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離れて暮らす親を支えていると、「何かあったとき、すぐには行けない」という心配が消えません。帰る回数を増やしても、これだけは残ります。
消えないのは、遠距離で足りなくなるものが回数ではなく、その場で決められる人がいるかどうかだからです。
この記事では、いま親のそばで誰が何をしているかを確かめたうえで、緊急のときに誰がどこまで判断してよいかをケアプランへ書いておく方法を、順に説明します。
2025年の国民生活基礎調査では、在宅の要介護者等から見た主な介護者のうち、別居の家族等が13.4%でした。同居が46.1%、事業者が16.0%、その他が0.7%、不詳が23.9%です(2025年6月時点・要支援または要介護と認定された在宅の人が対象)。離れていると、見えないものが2つあります。
ヘルパーや訪問看護が来ている時間は、専門職が親を見ています。ただし、その義務が及ぶ範囲は条文で区切られています。
指定居宅サービス等基準の第27条は、訪問介護員等が「現に指定訪問介護の提供を行っているとき」に利用者の病状の急変が生じた場合などは、速やかに主治の医師への連絡を行う等の必要な措置を講じなければならない、と定めています。
読み落としやすいのは「現に指定訪問介護の提供を行っているとき」のところです。訪問介護員が主治医へ連絡する義務を負うのは、ヘルパーがその家にいるあいだです。帰った後の夜や、訪問と訪問のあいだは、この条文の外にあります。
週に3回、1回1時間の訪問なら、専門職が親を見ている時間は週3時間です。1週間は168時間ですから、残りの165時間を誰が見るかは、別に決めることになります。
出典: e-Gov 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準
もう1つ見えないのは、連絡の相手です。
同じ基準の第37条は、指定訪問介護の提供により事故が発生した場合、事業者が市町村、利用者の家族、居宅介護支援事業者等へ連絡を行うとともに、必要な措置を講じなければならない、としています。
2つの条文を並べると、連絡の相手が分かれていることが見えます。
提供中の急変について条文が名指ししているのは、主治医への連絡です。家族へ連絡するかどうかは、この条文には書かれていません。急なときに家族へどう連絡が来るかは、事業所の取り決めやケアプランで決まる部分なので、担当のケアマネジャーか事業所に確かめてください。
さらに第37条が対象にしているのは「指定訪問介護の提供により」起きた事故です。サービスと関係のない時間に親が転んだ場合は、この条文の外になります。
出典: e-Gov 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準
見えない時間がある一方で、家族が親元へ行けない月にも動いている人がいます。ケアマネジャーです。何をすることになっているかを、先に確かめます。
指定居宅介護支援等基準の第13条第14号は、ケアマネジャーがケアプランの実施状況を把握するにあたって、利用者と家族、サービス事業者等との連絡を継続して行うこととし、特段の事情のない限り、次のように行わなければならない、と定めています。
月に1回、親の家で会って、その結果を記録に残す。これがケアマネジャーに課されている決まりです。家族から報告が来るのを待って動く形にはなっていません。
記録が付いているということは、毎月のモニタリングの記録が積み上がっているということです。電話をするとき、「先月のモニタリングで気になったところはありましたか」と聞けます。
出典: e-Gov 指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準
ただし、面接がいつも居宅訪問の形で行われるとは限りません。
同じ第14号は、次の条件をすべて満たす場合に限り、少なくとも二月に一回の居宅訪問とし、訪問しない月はテレビ電話装置等を活用して面接できる、としています。
条件が付いているので、親の場合がどちらの形になっているかは、ケアプランで確かめます。訪問が2か月に1回なら、家に人が入る回数はその分だけ減ります。
出典: e-Gov 指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準
遠くにいる家族も参加できる会議が、制度の中にあります。サービス担当者会議です。
同じ第13条の第9号は、サービス担当者会議を「利用者及びその家族の参加を基本としつつ」開く会議と定め、テレビ電話装置その他の情報通信機器を活用して行うことができるとしています。利用者や家族が参加する場合は、その活用について本人や家族の同意を得ることとされています。
帰らなくても、この会議には参加できます。ヘルパーの事業所、訪問看護、通所の担当者が一度に集まる場所は、ここしかありません。オンラインで参加できるので、移動の時間は要りません。
出典: e-Gov 指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準
ここまでを踏まえて、遠くに住む家族が人に任せられる手続きと、本人でなければできないことを分けます。分かれ目は、書類に誰の名前が要るかです。
介護保険法第27条第1項は、要介護認定を受けようとする被保険者が、指定居宅介護支援事業者、一定の施設、地域包括支援センターに、申請に関する手続を代わって行わせることができる、と定めています。
介護保険法施行規則第35条第4項は、代わって行う事業者等が申請書に「提出代行者」と表示し、事業者の別と名称を記載しなければならない、としています。申請書に、代行した事業者の名称が記載されます。
最初の申請のために家族が親元へ行かなければならない、とは決まっていません。
出典: e-Gov 介護保険法
出典: e-Gov 介護保険法施行規則
申請を代わってもらっても、認定調査そのものは親に会って行われます。
介護保険法第27条第2項は、申請があったとき、市町村が職員に被保険者と面接させ、心身の状況や生活の環境などについて調査をさせるものとする、と定めています。調査は親のいる場所で行われるので、家族が同席できるかどうかは日程の相談になります。
同じ項には、被保険者が遠隔の地に居所を有するときは、市町村がその調査を他の市町村に嘱託できる、という定めもあります。これは親のほうが保険者である市町村から離れた場所にいるときの決まりです。家族が遠くに住んでいることを理由に使えるものではありません。
出典: e-Gov 介護保険法
渡せないものも、条文にはっきり書かれています。
第13条第10号は、ケアプランの原案の内容について利用者またはその家族に説明し、文書により利用者の同意を得なければならない、としています。説明を受けるのは家族でもかまいません。同意するのは利用者本人です。
第13条第11号は、作成したケアプランを利用者と担当者に交付しなければならない、としています。交付先に家族は入っていません。
ここが遠距離でいちばん詰まるところです。あなたが内容を聞いて納得しても、計画が確定するのは親が同意したときです。親と話す時間そのものは、誰にも代わってもらえません。
出典: e-Gov 指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準
ヘルパーや訪問看護が入っていない時間をどうするかです。介護保険の中で使えるものが2つあります。
指定地域密着型サービス基準第3条の3第2号は、定期巡回・随時対応型訪問介護看護が提供するサービスの1つとして、あらかじめ利用者の心身の状況や生活の環境等を把握したうえで、随時、利用者または家族等からの通報を受け、通報内容等を基に相談援助を行うか、訪問介護員等の訪問や看護師等による対応の要否等を判断するサービスを挙げています。これを「随時対応サービス」と呼びます。
同基準第3条の4第1項第1号は、この通報を受ける担当者(オペレーター)を置くことを事業所に求めています。
通報を受けてオペレーターが訪問の要否を判断するところまでが、制度の中のサービスとして書かれています。夜中に電話を受けた家族が、救急車を呼ぶかどうかを一人で決めることにはなりません。
出典: e-Gov 指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準
ただし、このサービスは全国どこでも同じように使えるものではありません。
同基準第3条の9は、事業者が事業所の通常の事業の実施地域等を勘案して、利用申込者に自ら適切なサービスを提供することが困難だと認めた場合、居宅介護支援事業者への連絡や他の事業者の紹介などの必要な措置を速やかに講じなければならない、と定めています。「通常の事業の実施地域」という区切りが条文の中にあります。
遠距離の家族がここで確かめることは1つです。親が住んでいる市町村でこのサービスを使えるかどうかで、あなたが住んでいる場所は関係しません。確かめる先は、親のケアマネジャーか、親が住んでいる市町村の窓口です。使える条件やサービスの中身そのものは別の記事で扱うため、この記事では夜間の通報先を持てるかどうかまでにとどめます。
出典: e-Gov 指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準
もう1つは、親の住む地域の相談窓口です。
介護保険法第115条の45第2項第1号は、市町村が地域支援事業として、被保険者の心身の状況やその居宅における生活の実態その他の必要な実情の把握、関連施策に関する総合的な情報の提供、関係機関との連絡調整などを行う事業を実施するものとする、と定めています。第115条の46第1項は、その事業を地域で一体的に担う施設として地域包括支援センターを置くこととしています。
「実情の把握」が地域支援事業に含まれているので、家族が気になっていることを伝える先としても使えます。担当は親の住所で決まります。名前と電話番号を先に控えておけば、急なときに探すところから始めずに済みます。
出典: e-Gov 介護保険法
連絡先の一覧を作るだけでは、その場の判断は速くなりません。何が起きたときに誰がどこまで決めてよいかを先に決めて、計画へ書いておきます。書く場所は決まっています。
ケアプランの1枚目(第1表)に、「総合的な援助の方針」という欄があります。
厚生労働省が示す記載要領は、この欄について次のように書いています。
あらかじめ発生する可能性が高い緊急事態が想定されている場合には、対応機関やその連絡先、また、あらかじめケアチームにおいて、どのような場合を緊急事態と考えているかや、緊急時を想定した対応の方法等について記載することが望ましい。
「どのような場合を緊急事態と考えているか」を、あらかじめケアチームで決めておく。その決めたものを書く場所が、計画の1枚目にあります。
書かなければならない義務ではなく、「望ましい」とされているものです。それでも欄はあり、厚生労働省の記載要領が書くことを勧めています。同じ欄は「利用者及び家族を含むケアチームが確認、検討の上」記載するとされています。遠くにいても、あなたは検討に加わる側です。
遠距離で決めておく項目は、次の4つです。
このうち1と3は、記載要領が挙げている項目です。2と4は、遠距離の家族に必要なものとしてこの記事で足しました。4つ目が、離れて暮らす家族にとっていちばん大事なところです。全部を家族の判断に戻すと、あなたが電話に出るまで何も進みません。何も戻さないと、家族が知らないうちに物事が決まります。そのため、どこから家族の判断に戻すかを先に決めておきます。
たとえば、こういう1文になります。
「38度台の発熱が半日続いたら、ヘルパーはケアマネジャーへ連絡する。ケアマネジャーは主治医へつなぎ、受診するかどうかはその場で決めてよい。受診が決まった時点で娘へ電話する」
「玄関で転んで起き上がれないときは、救急車を呼んでよい。呼んだ後で娘へ電話する」
判断してよい範囲を渡すというのは、この1文を作ることです。
言い方は、そのまま使えます。
「次にケアプランを見直すとき、第1表の『総合的な援助の方針』へ、どういう場合を緊急と考えるかと、そのときの連絡の順番を書いてもらえますか」
「発熱で受診するかどうかは、その場でケアマネジャーさんと主治医の判断で決めてください。受診が決まった時点で私へ連絡をもらう形にしたいです」
同じ記載要領は、第2表の「サービス種別」の欄について、家族が担う介護の部分は介護者を特定して明らかにしておく必要があるとし、誰が行うのかを明記する、としています。誰が何をするかを書く場所は、もともと計画の中にあります。きょうだいが複数いるときに誰が決めるかと費用をどこから出すかを先に決める方法は、別の記事にまとめています。
遠距離で変わるところは2つあります。頼める家事の範囲と、保険から出ない分です。
親が一人で暮らしているなら、掃除や買い物、調理を頼む「生活援助」を使えるかどうかが、そのまま毎月の負担に関わります。
ケアプランの第1表には「生活援助中心型の算定理由」という欄があり、選択肢は「1.一人暮らし」「2.家族等が障害、疾病等」「3.その他」の3つです。親が一人暮らしなら、いちばん上に当たります。
同居している家族がいる場合について、厚生労働省は平成19年12月20日の事務連絡で、市町村に次のように求めています。
市町村においては、同居家族等の有無のみを判断基準として、一律に介護給付の支給の可否を機械的に判断しないようにされたい。
同居の有無だけで決めない、というのが厚生労働省の求めていることです。裏返せば、別居であることだけで何でも生活援助になるわけでもありません。本人や家族等が家事を行うことが困難かどうかを個別に見たうえで、ケアプランへ位置づけることになります。
出典: 厚生労働省 介護保険最新情報Vol.26 同居家族等がいる場合における訪問介護サービス等の生活援助等の取扱いについて(松山市のサイトに掲載された写し)
介護保険法第41条第1項は、居宅介護サービス費を「当該指定居宅サービスに要した費用」について支給する、と定めています。保険から出るのは、指定を受けた事業者が行うサービスの費用です。
家族が親元へ通う交通費は、この中に入っていません。帰る回数を減らせるかどうかが、そのまま毎月の支出の差になります。通うのをやめて親を呼び寄せる場合に介護保険の手続きがどう変わるかは、別の記事にまとめています。
保険の外で見守りや家事を頼む形もありますが、その分は全額が自己負担です。まず介護保険で使えるサービスを確かめ、足りない分だけを自費で頼む順番になります。自分の家でいくらになるかは、介護保険のサービスの自己負担と、保険の外で頼む分の全額と、親元へ通う交通費の3つを足すと出ます。前の2つの見込みは、ケアプランを作るときにケアマネジャーへ尋ねてください。
出典: e-Gov 介護保険法
遠距離介護で足りなくなるのは、帰る回数ではありません。何かが起きたときに、その場で決められる人がいるかどうかです。
次にすることは1つです。ケアマネジャーと話すときに、第1表の「総合的な援助の方針」へ、どういう場合を緊急と考えるかと、そのときの連絡の順番を書いてもらえるか聞いてください。
決めていないと、急なことが起きるたびに、あなたが電話に出るまで誰も動けません。決めてあれば、電話に出られない時間も、その場の判断が進みます。
あなたの手元に残るのは、月に1回のモニタリングの記録と、計画に書いた4つの決めごとです。そして、帰らなくても参加できるサービス担当者会議があります。
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