※1999年創業の会社が運営する「シニアのあんしん相談室」よりサービス提供を受けております。

「来週、退院できます」
病院からそう連絡が来る。本来なら、うれしいはずの一言です。
でも実際に頭をよぎるのは、これだったりします。
「この状態で家に連れて帰るのは、無理かもしれない」
そこで候補として出てくるのが、「特養」と「老健」という2つの施設です。
何がどう違うのか。そもそも退院日までに、何から手をつければいいのか。
わからないまま、日数だけが減っていく。
まず検討すべきは、老健です。
その理由と、退院日までの2週間で「誰に・何を・どの順番で」伝えればいいのかを、時系列で書いていきます。
退院後すぐに家へ戻れないときの受け皿は、老健(介護老人保健施設)です。
理由はシンプルで、老健は「リハビリをして家に帰るため」の施設だから。まさに今の状況のために作られた場所です。
一方の特養(特別養護老人ホーム)は、「これから先ずっと暮らす」ための施設。退院直後の行き先としては、現実的に選べません。
同じ「介護施設」でひとくくりにされがちですが、制度上の目的が違います。入所条件も、申し込んでから入れるまでの期間も、別物です。
| 老健 | 特養 | |
|---|---|---|
| 目的 | リハビリをして家に帰るための施設 | 終の住まいとして長く暮らす施設 |
| 入所期間 | 原則3〜6か月程度の一時利用 | 期限なし(看取りまで可) |
| 入所条件 | 要介護1から | 原則要介護3以上 |
| 入りやすさ | 回転が速く、比較的早く入れる | 数か月〜数年待ちが普通 |
| 医師・リハビリ | 常勤医師とリハビリ専門職がいる | 医師は非常勤が多く、リハビリは手薄 |
要するに、老健は「通過点」。特養は「終点」です。
1つめは、条件。特養は原則、要介護3以上でないと申し込めません。
2つめは、スピード。申し込みから入所まで数か月〜数年待ちが当たり前です。「退院日は2週間後」には、どう考えても間に合わない。
そしてもう一つ、時期の面でも老健に利点があります。
退院直後の数か月は、入院で落ちた体力が最も回復しやすい「ゴールデンタイム」です。
リハビリ専門職が常駐する老健でこの時期を過ごせば、行き先を確保しながら、落ちた体力を戻しにいける。
つまり老健は、「仕方なく預ける場所」ではないということです。
やることは4つ。相談、申請、見学、日程調整。そして、動く順番が決まっています。
この順番どおりに動けば大丈夫です。
最初の窓口は、入院先の「医療相談室」「地域連携室」などにいるソーシャルワーカーです。
ナースステーションで「退院後のことを相談したい」と言えば、取り次いでもらえます。
何と言えばいいか迷ったら、これをそのまま口に出してください。
「退院後すぐに自宅で介護するのは難しそうです。老健への入所を前提に、退院後の行き先を相談させてください」
「老健を前提に」。この一言で、話が一気に具体化します。
候補施設のリストアップから申し込み手続きまで、あとはソーシャルワーカーが一緒に走ってくれます。
老健を使うには、要介護認定が必要です。
まだ申請していないなら、親御さんが住む市区町村の窓口(または地域包括支援センター)で、要介護認定の申請をすぐに出してください。
結果が出るまで1か月ほどかかります。ただ、申請日にさかのぼってサービスを使える仕組みがあるので、とにかく早く出す。それだけです。
これも「申請がまだです」とソーシャルワーカーに伝えれば、段取りを教えてくれます。
候補が2〜3か所示されたら、できれば家族が見に行きましょう。
雰囲気や清潔感も大事です。でも、それ以上に判断材料になるのが次の2つの質問です。
「在宅復帰率はどのくらいですか?」
「超強化型ですか? それとも基本型ですか?」
老健には国が定めた区分があって、「超強化型」に近い施設ほどリハビリが手厚い。家に帰すことに本気だ、ということです。
裏を返せば、退所の話も早めに出ます。
「じっくりリハビリして家に帰したい」のか。「特養の順番待ちの間、なるべく長くいたい」のか。
家庭の事情によって、合う施設は変わります。だからこの2つで見極めてください。
ちなみに、一般の見学者はまずこれを聞きません。聞いた瞬間に「わかっている家族だ」と伝わって、説明がぐっと丁寧になります。
知っ得メモ① 高い薬を飲んでいると、老健に断られることがある
あまり知られていませんが、老健に入所している間の薬代は、施設が負担する仕組みです。
つまり、認知症の新しい薬や高価な注射薬を使っていると、施設側の持ち出しが大きくなる。
その結果、入所を断られたり、保留にされたりすることが実際にあります。
対策は2つです。
申し込みの段階で、薬の内容を正直に全部伝えること。そのうえで「この薬、ネックになりそうですか?」と率直に聞くこと。
場合によっては、退院前に病院の主治医に相談して、効果を保ったまま処方を整理できることもあります。
断られてから慌てるより、退院前に手を打つ。これが正解です。
老健が決まったら、病院からそのまま老健へ移る。これが理想です。
日程調整は、ソーシャルワーカーと老健の相談員(支援相談員)がやってくれます。家族がやるのは、書類の準備と持ち物の用意くらいです。
知っ得メモ② 間に合わないときは「地域包括ケア病棟」という手がある
「退院日までに老健が見つからない」
「もう少し病院でリハビリを続けさせたい」
そんなときのために、地域包括ケア病棟という選択肢を覚えておいてください。
在宅や施設への移行準備のための病棟で、リハビリを受けながら最長60日まで入院できます。今の病院に病棟がなくても、別の病院へ転院して利用できます。
退院を迫られても、「行き先が決まるまで自宅で共倒れ」しか道がないわけではない、ということです。
ソーシャルワーカーに「地域包括ケア病棟への転院は可能ですか?」と聞いてみてください。
この選択肢を知っているだけで、行き先を探す時間を最長60日、確保できます。
老健の費用は、介護サービス費の自己負担に、食費と居住費が乗ります。目安として月10万円前後〜というケースが多いです。
絶対に知っておいてほしい制度があります。
負担限度額認定です。
世帯の収入や預貯金が一定以下の場合、市区町村に申請すると、食費と居住費が大幅に減額されます。
たとえば年金収入が少ない方なら、月数万円単位で下がる。年間にすると、数十万円の差になることもあります。
この制度は、申請しないと1円も適用されません。
知らずに満額を払い続けている家族が、実際に少なくない。金額の段階は収入・資産によって細かく分かれているので、要介護認定の申請と一緒に、同じ窓口でこう聞いてください。
「負担限度額認定の対象になりますか?」
これだけです。
老健に入れた。よかった、これで一段落。
……とは、なりません。
入所したその日からの動きで、半年後の行き先が決まります。
老健にいられる期間には、限りがあるからです。特養の申し込みと、それが間に合わなかったときの備えを、同時に進めます。
老健は、家に帰ることが前提の施設です。3か月ごとに、入所を続けるかどうかの判定があります。
回復したら自宅へ。これが理想の流れです。
問題は、「家に帰るのは難しい、でも特養の順番も来ていない」という状態。
行き先がないまま退所を求められる、いわゆる「老健難民」です。珍しい話ではありません。
「家に戻るのは難しそうだ」と少しでも感じるなら、老健に入所したその足で、特養の申し込みを進めてください。
押さえることは3つです。
申し込みは、1か所に絞る必要がありません。通える範囲の特養に幅広く出すのが定石です。
そして、ここが一番大事なんですが、特養の入所は申し込み順ではなく、必要度の高い順に決まります。
つまり、申込書の「家庭の事情を書く欄」に何を書くかで結果が変わる。
「主介護者が日中就労しており在宅介護が不可能」
「老健の退所期限が迫っている」
こういう在宅介護が困難な事情を具体的に書くことが、優先度の判断材料になります。
介護度が上がった。介護する家族が体調を崩した。そういう変化も、そのつど施設に伝えれば反映されます。
知っ得メモ③ 特養を狙うなら「特養と同じ法人の老健」を選ぶ
これは、最初の老健選びの時点で使える、大事なコツです。
老健の中には、特養と同じ法人が運営していたり、同じ敷地に特養が併設されていたりする施設があります。
こういう老健に入ると、日々の様子が特養側にも伝わる。施設間の連携の中で、入所の相談がしやすくなります。
見学のときに、こう聞いてみてください。
「系列や併設の特養はありますか?」
「そちらへ移られた方はいますか?」
「ゆくゆくは特養に」と考えているなら、老健選びの段階から出口を見すえて選ぶ。
待機期間を乗り切る家族は、だいたいこれをやっています。
特養の順番が来る前に、老健の退所期限が来てしまった。
その場合も、打つ手はあります。
別の老健へ移れば、また入所期間を確保できます。
ロングショートは、短期入所サービスを連続して利用してつなぐ方法。ケアマネジャーに相談すれば調整してくれます。
介護医療院は、長期療養と生活の場を兼ねた施設です。たん吸引や経管栄養などの医療的なケアが必要で、特養に断られやすい方には、有力な選択肢になります。
「最悪の場合の逃げ道がある」
そう知っているだけで、退所判定のたびに追い詰められずに済みます。
「家に連れて帰ってあげられない」
そこに罪悪感を抱く方は、本当に多いです。
でも、老健への入所は介護の放棄ではありません。リハビリという治療の続きです。
専門職のもとで体を立て直す期間があるから、その先に「家に帰る」という選択肢が残る。
逆に、無理に在宅介護を始めて家族が倒れてしまえば、親御さんの居場所そのものがなくなります。
施設と専門職の力を借りること。
これは、親御さんを長く支えるための、いちばん現実的な愛情のかけ方だと思います。
退院までの時間は、限られています。
でも、やるべきことは上のリストだけです。
ひとりで抱え込まなくていい。ソーシャルワーカーとケアマネジャーという「プロの伴走者」に頼りながら、一つずつ進めていきましょう。