見積もりは、宿泊費・食費・介護の自費料金・その他の4つに分けて出してもらいます。
出典: 厚生労働省 有料老人ホームの設置運営標準指導指針 別紙様式 重要事項説明書
体験入居に介護保険が使えない理由は、体験している人が介護保険の上で「入居者」の外にいるためです。
介護付き有料老人ホームの介護サービスは、介護保険法の「特定施設入居者生活介護」です。法律はこれを、特定施設に入居している要介護者に対して行う介護と定めています。契約の前に泊まる人はここに入らないので、体験中の介護は施設の自費料金になります。
住宅型有料老人ホームでも、費用の形は同じです。体験の間は自宅を離れるので、自宅で受けている訪問介護やデイサービスは組み直しになります。日程が決まったら、担当のケアマネジャーに先に伝えます。
要介護度が高い人ほど、介護の自費料金が体験入居の費用の中心になります。
体験入居の費用を、本入居が決まったときに入居金や初月の費用から差し引く施設があります。すべての施設で行われている扱いとは限らないので、申込の前に聞きます。
聞き方の例
「体験入居の費用は、契約したら入居金か初月の費用から差し引かれますか。差し引かれる場合、その記載は案内書か契約書のどこにありますか」
答えが「はい」なら、案内書か契約書にその記載があるかを確かめます。口頭だけの約束は、担当者が変わると消えます。
「体験入居無料」と案内している施設も、無料なのは宿泊費だけで、食費と介護の自費料金は別のことがあります。無料の範囲を書面で確かめます。
「体験」の名前で泊まれる形には、介護保険が使えるものもあります。体験入居とは別の制度なので、どの制度で請求されるかを申込のときに聞きます。
介護付き有料老人ホームの一部は、短期利用特定施設入居者生活介護として、介護保険のショートステイを受け入れています。厚生労働大臣が定める施設基準は、この形について「利用の開始に当たって、あらかじめ三十日以内の利用期間を定めること」を求めています。特別養護老人ホームや介護老人保健施設のショートステイも介護保険の対象で、どちらもケアマネジャーが居宅サービス計画に組み込んで使います。
体験入居は、契約前の入居希望者が施設と直接契約して泊まる自費の仕組みです。同じ施設に泊まっても、体験入居なら全額自費、ショートステイなら介護保険の1割から3割の自己負担に食費と滞在費が加わる形です。
介護付きのショートステイの仕組みと基準は特養待ちの有料老人ホームつなぎ入居で書いています。
出典: e-Gov法令検索 介護保険法 第8条第9項・第10項・第41条第1項・第49条の2
出典: 厚生労働省 厚生労働大臣が定める施設基準(平成27年3月23日厚生労働省告示第96号)
体験入居の期間は1泊から1週間ほどで、上限は施設が決めます。期間で見えるものが変わります。
| 期間 | 見えるもの |
|---|---|
| 1泊2日 | 夜1回・朝1回・食事3食 |
| 2泊3日 | 2日目の夜・入浴1回・食事6食 |
| 1週間 | 生活の型・他の入居者との関係・職員の交代 |
体験入居の期間は、施設ごとに下限と上限が決まっています。1泊から受ける施設が多く、上限は1週間、2週間、1か月と施設によって違います。
1か月のような長い体験は、有料のショートステイとして別の料金表で請求されることがあります。期間が長いほど、費用の総額と請求の形を先に確かめます。
上限は重要事項説明書の「体験入居の内容」の欄か、施設の案内書に書かれます。記載が見当たらない場合は電話で聞きます。
長さより、見たいものが見える最短の日数を選ぶほうが、判断は正確になります。
出典: 厚生労働省 有料老人ホームの設置運営標準指導指針 別紙様式 重要事項説明書
判断の最低線は2泊3日です。初日の夜は、慣れない部屋で眠りが浅くなる人が多いからです。
初日の夜に眠れなかったことと、その施設が合うかどうかは別の話です。2日目の夜に眠れたか、朝の表情がどう変わったかで判断します。
2泊あれば、入浴を1回入れてもらえます。入浴の介助は、見学では見えない場面です。
3泊以上になると本人の疲れが出て、施設の評価と混ざります。まず2泊3日で見て、迷いが残れば2回目の体験を別の時期に入れます。
体験入居は、空いている居室を使って行います。満室のときは、体験入居の枠も出ない状態になります。
空室待ちをしている施設なら、「空きが出たら体験入居から入りたい」と先に申し込んでおきます。退去が出た直後の部屋は、清掃や修繕に日数がかかります。
枠が取れない時期に候補を決める必要がある場合は、日中だけの体験(昼食とレクリエーションへの参加)を頼みます。居室を使わないので、満室でも受けられることがあります。
年末年始や大型連休の前は希望が重なり、枠が取りにくくなります。
認知症のある本人は、環境の変化に敏感です。知らない部屋で泊まる体験が、逆に不安や混乱を強めることがあります。
宿泊の前に、日中だけの体験を先にします。昼食とレクリエーションの時間に2〜3時間だけ参加し、本人の表情と食事の進みを見ます。落ち着いていられたら、次に1泊、その次に2泊と段階を上げます。
施設には「認知症があるので、まず日中だけの体験は可能ですか」と聞きます。受けてくれる施設は、認知症の人の受け入れに慣れています。
宿泊の体験は、候補が1件に決まってから入れます。複数の施設で重ねると本人の混乱が増え、どの施設の反応かが読み取りにくくなります。
体験入居は、見学の後、契約の前に入れます。申込から本入居の判断までの流れを表にします。
| 順番 | 場面 | すること |
|---|---|---|
| 1 | 見学 | 施設を見て体験入居の可否と費用を聞く |
| 2 | 申込 | 健康情報を渡し日程と居室を決める |
| 3 | 契約 | 体験入居の契約書で費用・キャンセル・事故時の対応を確認 |
| 4 | 入居 | 持ち物を持って入る |
| 5 | 中日の面会 | 家族が本人と職員から話を聞く |
| 6 | 最終日の面談 | 施設と振り返り |
| 7 | 判断 | 本人・家族・施設の三者で本入居を決める |
体験入居は、見学で候補が1〜2件に絞れてから入れます。見学の予約と質問は老人ホーム見学の予約と質問リストで書いています。
申込のとき、施設は本人の健康情報を求めます。要介護度、既往歴、服薬、医療処置、認知症の症状を正確に渡します。お薬手帳と、かかりつけ医の診療情報の写しがあると、施設の看護師が体験中の対応を組めます。
伝えていない状態が体験中に出ると、「聞いていた話と違う」になり、本入居を断られる理由になります。隠して得になる場面はゼロです。
居室は、本入居で使う可能性のある部屋を頼みます。
体験入居にも契約書か申込書があります。見るのは3つです。
1つは費用の総額と内訳が4つに分かれているか。2つはキャンセル料が前日と当日で何%か、本人の体調不良でも同じか。3つは体験中の事故や急変時に、誰が病院へ連れて行き、家族への連絡はいつで、費用は誰が持つか。
契約前に確かめる言い方の例
「体験中に転倒や発熱があったとき、どなたが病院へ連れて行きますか。家族への連絡はどの段階で入りますか。夜間の急変時はどこの病院へ運ばれますか」
事故時の対応まで契約書に書いている施設と、書いていない施設があります。記載が見当たらなければ、口頭で聞いて答えをメモに残します。
体験中に受診した場合の医療費は、施設の費用とは別の通常の医療費です。
持ち物は最小限にします。普段着ている服と靴、薬とお薬手帳、洗面用具、保険証と介護保険証の写しです。
カーテンやじゅうたん、寝具は施設のものを使います。消防法は、政令で定める防火対象物で使うカーテンやじゅうたん等に防炎性能を求めていて、有料老人ホームは消防法施行令の別表第一(6)項に並ぶ社会福祉施設等として、この規制の対象です。家から持ち込んだカーテンを断る施設が多いので、施設が用意するものを使うほうが手間が減ります。
火気、刃物、電気ケトルのような熱を出す家電、現金や貴重品は、施設ごとに制限があります。申込時に持ち込みの決まりを聞きます。
安心につながる物を1つ持たせます。いつも使っている枕や家族の写真が1つあるだけで、初日の夜が違います。
体験入居の間、家族は中日に面会に行きます。2泊3日なら2日目です。
面会では、本人と職員の両方から話を聞きます。本人には「夜は眠れたか」「ご飯はどうだったか」、職員には「夜の様子」「食事の量」「介助で手間がかかった場面」。両方を並べると、本人の言葉だけでは見えなかったことが見えます。
最終日は、施設と振り返りの面談をします。施設側から見た本人の様子、本入居した場合に必要になる介助、費用の見込みを聞きます。
家族は体験中の本人の変化を毎日記録します。
体験入居の後の本入居は、本人と家族に加えて、施設側の判断も入って決まります。
体験入居は、施設にとっては入居前のアセスメント(受け入れの判断)の場です。夜間の様子や介助の手間を見て、「今の体制では受け入れが難しい」と施設から言われることがあります。断られたら理由を聞きます。理由は次の施設を選ぶ材料になります。
本人の「帰りたい」だけで施設を落とさないようにします。初日の「帰りたい」は普通で、2日目以降も続いたかで見ます。
「今の空室は来週まで」と急がされても、「家族で話してから返事をします」と返して持ち帰ります。体験入居の直後は、本人も家族も疲れていて、判断が揺れます。
体験入居で見るのは、見学で見えなかったものだけです。
| 見学で見えるもの | 体験入居でしか見えないもの |
|---|---|
| 昼の食堂・レクリエーション | 夜間のコールの応答と巡回 |
| 居室・浴室の設備 | 早朝の起床から朝食までの流れ |
| 清潔さ・匂い | 入浴の介助 |
| 職員の案内の言葉 | 3食の味と形態の対応 |
| 昼の職員の人数 | 職員の申し送りの精度 |
| 本人の第一印象 | 本人の2日目の変化 |
体験入居でいちばん価値があるのは夜です。重要事項説明書の「夜勤を行う看護・介護職員の人数」の欄には、夜勤帯の設定時間と、看護職員・介護職員の平均人数と最少時人数が書かれます。体験入居は、その人数で夜がどう回っているかを実地で確かめる場です。
見るのは3つです。コールを押してから職員が来るまでの時間。夜間の巡回の回数。夜勤者が部屋に入るときの声のかけ方。
本人には翌朝、「夜に職員さんは何回来てくれたか」「呼んだらすぐ来たか」を聞きます。家族が面会で夜勤者に「昨夜の様子」を聞くと、本人の話と突き合わせられます。
夜間に看護師がいるか、いない時間帯に急変したら誰が判断するかも聞きます。
出典: 厚生労働省 有料老人ホームの設置運営標準指導指針 別紙様式 重要事項説明書
早朝は、職員の人数がいちばん少ないまま、起床介助・排泄介助・朝食の準備が重なる時間です。施設の余裕がいちばん出る場面です。
見るのは、起床の声かけが何時か、起こされてから朝食まで何分待つか、その間に排泄介助やトイレ誘導があるか、です。待ち時間が長い施設は、日中と夜勤帯の人数の差が大きい施設です。
おむつを使っている人は、夜間と早朝の交換の間隔を聞きます。
「昨夜は夜中に目が覚めていた」のような話が朝の職員から出れば、申し送りが回っています。
入浴は見学で見えない場面です。申込時に「体験中に1回、入浴をお願いします」と頼みます。2泊3日なら、2日目に入れてもらいます。
見るのは介助の型です。脱衣室の温度、声のかけ方、待ち時間、同性の職員に介助してもらえるか。本人には入浴後に「寒くなかったか」「急かされなかったか」を聞きます。
入浴の曜日と回数も聞きます。週2回の施設が多いですが、施設によって違います。本人が毎日の入浴に慣れていれば、回数の違いは入居後の不満につながります。
体験中の入浴を断る施設には、理由を聞きます。
食事は、体験入居の間に6食前後を食べます。見学の試食1回とは情報の量が違います。
見るのは、普通食の味と温度、形態の対応(刻み・とろみ・減塩)が本人に合っているか、食堂の席がどう決められているか、食べ残しにどう対応しているか、です。
本人には毎食後に「おいしかったか」「量はどうだったか」を聞き、記録します。1食の感想より、3日分の傾向を見ます。
食堂の席は、入居後の人間関係の入口です。隣に座った人と話ができたかも記録します。形態食に追加料金がかかる施設もあるので、本入居の月額に入るかも聞きます。
職員が本人を名前で呼ぶか、初日に伝えた内容が翌日の別の職員に伝わっているか。この2つで、施設の申し送りの精度が分かります。
初日に、家族から職員へ小さな情報を1つ伝えておきます。「夜は温かい麦茶を飲む習慣がある」「トイレは2時間おきに声をかけてほしい」。2日目に別の職員がそれを知っていれば、申し送りが回っています。知らないままなら、入居後も同じことが起きます。
面会で、本人に「職員さんの名前を覚えたか」と聞きます。1人でも名前が出てくれば、職員が名前を伝えて接している施設です。
本人を「おばあちゃん」や部屋の番号で呼ぶ施設と、名前で呼ぶ施設は、入居後の暮らしが違います。
本人の変化は、家族が毎日記録します。
| 項目 | 書くこと |
|---|---|
| 睡眠 | 眠れた時間・夜中に起きた回数 |
| 食事量 | 3食それぞれの残した量 |
| 排泄 | 回数・介助の有無 |
| 表情 | 朝と夕方の顔つき |
| 帰りたい | 回数と言った時間帯 |
| 職員の対応 | 帰りたいにどう返したか |
初日の「帰りたい」は普通です。見るのは2日目以降に減ったか、増えたかです。増えていれば、施設の何かが合っていないか、期間が本人にとって長すぎるかのどちらかです。
「帰りたい」に職員がどう対応したかも記録します。話を聞いて気持ちを受けた対応と、はぐらかした対応では、入居後の暮らしが違います。
本人の反応は判断の材料の1つです。家族の見学の記録と施設の振り返りの話と並べて決めます。
体験入居は施設のサービスというより、国の指導指針が既に開設している有料老人ホームに機会の確保を求めているものです。費用が全額自費になるのは、契約前に泊まる人が介護保険の上で特定施設の「入居者」の外にいるからで、体験中の介護は施設の自費料金になります。頼む側は、まず「体験入居はできますか」と聞くところから始められます。
次の一歩は、申込の前に、体験する日数の総額を宿泊費・食費・介護の自費料金・その他に分けて書面でもらい、あわせて本入居のときに充当されるかを聞くことです。ここを飛ばすと、1泊の額だけで見積もった金額と請求が食い違い、施設を選ぶ話が費用の話にすり替わります。
日程が決まったら、2泊3日で入浴を1回入れてもらえるか、中日に面会できるか、最終日に振り返りの面談があるかを施設に確かめましょう。認知症のある本人は、日中だけの体験を先に入れられるかもあわせて聞くと安心です。介護のあんしんでは、老人ホームの体験入居の費用と期間と見るポイントも含めて、老人ホーム探しで悩むあなたに信頼できる情報を提供しています。