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退院の期限は、病棟の運用で決まった日付です。医学的な理由だけで決まる、動かせない日付とは別のものです。
動かし方は2通りあります。退院支援の担当者へ行き先と日付をセットで伝えて延ばす形と、地域包括ケア病棟へ移って準備の期間を作る形です。
本命の施設が決まらないままでも、退院日から次の行き先までをつなぐ受け入れ先が4種類あります。期限の理由を知り、頼み方を変え、つなぎ先を確保すれば、親の行き場は守れます。
「〇日までに退院です」と言われると、家族はその日付を動かせないものだと受け取ります。けれど、退院の期限は病棟の仕組みと病院の運用で決まった日付です。法律で決まった日数とは別のものです。
期限の理由は、次の3つに分かれます。
親が入院しているのが、手術や急な病気を治す病棟(急性期病棟)なら、その病棟には「入院患者の平均在院日数を何日以内にする」という国の基準があります。
もっとも手厚い区分である急性期一般入院料1では、平均在院日数を16日以内に収めることが要件です。それ以外の急性期一般入院料では21日以内と定められています。この基準を満たせなくなると、病院が受け取る入院料の区分が下がります。だから病院は、病棟全体で入院日数を短くしようとします。
さらに、多くの急性期病院が使っている包括払い(DPC)は、入院の初期を重く評価する仕組みです。在院日数に応じて、1日あたりの定額の点数が3段階で下がっていきます。長く入院するほど、病院が受け取る1日あたりの金額は減ります。
つまり「〇日まで」という期限は、病棟の基準と収入の仕組みから逆算した日付です。ここを知っておくと、交渉で「延ばす」以外の道が見えてきます。
出典: 厚生労働省 基本診療料の施設基準等の一部を改正する件(令和8年厚生労働省告示第70号)
出典: 厚生労働省 令和8年度診療報酬改定 5.入院(DPC/PDPS)
主治医が「治療は終わりました。医学的には退院できます」と言うのと、病棟が「〇日に退院です」と日付を決めるのは、別の判断です。前者は医師の診断で、後者は病棟の運用です。
医学的に退院できる状態になった患者は、病棟からすると「次の患者のためにベッドを空けたい人」になります。そこで退院日が決まります。退院日が金曜日や連休の前日に集まることがあるのは、ベッドの入れ替えの都合です。
家族が交渉する相手と内容は、ここから決まります。主治医に「退院を延ばしてほしい」と頼んでも、主治医は「医学的には退院できます」と答えるだけです。動かせるのは病棟の運用の側、つまり退院日を決めている部門です。
病院には「入退院支援加算」という仕組みがあります。この加算のうち入退院支援加算1を届け出ている病院は、原則として入院後3日以内に、退院が難しくなりそうな要因を持つ患者を抽出します。入退院支援加算2の病院は、原則として入院後7日以内です。
抽出した患者については、一般病棟の場合は原則7日以内に本人や家族と病状や退院後の生活を含めた話し合いを行い、入院後7日以内に退院支援計画の作成に着手します。計画は文書で本人か家族に説明したうえで交付されます。
退院が難しくなりそうな要因として国の通知が挙げているのは、次のようなものです。
親が要介護の疑いのある状態で入院しているなら、入院した週のうちに病院側の退院支援が始まっています。家族がまだ何も聞かされていない段階でも、病院の中には「この患者は退院先の調整が要る」と把握している担当者がいます。その担当者を見つけて話をすることが、期限を動かす最初の一歩になります。
出典: 厚生労働省 診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(医科点数表)
退院日は、病棟の運用で決まった日付です。動かすために必要なのは、頼む相手と、頼み方の2つです。
交渉のポイントは3つあります。
退院日について話す相手は、退院支援の担当者です。
病院には「地域連携室」「患者支援センター」「医療相談室」などの名前で、入退院支援と地域連携の業務を担う部門があります。そこにいるのが医療ソーシャルワーカー(MSW)や退院支援看護師です。国の通知でも、この部門の担当者が退院支援計画を作り、他の医療機関や介護サービス事業所と情報を共有する役割を持つと定められています。
部門の名前は病院ごとに違います。看護師に「退院支援の担当の方とお話ししたいです」と伝えれば、つないでもらえます。すでに担当者が決まっている場合は、名前と連絡先を聞いておきましょう。
主治医は病状を判断する人で、退院日の運用は病棟と退院支援の部門が決めています。話す相手を変えるだけで、交渉が動き始めます。
出典: 厚生労働省 診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(医科点数表)
退院支援の担当者に「もう少し延ばしていただけますか」と頼むと、多くの場合「病棟の決まりで難しいです」と返ってきます。病院が困るのは、行き先が決まらないまま入院が無期限に続くことだからです。
通る頼み方は「〇日に老健へ移る手配が進んでいるので、退院日を〇日にしてほしい」という形です。行き先と日付がセットになっていれば、病院は「退院先の調整中」として日数を持てます。
そのために、家族が担当者へ伝える事実は次の3つです。
要介護認定をまだ申請していないなら、今日中に申請しましょう。入院中でも申請でき、認定調査を入院先で受けられます。ただし手術の前後や急性期のリハビリ中など状態が変わりやすい時期は、調査の時期をずらすよう案内されることがあります。
この3つが揃った状態で伝えると、担当者は病棟に対して「退院先が〇日に決まる見込み」と説明できます。そのまま使える言い方は次のとおりです。
担当者への伝え方の例
「自宅は夜間に介護できる人がいないため、受け入れが難しいです。今、老健2か所と有料老人ホーム1か所に打診していて、老健の返事が〇日、有料老人ホームの体験入居は〇日から入れると言われています。要介護認定は〇日に申請し、調査は〇日の予定です。退院日を〇日にしていただけますか」
もう1つ、病院側にも通じる言い方があります。「自宅に戻ると夜間の見守りができず、すぐ再入院になります」という伝え方です。退院してすぐの再入院は病院にとっても避けたい事態なので、この理由は病院の中でも通ります。
同じ病院に「地域包括ケア病棟」があるなら、退院日を延ばすより、その病棟へ移る(転棟する)ほうが手堅い選択です。
地域包括ケア病棟は、急性期の治療を終えた患者や在宅で療養している患者を受け入れ、在宅復帰の支援を行う病棟です。入院料を算定できるのは、その病棟に入院した日から60日までと定められています。
急性期病棟の期限が「あと5日」でも、地域包括ケア病棟へ移れば、そこから最長60日の準備期間になります。病院側にとっても、転棟は退院支援の実績になるので、頼みやすい選択です。同じ病院に無い場合は、他の病院の地域包括ケア病棟や療養病棟へ転院する道があります。
60日は、その病棟に入院した日から数えます。同じ病院の中で急性期病棟から移った場合も、地域包括ケア病棟へ入った日が起点です。受け入れられる病床の数は限られているので、移ると決めたら早く相談するほど話が進みます。
出典: 厚生労働省 診療報酬の算定方法の一部を改正する件(医科点数表)
出典: 厚生労働省 診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(医科点数表)
入退院支援加算を算定している病院では、退院支援計画が作られ、文書で本人か家族に説明したうえで交付されます。まだ受け取っていないなら「退院支援計画書を見せてください」と担当者に頼んでみましょう。
国の通知は、計画に盛り込む内容として、退院困難な要因、退院に係る問題点や課題、退院へ向けた目標と支援期間、予想される退院先、退院後に使うと見込まれる福祉サービスと担当者名などを挙げています。
ここを読むと、病院の認識と家族の認識のずれが見つかります。たとえば病院側が「自宅へ退院」の方向で計画を作っていて、家族は施設を探している、というずれはよくあります。
ずれが分かれば、家族は「自宅は受け入れられないので、施設の方向で計画を直してほしい」と具体的に頼めます。担当者との話が進みにくいときは、院内の患者相談窓口に「退院先が決まらないまま退院日を決められている」と伝える道があります。記録に残すためです。
出典: 厚生労働省 診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(医科点数表)
「施設が見つからない」と「親の行き場が無くなる」は別です。ずっと住む施設が決まっていなくても、退院日から次が決まるまでをつなぐ受け入れ先は4種類あります。
| つなぎ先 | 要介護認定 | 医療処置 | 費用の区分 |
|---|---|---|---|
| 介護老人保健施設(老健) | 要介護の認定が要件 | 施設ごとに可否が分かれる | 介護保険 |
| ショートステイ | 申請中でも暫定ケアプランで利用できる | 療養型なら対応の幅が広い | 介護保険(連続30日まで) |
| 有料老人ホームの体験入居・ショートステイ | 施設ごとに異なる | 施設ごとに異なる | 保険外(全額自費) |
| 地域包括ケア病棟・療養病棟 | 不要 | 病院なので対応できる | 医療保険(地域包括ケア病棟は60日まで) |
介護老人保健施設(老健)は、病院と自宅の間に置かれた施設です。介護保険法は老健を、心身の機能の維持回復を図り、自宅での生活を営めるようにするための支援が必要な要介護者に対して、看護、医学的管理のもとでの介護、機能訓練、医療、日常生活上の世話を行う施設と定めています。
対象は要介護の認定を受けた方です。要介護認定を申請中の段階では、結果が出るまで入所を待つことになる場合が多く、ここで詰まる家族が目立ちます。
入所するかどうかは、施設の中で決まります。運営基準は、申し込みが定員の空きを超えるときは、医学的管理のもとでの介護や機能訓練の必要性が高い人を優先して入所させるよう努めることを求めています。入所を続けるかどうかも、医師、薬剤師、看護・介護職員、支援相談員、介護支援専門員などが定期的に話し合って判断します。返事までの日数は施設によって違うので、申し込むときに「いつまでに返事をいただけますか」と確かめておきましょう。
もう1つの分かれ目は医療処置です。痰の吸引、経管栄養、インスリン注射などは、施設の医師や看護師の体制で受け入れの可否が分かれます。老健と特別養護老人ホームのどちらを選ぶか、入所後にどう動くかは、退院後すぐ家に戻れない親、特養と老健どっちに入るの?の記事で詳しく書いています。
出典: e-Gov法令検索 介護保険法
出典: e-Gov法令検索 介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準
ショートステイ(短期入所)は、介護保険で数日から数週間泊まれるサービスです。特別養護老人ホームなどに併設された「短期入所生活介護」と、老健などに併設された「短期入所療養介護」があり、後者は医療処置への対応の幅が広めです。
介護保険で使えるのは連続30日までです。連続して30日を超えて受けたサービスは、介護保険の給付の対象から外れます。31日目からは全額自費になるので、つなぎとして使うなら30日の中で次を決める前提になります。
要介護認定の申請中でも、ケアマネジャーが暫定ケアプランを作れば使い始められます。介護保険法は、要介護認定の効力が申請のあった日にさかのぼって生じると定めているので、認定が出た後に申請日までさかのぼって保険の給付を受けられます。
空きは施設と同じくらい取りにくいのが実情ですが、緊急の受け入れ枠を持つ事業所があります。地域包括支援センターかケアマネジャーに「退院日が〇日で、緊急のショートステイを探している」と伝えると、枠を持つ事業所を当たってもらえます。
出典: 厚生労働省 社会保障審議会介護給付費分科会(第180回)資料4 短期入所生活介護
出典: e-Gov法令検索 介護保険法
有料老人ホームの多くは、体験入居や保険外のショートステイを受けています。日数の区切りや料金は施設ごとに違うので、問い合わせのときに「何日から何日まで入れますか」「1日あたりいくらですか」を確かめます。
全額自費なので費用は高くなりますが、施設側からすると「そのまま入居につながる見込み客」なので、受け入れの判断が早いのが特徴です。
つなぎのつもりで体験入居に入り、その施設をそのまま契約する流れは実際によくあります。逆に言えば、体験入居の先はそのまま住む候補になりうるので、費用と医療体制は入る前に確認しましょう。日額と、そこに含まれるサービスの範囲は書面でもらいます。
急ぐときほど、体験入居と老健の申し込みを同時に進めるのが安全です。どちらかが先に決まれば、もう一方は断れます。
退院支援の担当者に頼む転棟・転院は、施設が決まらないときの受け入れ先としても使えます。
地域包括ケア病棟は入院した日から60日まで、療養病棟は長期の療養を前提にした病棟です。どちらも病院なので、医療処置がある親でも受け入れられます。
要介護認定を待っている、医療処置が多くて施設に断られている、という2つの条件が重なる場合は、施設より病棟のほうが現実的です。60日の間に認定を取り、医療処置を減らす方向でリハビリや治療を進めれば、施設の選択肢が広がります。
退院日までの残り日数によって、同時に動かす組み合わせが変わります。
出典: 厚生労働省 診療報酬の算定方法の一部を改正する件(医科点数表)
つなぎ先を確保したうえで、本命の施設探しを最速で進める方法があります。
速さを決めるのは、見学の回数より次の3つです。
施設が入居の相談を受けたとき、最初に確認するのは次の4項目です。
| 項目 | 施設が知りたい内容 |
|---|---|
| 医療処置 | 痰の吸引、経管栄養、インスリン、酸素、褥瘡の処置など |
| 認知症の症状 | 徘徊、夜間の大声、暴言や暴力、介護への拒否など |
| 感染症 | MRSAなどの保菌、結核の既往など |
| 要介護度 | 認定の結果、または申請日と見込み |
この4項目で、受け入れの可否がほぼ決まります。
見学に行ってから「うちでは難しいです」と言われる時間を減らすために、退院支援の担当者に頼んで、看護サマリーをもとにこの4項目を1枚の紙にまとめてもらいましょう。電話で施設に問い合わせるときは、この紙を最初に読み上げます。そこで断られるなら、見学する前に候補から外せます。
施設探しで時間を失う原因は、1件ずつ順番に問い合わせて、断られてから次を探すことです。
断りの返事は早く来ます。最初から3件から5件へ同時に打診しましょう。
打診のときは「〇日までに返事をいただけますか」と期限を切ります。退院日が決まっていることを伝えると、施設側も判定を急いでくれます。空きが埋まっていると言われても「退院日までに空く予定はありますか」と聞いてみましょう。施設は退所の予定を把握しているので、期限を伝えると「〇日に1室空きます」という返事が出ることがあります。
同時に打診すると、複数から入居可の返事が来ることがあります。その場合は費用と医療体制で選び、他は断ります。断るのは、施設にとっても日常のやり取りです。
施設が入居を判定するときに必ず見るのが、主治医が書く診療情報提供書(紹介状)と、看護師が書く看護サマリーです。
この2つは、家族が病院に頼んでから出てくるまで数日かかります。
候補の施設が決まってから頼むと、書類待ちで判定が止まります。候補を絞る前の段階で「施設に出す診療情報提供書と看護サマリーを準備していただけますか」と退院支援の担当者に伝えておけば、候補が決まった日に送れます。
施設によっては、書類をもとに看護師が病院まで面談に来ます(入居前面談)。その日程も、書類が揃っていれば早く組めます。
期限までに決まらないときは、条件を緩めることになります。緩める順番を先に決めておくと、迷いで時間を失わずに済みます。
| 順番 | 緩める条件 | 緩め方 |
|---|---|---|
| 1 | 地域 | 自宅からの距離を広げる |
| 2 | 費用 | 入居一時金の有無や月額の上限を見直す |
| 3 | 施設の種類 | 介護付き有料老人ホームから住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅へ広げる |
最後まで守るのは、医療処置への対応ができるかどうかです。ここを緩めると、入居してすぐ退去を求められます。
多くの施設紹介センターは、入居が決まったときに施設から紹介手数料を受け取る形で運営されています。厚生労働省の検討会でも、手数料の多さで利用者が誘導されているのではないかという指摘が出ています。無料で速い一方、提案されるのは手数料を払う提携先です。使うなら「紹介できない施設はありますか」と聞いてみましょう。答え方で偏りが分かります。
利害の無い確認先としては、地域包括支援センターと、厚生労働省の介護サービス情報公表システムがあります。空き情報は載っていない代わりに、看護師の夜間配置や協力医療機関の有無を施設ごとに確認できます。
出典: 厚生労働省 有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会(第2回)資料3
退院の期限は、法律で決まった日数ではなく、病棟の診療報酬の要件と病院の運用で決まった日付です。だから「延ばしてほしい」より「〇日に老健へ移る手配が進んでいるので、退院日を〇日にしてほしい」と、行き先と日付をセットで出せば動きます。
今日のうちに、病院の地域連携室や患者支援センターで、退院支援の担当者の名前と連絡先を確かめましょう。ここを飛ばして主治医にだけ頼むと、「医学的には退院できます」という答えで話が止まり、残りの日数を使い切ってしまいます。
そのうえで、同じ病院に地域包括ケア病棟があるか、老健や体験入居に何日で入れるかを確かめましょう。介護のあんしんでは、退院の期限の交渉と退院日までのつなぎ先も含めて、老人ホーム探しで悩むあなたに信頼できる情報を提供しています。