※1999年創業の会社が運営する「シニアのあんしん相談室」よりサービス提供を受けております。

親が入居している老人ホームから「◯月から利用料を改定します」という文書を受け取り、まだ返事をしていない家族に向けた記事です。返事を決める材料は、届いた通知ではなく、入居のときに交わした書類にあります。ただし、どの書類を開くのかは3つで変わります。その住まいが介護保険施設かどうか・介護のサービスも同じ住まいが提供しているかどうか・入居契約が建物を借りる契約かどうかの3つです。
次に当てはまる方には、別の記事を用意しています。
前払金(入居一時金)の扱いは、この記事では扱いません。
手元の書面に「同意しません」と書いて返しても、それだけで改定が止まるとは限りません。
公益社団法人全国有料老人ホーム協会は、家族から寄せられた相談を事例として掲載しています。2025年12月に載った相談は、こう書かれています。
現在入居中のホームから物価高騰を理由に月額の利用料を値上げすると言われました。同意しなければならないのでしょうか。
同じページで、協会はこう整理しています。
月額利用料の変更に関しては、入居者側の個別同意は必要ありません
出典: 全国有料老人ホーム協会「月額利用料金の値上げに対する不満」
協会が整理しているのは、有料老人ホームの月額利用料についてです。
ただし、同じ「利用料」でも、上げるのに入所者や利用者の同意を条件にしている費目があります。
1つは、特別養護老人ホーム・介護老人保健施設・介護医療院の食費と居住費です。運営基準が文書による同意を求めています。
もう1つは、介護のサービスも同じ住まいが提供している場合のおむつ代などで、こちらは別の運営基準が説明と同意を求めています。どちらに当たるかを分けているのは、その住まいがどの決まりで動いているかです。
施設から見れば、値上げには事情があります。食材費と光熱費と人件費が上がったのに月額を決めたときのままにしておけば、食事の回数やケアの手厚さのほうを削ることになりかねません。
それでも、事情があることと、根拠を示さなくてよいことは別です。
厚生労働省老健局長が示した有料老人ホームの設置運営標準指導指針は、改定に当たってその根拠を入居者に明確にすることを、有料老人ホームに求めています。
家族が問えるのは、同意するかどうかではなく、何を根拠に上げるのかです。
値上げの通知に何ができるかは、その住まいに当たる決まりで変わります。確かめる手がかりは3つです。
3つとも、手元の重要事項説明書と入居契約書、それに公開されている情報で確かめられます。
介護保険施設は、特別養護老人ホーム・介護老人保健施設・介護医療院の3つです。この3つに入っているなら、毎月の請求に当たるのは介護保険法と、それぞれの運営基準です。
手元で確かめるなら、毎月届く請求書の内訳を見てください。介護保険施設では、施設サービス費という言い方の行が並びます。「介護福祉施設サービス費」「介護保健施設サービス費」「介護医療院サービス費」などです。
請求書が手元に無いときは、厚生労働省の介護サービス情報公表システムで施設の名前を引いてください。その施設がどの種類のサービスの事業所として指定されているかが載っています。
この記事が扱う住まいのうち、介護保険施設ではないのは有料老人ホームとサービス付き高齢者向け住宅です。この2つは、介護のサービスをその住まいが提供しているかどうかで施設への請求が分かれます。
提供している住まいは、介護保険の特定施設入居者生活介護という指定を受けています。この場合、介護のサービスの自己負担分も施設への請求に入ります。
提供していない住まいでは、介護のサービスは外部の訪問介護などの事業者と別に契約します。施設への請求に介護保険の自己負担分の行はありません。
どちらかは、入居のときに受け取った重要事項説明書で分かります。指導指針は、入居の募集について次のように定めています。
入居募集に当たっては、パンフレット、募集広告等において、有料老人ホームの類型(サービス付き高齢者向け住宅の登録を受けていないものに限る。)、サービス付き高齢者向け住宅の登録を受けている場合は、その旨及び特定施設入居者生活介護等の種類を明示すること。
出典: 厚生労働省「有料老人ホームの設置運営標準指導指針について」
同じ指針は、契約を結ぶ前に重要事項説明書で説明する事項も挙げています。有料老人ホームの種類と、その住まいの入居者に提供することが想定される介護保険サービスの種類です。探すのは欄の名前ではなく、そこに特定施設入居者生活介護という言葉があるかどうかです。 見当たらなければ、手がかり1と同じ介護サービス情報公表システムで施設の名前を引いても確かめられます。
有料老人ホームとサービス付き高齢者向け住宅では、毎月払うものの根拠になっている契約が2つに分かれます。建物を借りる契約と、それ以外の契約です。
サービス付き高齢者向け住宅の案内には、こう書かれています。
賃貸借方式の契約と利用権方式の契約がありますが、いずれの場合も、長期入院などを理由に事業者から一方的に解約できないことになっている等、居住の安定が図られた契約内容になっていなければなりません。
出典: サービス付き高齢者向け住宅情報提供システム「サービス付き高齢者向け住宅のご案内」
サービス付き高齢者向け住宅であることと、契約が建物賃貸借であることは同じではありません。
登録を受けているサービス付き高齢者向け住宅であれば、この点は公開されています。国土交通省のサービス付き高齢者向け住宅情報提供システムで住まいの名前を引くと、「入居契約の別」という項目に「賃貸借契約」か「その他」のどちらかが載っています。「その他」が利用権方式などの、建物を借りるのではない契約です。
サービス付き高齢者向け住宅の登録を受けていない有料老人ホームは、この項目が公開されていません。入居契約書を開いて、貸主と借主という言葉が使われているか、毎月払うものが家賃として定められているかを見てください。この2つが見当たらないことは、建物を借りる契約ではないことの手がかりになります。判断がつかないときは、契約が建物賃貸借に当たるかを施設に確かめてください。
毎月の請求は、介護保険の給付の対象になっている部分と、なっていない部分に分かれます。上がった行がどちらかで、根拠を問う相手が変わります。この分かれ方は、介護保険施設でも有料老人ホームでも同じです。
手がかり2で介護のサービスを提供していない住まいだった場合、施設への請求に費目1の行はありません。上がった行は費目2に当たります。
介護のサービスも同じ住まいが提供している場合、そのサービスは介護保険では特定施設入居者生活介護と呼ばれます。その費用の額について、介護保険法第41条第4項第2号はこう定めています。
短期入所生活介護、短期入所療養介護及び特定施設入居者生活介護 これらの居宅サービスの種類ごとに、要介護状態区分、当該居宅サービスの種類に係る指定居宅サービスの事業を行う事業所の所在する地域等を勘案して算定される当該指定居宅サービスに要する平均的な費用(略)の額を勘案して厚生労働大臣が定める基準により算定した費用の額(略)の百分の九十に相当する額
出典: e-Gov法令検索 介護保険法
単価を決めているのは厚生労働大臣であって、施設ではありません。条文の「百分の九十」は、保険から出る分が9割で、残りの1割が自己負担だという意味になります。所得によって2割・3割になる場合は、同じ法律の第49条の2が「百分の九十」を「百分の八十」「百分の七十」と読み替えると定めています。
介護保険施設に入所している場合の費目1は、施設サービス費の自己負担分です。同じ法律の第48条第2項が、厚生労働大臣が定める基準により算定した費用の額の百分の九十を保険から出すと定めていて、単価を施設が決められない点は変わりません。
この部分の金額が上がったのなら、疑うのは次の3つです。
1つ目は厚生労働大臣が定める基準そのものの見直しで、2つ目と3つ目は親の側の変化です。要介護度が上がったときに月額をどう組み直すかは、重度化と入院に備えて月額を四つに分ける記事で扱っています。
3つのどれかであれば、額を上げたのは施設ではありません。介護報酬の改定なら市町村の介護保険の窓口へ、認定と負担割合なら手元の認定の通知書と負担割合証で確かめてください。
3つのどれにも当たらないのに費目1の行が上がっているのなら、その内訳を施設に聞くところから始まります。
介護保険法第41条第1項は、特定施設入居者生活介護に要した費用の一部を給付の対象から外しています。外れるのは、食事の提供に要する費用・滞在に要する費用その他の日常生活に要する費用として厚生労働省令で定める費用です。
その厚生労働省令が介護保険法施行規則第61条です。同条が特定施設入居者生活介護について挙げているのは、おむつ代と、日常生活においても通常必要となるもので入居者に負担させることが適当と認められる費用の2つです。
家賃・管理費・食費は、この省令が挙げた2つに入っていません。これらは介護保険の給付とは別に、入居契約に基づいて払っているものです。 額を決めているのは施設です。
どの行が費目2に当たるかは、毎月届く請求書の内訳で分かります。介護保険の自己負担分は、サービスの名前が入った行になっています。「特定施設入居者生活介護費」「介護福祉施設サービス費」「介護保健施設サービス費」「介護医療院サービス費」などです。それ以外の行が費目2です。
有料老人ホームと、有料老人ホームに当たるサービス付き高齢者向け住宅であれば、重要事項説明書も使えます。利用料の額を書いた欄には、家賃・管理費・食費が金額とともに並んでいます。欄の見出しが「利用料」なのか「月額利用料」なのかは施設ごとに違うので、見出しではなく並んでいる中身で探してください。この欄を設けることは指導指針が求めています。
ただし、特別養護老人ホーム・介護老人保健施設・介護医療院の食費と居住費だけは、施設が額を決め切れません。運営基準が上限を定めているためです。
通知に金額が並んでいるのが費目2であれば、根拠を問える相手は施設になります。
有料老人ホームでは、改定のルールを載せる書類を指針が先に決めています。この章が当たるのは、有料老人ホームと、有料老人ホームに当たるサービス付き高齢者向け住宅です。特別養護老人ホーム・介護老人保健施設・介護医療院に当たるのは、書類の置き場所ではなく、運営基準が定める説明と同意の手続きです。
指導指針は、契約内容についての基準の一つとして、こう定めています。
利用料等の改定のルールを入居契約書又は管理規程上明らかにしておくとともに、利用料等の改定に当たっては、その根拠を入居者に明確にすること。
出典: 厚生労働省「有料老人ホームの設置運営標準指導指針について」
指針が明示することを求めているのはこの2つで、置き場所は入居契約書か管理規程です。届いた通知ではなく、入居のときに受け取った書類のほうを開きます。
この定めは、サービス付き高齢者向け住宅の登録を受けている有料老人ホームにも当たります。同じ指針は、登録を受けているものについて設置者・立地条件・規模及び構造設備・既存建築物等の特例・事業収支計画の5つの規定を適用しないと定めていますが、契約内容についての基準はその5つに入っていません。
管理規程は、入居者の定員・利用料・サービスの内容とその費用負担・介護を行う場合の基準・医療を要する場合の対応などを書いた書類です。指針は、この内容を含んでいれば呼び方が違っても管理規程として扱ってよいとしています。「管理規程」という題名の冊子が手元に無くても、同じことが書かれた書類があればそれで足ります。
そのうえで、入居契約書と管理規程を開いて探すのは次の3つです。
1つ目と2つ目が書かれていれば、届いた通知が入居契約書のとおりかを家族が突き合わせられます。3つ目が書かれていれば、施設が何を示して根拠とするのかも読み取れます。1つ目しか書かれていなければ、突き合わせる相手がありません。
探す場所は、入居契約書であれば「利用料」「費用の負担」といった見出しの付いた条です。管理規程であれば利用料について書いた項です。改定について書かれた行は、その条や項の末尾に1行だけ入っていることがあります。
管理規程が手元に見当たらないことがあります。同じ指針の情報開示の項は、パンフレット・重要事項説明書・入居契約書・管理規程等を公開するものとし、求めに応じて交付することを施設に求めています。求めれば受け取れる書類です。
改定のルールが1つも書かれていなかった場合、その施設は指針が求める状態に届いていません。
ただし指針は法律ではなく、厚生労働省老健局長が都道府県などへ示した標準となる指導指針です。「違法だ」と言える性質のものではありません。
記載が足りないという事実そのものは、施設へ示せます。
入居契約書に「改定することがあります」と書いてあっても、実際に上げるときに施設が踏む手続きは、契約の形で違います。その違いが、そのまま家族に残っている手の違いになります。
手がかり1で介護保険施設に当たれば形1です。当たらなければ、手がかり3の入居契約の別で形2と形3に分かれます。1つの住まいでも、費目によって当たる決まりが変わることがあります。
特別養護老人ホーム・介護老人保健施設・介護医療院に入所している場合です。
通知に「食費を1日あたり◯円、居住費を1日あたり◯円へ改定します」と書いてあり、同意書への署名を求められている場合があります。
食費と居住費は、施設が受け取れる費用として運営基準に列挙されています。特別養護老人ホームであれば、指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準の第9条第3項第1号と第2号です。同じ条の第5項は、その受け取り方をこう定めています。
指定介護老人福祉施設は、第三項各号に掲げる費用の額に係るサービスの提供に当たっては、あらかじめ、入所者又はその家族に対し、当該サービスの内容及び費用を記した文書を交付して説明を行い、入所者の同意を得なければならない。ただし、同項第一号から第四号までに掲げる費用に係る同意については、文書によるものとする。
出典: e-Gov法令検索 指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準
同じ文言の定めが、介護老人保健施設の運営基準の第11条第5項と、介護医療院の運営基準の第14条第5項にもあります。
ここが有料老人ホームとの違いです。上げるには入所者の同意が要ります。
条文が説明の相手として挙げているのは入所者本人かその家族で、同意する主体は入所者本人です。本人が判断できない状態のときにどう扱うかは、条文に書かれていません。書かれていない以上、家族が署名を求められたら、まず上げる費目と金額の内訳を書いた文書を求めてください。受け取ってから、施設と話を進めます。
負担限度額認定を受けているなら、通知の金額をそのまま払うことにはなりません。負担限度額認定とは、所得と資産の状況に応じて市町村が食費と居住費の上限を決める認定で、申請すると認定証が届きます。この仕組みを定めているのが介護保険法第51条の3で、対象は介護保険施設と短期入所に限られています。
出典: e-Gov法令検索 介護保険法
通知が届いたら、認定証に書かれた限度額と通知の金額を並べてください。
手がかり3で、建物を借りる契約ではなかった住まいの場合です。有料老人ホームと、「入居契約の別」が「その他」だったサービス付き高齢者向け住宅のうち、入居契約書に貸主と借主の定めが無いものがここに入ります。
前の章で探した3つのうち、いくつが入居契約書か管理規程に書かれているかで、家族が言えることが変わります。
改定できるとだけ書いてあり、あとの2つが書かれていない場合があります。どんなときに改定できるかも、いつまでに知らせるかも定まっていない状態です。この状態で家族が言えるのは、記載が足りないことと、改定の根拠を明確にするよう求めることの2つです。
改定できる条件と予告の時期まで書いてあるなら、通知と入居契約書を突き合わせられます。確かめるのは、書いてある条件に今回の値上げが当たるかどうかと、予告の時期が守られているかどうかの2つです。そのうえで、突き合わせた結果を書面で示すよう求めることができます。
予告の時期が守られていなかった場合、家族は、いつから適用するのかをもう一度示すよう求めることができます。入居契約書に「3か月前までに通知する」と書いてあるのに1か月前に届いたのであれば、通知は入居契約書の記載と食い違っています。
入居契約書に「改定には入居者の同意を得る」と書かれている場合は、その定めが先に来ます。 協会の整理は、そう書かれていない場合の話です。同意を条件にすると入居契約書が定めているなら、同意しないという返事には契約のうえでの意味があります。
介護のサービスも同じ住まいが提供している場合は、費目によって別の定めが当たります。上がったのがおむつ代や入居者が選んで受けている便宜の費用であれば、当たるのは別の基準です。指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準の第182条です。同条第3項がこれらの費用を挙げ、第4項がこう定めています。
指定特定施設入居者生活介護事業者は、前項の費用の額に係るサービスの提供に当たっては、あらかじめ、利用者又はその家族に対し、当該サービスの内容及び費用について説明を行い、利用者の同意を得なければならない。
出典: e-Gov法令検索 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準
家賃・管理費・食費はこの条文が挙げた費用ではありません。おむつ代などが上がっている場合に限って、説明と利用者の同意が求められます。
同意書や確認書への署名を求められている場合があります。入居契約書に改定の手続きとして同意を得ると書かれていないのであれば、署名しないことだけを理由に改定が止まるとは限りません。
それでも、署名を急がないでください。署名を求められている書面の題名と文言を、先に読んでください。 「説明を受けました」と書いてある書面であれば、内訳の説明を受けた後に署名するのが順序です。説明の前に署名すると、後から根拠の説明を求めるときに、説明を受けたという自分の署名が相手の手元にあることになります。
手がかり3で「入居契約の別」が「賃貸借契約」だった住まいと、入居契約書の題名が「建物賃貸借契約書」になっている住まいの場合です。
通知に「家賃を月◯円、管理費を月◯円へ改定します」と2行並んでいる場合があります。
建物の賃貸借であれば、家賃には借地借家法が当たります。同法第32条第1項はこう定めています。
建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
出典: e-Gov法令検索 借地借家法
租税などの負担や物価が変わったとき、または近くの同じような建物の家賃と比べて不相当になったときに、貸主は借主へ家賃の増額を請求できます。借主から減額を請求することもできます。どちらも請求であって、通知した時点で新しい額が決まるものではありません。
条文の後半のただし書きが、期間を決めて家賃を上げないと約束した特約の話です。入居契約書にその特約があれば、期間の間は請求そのものが通りません。
同じ第32条の第2項が、家族に渡すものです。
建物の借賃の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃を支払うことをもって足りる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年一割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。
協議がまとまらない間は、自分が相当と認める額を払っていればよい、という条文です。後半のただし書きのとおり、裁判で確定して支払った額に不足があれば、1年あたり1割の利息を付けて払うことになります。 払わずに済むのではなく、後での精算です。
ここで問題になるのは、いくらが「相当と認める額」なのかです。近くの同じような住まいの家賃と比べて決めることになりますが、その比較を家族だけで行うのは簡単ではありません。近隣の募集中の物件の家賃は探せても、築年数も面積もサービスも違うためです。
当サイトは、この条文を使いに行くかどうかを、金額の大きさではなく払い続けられるかで分けることを勧めます。 年金と貯金の残りで通知の額を何年払えるかを数えてみて、その年数が親の見通しより短くなるなら、放置できない額です。逆に、数えた年数が変わらない程度の差であれば、この条文を使いに行くことは勧めません。協議が長引く間、施設と向かい合うことになるのは入居している親です。
払い続けられるかどうかに関わる額であれば、都道府県の担当部局に相談したうえで進めるほうが現実的です。
この条文が当たるのは家賃だけです。管理費・食費・サービス費は、この条文がいう「建物の借賃」ではありません。その住まいが有料老人ホームにも当たるのであれば、管理費と食費は1つ前の節と同じ読み方になります。
ここまでの3つを並べると、次のようになります。
| 契約の形 | 上げるときに施設が踏むこと | 家族に残ること |
|---|---|---|
| 介護保険施設の入所契約 | 文書を交付した説明と、入所者本人の文書による同意 | 内訳の文書を受け取るまで同意書を出さない |
| 利用権方式の入居契約 | 入居契約書か管理規程に書いた改定のルールに沿い、根拠を明確にする | 3つの記載がすべてあれば通知と突き合わせ、欠けていれば記載の不足を示す |
| 建物賃貸借の契約 | 家賃の増額を請求する(期間を決めて上げない特約があればその定めに従う) | 家賃について、協議がまとまるまで相当と認める額を払う(裁判で確定すれば精算される) |
同じ通知でも、契約の形が違えば、施設が踏むことも家族に残ることも違います。
根拠の説明は、返事の期限までに求められるものと、次の機会に求めるものに分かれます。書面で求めるほうが先で、運営懇談会はその後になります。
契約の形を問いません。返事の期限までに間に合う求め方は、書面での求めです。
口頭の説明は、入居契約書の記載と照らし合わせようとしたときに手元に残らないことがあります。担当者が代わったときにも、引き継がれないことがあります。
求める相手は施設によって違います。窓口になっている職員か管理者に、誰宛てで出せばよいかを先に聞いてください。
書いてもらうのは次の3つです。
求めるときには、入居契約書の該当する条を一緒に示してください。「契約書の第◯条に、改定の根拠を示すと書かれているので、その根拠をいただきたい」という形です。
いつまでに返事がほしいかも、あわせて書いてください。返事の期限が書かれた通知を受け取っているのであれば、その期限より前の日付を書きます。
有料老人ホームの場合です。サービス付き高齢者向け住宅の登録を受けているものも含みます。
有料老人ホームの設置運営標準指導指針は、施設に運営懇談会を設置することを求めています。理由として挙げられているのは、入居者の積極的な参加を促すことと、外部の者等との連携により透明性を確保することです。懇談会で報告し説明する事項は、次の3つです。
① 入居者の状況 ② サービス提供の状況 ③ 管理費、食費その他の入居者が設置者に支払う金銭に関する収支等の内容
同じ箇所は、入居者の要望・意見を運営に反映させるよう努めることも求めています。
懇談会を構成するのは、管理者・職員・入居者です。指針は、入居者のうち要介護の人については身元引受人へ周知し、必要に応じて参加できるように配慮することを求めています。親が要介護であれば、身元引受人になっている家族が、この周知と配慮の相手です。 誰が身元引受人かは入居契約書に書かれています。
入居定員が少ないなどの理由で設置が困難なときは、指針が代わりの手立てを認めています。指針が挙げているのは、地域との定期的な交流が確保されていることと、入居者の家族との個別の連絡体制が確保されていることの2つです。懇談会を聞いたことがない施設であれば、代わりに何を行っているのかを施設に尋ねられます。
収支そのものを見たい場合の求め方も、同じ指針にあります。情報開示の項は、貸借対照表及び損益計算書またはそれらの要旨について、入居者及び入居希望者の求めに応じ閲覧に供することを施設に求めています。値上げの理由が運営費の増加であるなら、この2つの書類と通知の理由が食い違っていないかを確かめられます。
ただし、懇談会は返事の期限には間に合わないことがあります。 定期的に開かれる場なので、次の開催がいつになるかを家族が選べるものではありません。
施設へ書面で求め、説明を受けても折り合わないとき、家族が次に連絡するのは施設の外です。
連絡先は2つあります。どちらへ連絡するかを分けているのは、上がった費目の額と手続きを決めている決まりです。入居契約に基づいて決まる費用は住まいを監督している部局へ、介護保険の決まりで額と手続きが定まっている費用は介護保険の窓口へ、という分かれ方です。
有料老人ホームとサービス付き高齢者向け住宅で、入居契約に基づいて決まる費用が上がった場合は、都道府県・指定都市・中核市の有料老人ホームの担当部局です。老人福祉法第29条第13項は、都道府県知事が有料老人ホームの設置者に運営の状況の報告を求め、立入検査を行えることを定めています。同条第15項は、入居者の保護のため必要があると認めるときに改善に必要な措置を命じられることを定めています。
出典: e-Gov法令検索 老人福祉法
サービス付き高齢者向け住宅も、有料老人ホームに当たるものであればこの2つの条文の対象です。 登録を受けたことで適用されなくなるのは老人福祉法第29条第1項から第3項までの届出の規定だけで、報告と立入検査も改善命令も外れません。これを定めているのが高齢者の居住の安定確保に関する法律第23条です。
あわせて、サービス付き高齢者向け住宅としての窓口もあります。同じ法律の第24条は都道府県知事が登録事業者に報告を求め立入検査を行えることを、第25条は登録事項と実際が違うときや登録の基準に適合しないときに指示できることを定めています。都道府県の住宅の担当部局が窓口です。
出典: e-Gov法令検索 高齢者の居住の安定確保に関する法律
介護保険の決まりで額と手続きが定まっている費用は、施設の種類を問わず、国民健康保険団体連合会と市町村です。介護保険法第176条第1項第3号は、2つを連合会の業務としています。指定居宅サービスや指定施設サービス等の質の向上に関する調査と、事業者や介護保険施設への必要な指導・助言です。
特別養護老人ホーム・介護老人保健施設・介護医療院の食費と居住費も、運営基準が額の上限と受け取り方の手続きを定めた費用です。この2つが窓口になります。
出典: e-Gov法令検索 介護保険法
連絡する前に、手元へ3つ用意してください。届いた通知と、入居契約書の改定について書かれた条と、施設へ書面で求めたときのやりとりです。3つ目が無いと、まず施設へ確かめるよう案内される場合があります。
ここで注意が要ります。 相談は、改定そのものを取り消させる仕組みではありません。担当部局が施設を指導したとしても、それによって新しい金額が元に戻るとは限りません。
それでも残るものが2つあります。1つは、根拠の説明を文書で受け取ることです。
もう1つは、その金額であと何年払えるかを、値上げの当否とは別に数え始めることです。
値上げの通知に返事をする前にすることは、通知を読み込むことではありません。入居のときに自分が何に署名したのかを確かめることです。
次にすることは1つです。その書類を出して、改定について何が書いてあるかを探してください。ここを飛ばすと、改定の条件も予告の時期も定まらないまま、返事の期限だけが来ます。
介護のあんしんは、介護施設を運営している事業者ではありません。だから、入居した後に届く通知について、施設に何を確かめてよいのかを正面から書けます。