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「認知症対応可」と書かれた有料老人ホームに申し込み、「今の状態では難しい」と断られた家族に向けた記事です。断られた理由が「認知症だから」のまま止まっていて、次の施設に何を伝えればよいか決まらない状態を想定しています。
この記事を読むと、断りの理由を5つに分けて自分の場合がどれかを見分けられます。そのうえで、状態が理由だったときに何を6項目まで言葉にすればよいか、それを次の施設へどう渡すかが分かります。
「認知症対応可」という言葉に、公的に決められた中身はありません。同じ言葉を掲げていても、施設によって受けられる状態は違います。
この記事が扱うのは有料老人ホームで、介護保険の指定を受けた介護付有料老人ホームと、住宅型有料老人ホームの2つを指します。介護付は、その施設の職員が介護を行う形として指定を受けたもので、制度上は特定施設入居者生活介護と呼ばれます。
サービス付き高齢者向け住宅、グループホーム(認知症対応型共同生活介護)、特別養護老人ホームは、この記事では扱いません。書面の様式も職員の配置の決まりも別で、ここで挙げる根拠がそのまま当てはまらないからです。
まず、介護サービス情報公表制度を見ます。これは介護保険法に基づいて事業者に年1回の報告を義務づける制度で、利用者が施設の情報を比べるために作られています。報告の義務がかかるのは介護保険の指定を受けた事業者であり、介護付有料老人ホームがこれにあたります。住宅型有料老人ホームそのものは指定を受けた事業者ではないため、この制度で報告する側にはなりません。
その介護付有料老人ホームについて、この制度で認知症に関わる欄は「認知症に関する取組の実施状況」であり、その中身は次の3つの人数です。
出典:介護サービス情報の公表報告システム 記入マニュアル(東京都・2025年度版)
つまり、報告が求められているのは職員が何人その研修を受けたかであって、どういう状態の人まで受け入れられるかではありません。研修修了者が何人いるかと、自分の親を受け入れられるかは、別の話です。
住宅型有料老人ホームでも、事情は変わりません。 有料老人ホームが入居の前に交付する重要事項説明書は、介護付でも住宅型でも使われる書面ですが、その標準的な様式で入居に関する要件として区分されているのは「自立している者」「要支援の者」「要介護の者」の3つであり、診断名を単位とした欄は置かれていません。
出典:有料老人ホーム 重要事項説明書 記入例(全国有料老人ホーム協会)
ここから言えることは、書面の上では、統一された受け入れ可否の欄が確認できないというところまでです。欄が無いことは、施設が診断名を見ていないという意味ではありません。面談でも、主治医が書く診療情報提供書(かかりつけ医が現在の病状や治療の内容をまとめて渡す書類)でも、診断名は伝わります。書面に統一の欄が無いというだけです。
やさしく言い直すと、こうなります。「認知症対応可」は、施設が自分でそう書いているだけの表示です。 全国どこでも同じ意味になる合格印ではありません。だから同じ「対応可」の施設でも、受けられる状態の範囲は施設ごとに違います。パンフレットの言葉を○×の保証として読むと、この違いが見えなくなります。
断りの背後には、施設の側の事情があることもあります。人員の体制や、その施設が提供しているサービスの範囲が関係している場合があります。一方で、その施設の表示や説明が十分だったかどうかは、それとは別の話です。どちらか一方に決めず、両方を確かめてかまいません。この記事は、そのうち今日から動かせるほうを扱います。
では、断られた理由はどこから確かめればよいのでしょうか。次は、理由の種類を分けるところから始めます。
具体化の前に、種類分けが要ります。理由の種類によって、次にやることが変わるからです。
たとえば、断られた本当の理由が「部屋が空いていない」だった場合、親の行動をどれだけ詳しく言葉にしても、その施設の判断は変わりません。逆に、状態が理由だったのに空室を探し続ければ、同じ結果を繰り返します。順番を間違えると、要らない努力に時間を使うことになります。
断りの理由は、大きく次の5つに分けられます。
| 種類 | 何が理由になっているか |
|---|---|
| 1 満床・定員・部屋条件 | 空きがありません。希望した居室の種類が埋まっています |
| 2 施設やサービスの対象条件 | その施設が対象としている人の範囲に入っていません |
| 3 医療・看護上の対応範囲 | 必要な医療の処置に、その施設が対応できません |
| 4 具体的な行動や必要な見守り・介助 | 特定の行動について、現在の体制で対応の見通しが立ちません |
| 5 地域・契約その他の条件 | 対象の地域の外です。契約上の条件が合い |
ませんこの5つの分かれ目は、親の行動を詳しく言葉にすれば判断が動くかどうかです。1・2・5は動きません。1は部屋の数の問題であり、5は住所や契約の条件です。2も、要介護度や自立度といった認定で決まる区分で線が引かれているため、行動をどれだけ詳しく説明しても区分そのものは変わりません。動くのは3と4だけで、この2つは必要な対応の中身が違います。
2の「対象条件」の中身は、施設の種類によって変わります。介護付有料老人ホームと住宅型有料老人ホームでは、契約の形も、介護のサービスを誰が提供するかも違います。分類の名前は共通に使えますが、その中身まで同じだと考えないでください。
実際に言われた言葉と、それがどの分類に当たるかを並べると、次のようになります。
もっとも、実際の断り文句はここまではっきりしていません。電話口での短いやり取りや、担当者が判断の中身を細かく言えない場面では、「今の状態では難しい」のように、どれとも取れる言い方で返ってきます。だからこそ、どの種類なのかを聞き返す必要があります。
この5つは、法令が定めた分類ではありません。断りの理由として実際に起こりうる種類を、こちらで整理したものです。
そのうえで、参考になる材料が一つあります。介護サービスの提供を断ることが許される「正当な理由」について、国が解釈通知を出しています。省令(法律の委任を受けて厚生労働省が定める決まり)の条文をどう読むかを、国が示した文書です。
そこでは、事業所の現員では申込みに応じきれない場合、申込者の居住地が通常の事業の実施地域の外である場合、その他自ら適切なサービスを提供することが困難な場合、という整理が示されています。
ただし、これは訪問介護についての解釈として示されたものであり、有料老人ホームへの入居の審査そのものを規律する文書ではありません。上の5分類の裏づけとしては使えません。
出典:指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準について(老企第25号)
それでも読み取れることが一つあります。断る側の事情は一つではないと、制度の側も想定しているということです。「認知症だから」の一語に見えていたものが、複数の種類に割れます。
1の満床が理由らしいときの確かめ方そのものは、この記事では扱いません。「空室があると書いてあるのに断られた」をどう検証するかは、この連載の別の記事で扱います。ここでやるのは、その可能性を先に外しておくことだけです。今できるのは、断った施設に「空きが出れば検討できるのか、それとも状態のほうが理由なのか」と一度だけ確かめておくことです。
理由が状態のほうだと分かったら、次はその中身を言葉にする作業に入ります。
ここがこの記事の中心です。断られた理由が3か4、つまり親の状態に関わるものだった場合、次にやるのは「認知症だから」という言葉を、施設が判断できる形に変えることです。
施設が判断できる形とは、その場面を見ていない職員が読んでも、同じ場面を思い浮かべられる書き方です。診断名では、そこまで伝わりません。認知症という診断名からは、夜に起きるのか昼に起きるのか、週に何回なのか、声をかければ収まるのかが何も分かりません。受け入れの可否を判断する材料として、診断名だけでは足りません。
具体化するのは、次の6項目です。
この6項目は、施設が受け入れの体制を組めるかどうかを検討するための材料です。時間帯と頻度が入っているのが要点で、施設が人を配置できる時間帯と、実際に対応が必要な時間帯を、突き合わせられる形になるからです。
実際に埋めてみると、伝わり方がどれだけ変わるかが分かります。
具体化する前
母は認知症です。夜に落ち着かないことがあります。
具体化した後
母は88歳、アルツハイマー型認知症の診断を受けています。夜間、午前2時から3時ごろに起きて玄関へ向かおうとすることが、週に2回ほどあります。「家に帰る」と言いますが、声をかけて座ってもらい、5分から10分ほど付き添うと落ち着いて寝室へ戻ります。日中は穏やかで、介助への抵抗はありません。この行動が出るようになったのは3か月前からで、それ以前はありませんでした。
同じ人の同じ状態を書いています。ただ後者なら、「深夜帯に10分程度の付き添いを週2回」という具体の負担として読めます。渡している情報の質がまるで違います。
6項目を自分だけでは埋めきれないこともあります。同居していない場合や、日中の様子が分からない場合です。そのときに聞く相手は、断った施設ではありません。日々の様子を見ている人です。ケアマネジャー、デイサービスやショートステイの職員、訪問介護の担当者が、時間帯と頻度を持っています。
断った施設に確認するのは、別のことです。その施設が何を受け入れの障害と見たのかであり、最低限、次の4つになります。
この4つを確かめることは、前の章の「理由の種類を確認する」の続きです。5つの分類のどれなのかを確かめ、状態が理由なら、その中身をここまで具体化してもらいます。ここまでが一つながりの作業になります。
聞き方の言い回しや、答えが曖昧だったときの追加の質問は、この記事では扱いません。断った施設への具体的な聞き方と、施設の種類ごとの条文の根拠は、この連載の別の記事で扱います。今の段階では、上の4つを電話で順に尋ね、返ってきた言葉をそのまま書き留めておけば足ります。言い換えずに残しておくことが、次の施設へ渡すときに効きます。
最後は、待つことについてです。状態が自然に落ち着くのを待つだけでは、次の見通しは立ちません。 最近の変化や、いま行っている対応の方法を、医療と介護の支援者と一緒に確認し、再審査に使える情報へ変えることが先です。認知症の行動や心理の症状が一律に短い期間で消えるとは限らないことは、米国の地域住民を長期に追跡した研究でも示されています。この研究が調べたのは症状が続くかどうかであって、施設に入れるかどうかではありません。 待つことに意味があるかを、この研究から個人ごとに判断することはできません。
出典:Cache County Study(認知症の行動・心理症状の追跡研究)
言葉にするものが決まったら、次は次の施設で開く書面のほうを見ておきましょう。
その施設が契約の上でどこまで引き受けると書いているかは、重要事項説明書で読めます。有料老人ホームが入居の前に交付する書面で、介護付でも住宅型でも交付されます。
ただし、様式は都道府県が定めるため、欄の名前や区分の立て方には差があります。介護付の場合は、介護保険の指定事業者としての重要事項説明書が別に交付されることもあります。だから欄の名前で探さず、中身で探します。探すのは、施設の側から契約の終了を求められる条件が書かれた箇所です。
標準的な様式の記入例では、この箇所は次のように書かれています。
入居者の行動が、他の入居者・職員の生命に危害を及ぼすかその恐れがあり、通常の介護方法・接遇方法では防止できない場合、等。
出典:有料老人ホーム 重要事項説明書 記入例(全国有料老人ホーム協会)
この箇所は、入居の審査の基準ではありません。 入居の審査は、入居する前の情報だけで先のことを判断します。契約の終了の判断は、実際にサービスを提供したあとの経過を見て判断します。判断の材料も時点も違います。
そのうえで、ここには読む値打ちがあります。入居したあとに、その施設がどこまで引き受けると書いているかが、そこに書いてあるからです。たとえば、同じ室内で他の入居者に手が出てしまい、職員が距離を取る対応を続けても止まらない、という状態がこれにあたります。
ただし、上の記入例はあくまで一例です。 文末が「等。」で閉じられているとおり、書かれる条件はこれだけではありません。利用料の支払いが滞った場合や、契約上の重大な違反があった場合など、施設ごとに別の条件が並びます。「ここまでの状態でなければ大丈夫」と読み替えないでください。 自分が申し込む施設の書面で、どこまでと書いてあるかを自分で読みます。それがこの箇所の使い方です。
「認知症対応可」という表示と、この箇所は、同じ施設の中で役割が違います。 前者は施設が自分で書いた案内であり、後者は契約の条件です。
表示の側にも基準はあります。「終身介護」「最後までお世話します」といった表示をする場合には、退去や住み替えを求めることになる入居者の状態の具体的な内容を明瞭に記載しなければ、不当な表示に当たるとする運用の基準が示されています。
出典:有料老人ホーム 重要事項説明書 記入例(全国有料老人ホーム協会)に引用された運用基準
受け入れの限界は、状態の具体で書くことが求められています。だから次の施設を見るときは、どの状態になったら退去や住み替えを求められるのかが、はっきり書いてあるかを見ます。
書面に職員の体制が書かれていることもあります。ただし、そこに出てくる数字の読み方には注意が要ります。よく目にする「3対1」がそれにあたります。
介護付有料老人ホームでは、看護職員と介護職員の合計数について、常勤換算の方法で、要介護の利用者3人につき1人以上という基準が省令(法律の委任を受けて厚生労働省が定める決まり)で置かれています。常勤換算とは、職員全員の勤務した延べ時間数を、常勤の職員1人分の勤務時間で割った頭数のことです。全部のシフトを合算して平均した数え方です。
出典:指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)第175条
かみ砕くと、夜勤の時間帯に実際は何人いるのかは、この数字からは分からないという意味です。同じ省令が夜間について求めているのは「常に一以上の介護職員が確保されること」だけで、入居者の人数との比は書かれていません。この基準は最低限の決まりであって、常にその人数がいるという意味ではありません。
この人員の基準が当てはまるのは、介護保険の指定を受けた介護付有料老人ホームです。住宅型有料老人ホームでは、介護のサービスは外部の事業者から提供されるため、同じ数字では読めません。
ここまでで、渡す言葉と、開く箇所が決まりました。あとは次の申し込みへ持っていくだけです。
ここまでで、言葉にしたものと、読む箇所が決まりました。次の施設には、それをそのまま渡します。
伝えるのは、診断名ではなく具体的な状態です。前の章で6項目まで書き出したものを、そのまま申込みの資料や面談で使います。書面に残る形で渡すと、面談に出た人以外にも同じ内容が伝わります。
聞き方も変えます。「認知症でも対応できますか」とだけ聞かないでください。この問いには、どの施設も「対応できます」と答えられます。 答えられてしまう問いを投げても、判断の材料は増えません。本人の状態を先に示したうえで、受け入れの可否と、受け入れる場合の条件を聞きます。あわせて、前の章で見た箇所について、どの状態になったら退去や住み替えを求めることになるのかを確かめます。
「介護付だから」「住宅型だから」で決めるのも避けてください。 同じ介護付有料老人ホームでも、建物の作りも、夜勤帯の人数も、職員の経験も違います。介護付と住宅型のどちらを選ぶかは、契約の形と、介護のサービスを誰が提供するかの違いであって、断られた行動の種類から自動的に決まるものではありません。
どちらを当たるか迷ったときの既定の進め方はあります。まず担当のケアマネジャーに、6項目まで書き出した状態をそのまま見せて、どちらの形が合うかを一緒に見てもらいます。 自分だけで決めないでください。この記事で扱っていない施設への切り替えは、ここでは扱いません。
断った施設に対して、次を尋ねてよい根拠もあります。介護付有料老人ホームについては、省令が次のように定めています。
指定特定施設入居者生活介護事業者は、入居申込者又は入居者…が入院治療を要する者であること等入居者等に対し自ら必要なサービスを提供することが困難であると認めた場合は、適切な病院又は診療所の紹介その他の適切な措置を速やかに講じなければならない。
出典:指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)第179条第3項
この条文をかみ砕くと、まだ入居していない申込みの段階の人も対象に含まれているということになります。だから「うちでは難しい」と言われたあとに、「では、どうすればよいか」と尋ねること自体は、無理な頼み事ではありません。
ただし、頼めることには限りがあります。条文が求めているのは、適切な病院や診療所の紹介、その他の適切な措置です。希望に合う次の老人ホームを具体的に紹介する義務までは、この条文からは出てきません。
また、この条文が当てはまるのは介護付有料老人ホームです。住宅型有料老人ホームに断られた場合は、この条文を根拠にできません。その場合は、契約の前の説明として、受け入れの条件を尋ねる形になります。
ここまでを、次の3つにまとめます。
1でやることは、満床・対象条件・医療対応・具体的な行動や必要な支援・その他のどれなのかを確かめることです。状態が理由なら、その施設が何を受け入れの障害と見たのかまで聞きます。2でやることは、何が、いつ、どのくらいの頻度でどのくらい続き、声かけで収まるか、どの程度の見守りや介助が必要か、最近変化したかを書き出すことです。日々の様子を見ている人の手を借ります。3でやることは、診断名ではなくその書き出しを渡し、あわせてその施設の夜間の体制、対応できる範囲、退去を求める条件を確認することです。
この3つは順番に意味があります。理由の種類を確かめずに具体化へ入ると、満床が理由だった場合に労力が無駄になります。具体化せずに次の施設へ行くと、渡す情報が前と同じになります。上から順に進めることで、次の申し込みで渡せるものが変わります。
「認知症対応可」は、どの状態まで受け入れられるかを示す統一された基準ではありません。施設が自分で書いた表示であり、受けられる状態の範囲は施設ごとに違います。
だから、断られたときに手に入れるべきものは、次の施設に渡せる言葉です。「認知症だから」と言われたまま次へ進まず、断られた理由を、具体的な状態と必要な支援まで言葉にします。ここが、次の申し込みを変えます。
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この記事で使った資料は次のとおりです。