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入居する施設を決めた後になって、やっぱり違ったかもしれないと思い始めることがあります。本人が「行かない」と言い出したのかもしれませんし、きょうだいが反対したのかもしれません。理由が何であれ、そこで詰まるのは「今さらやめられるのか」と「払ったお金はどうなるのか」の2つです。
取りやめは、頭を下げてお願いすることではありません。入居契約書に手順の書いてある手続きです。戻る額を決めるのも施設の気持ちではなく、いつ申し出たかと、何の名目で払ったかの2つだけです。
この記事では、その2つで戻る額がどう変わるかと、施設への伝え方を順に説明します。対象は、有料老人ホームとサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)です。特別養護老人ホームなど、契約を結ばずに申し込んだだけのものを取り下げる場合は、別の記事で扱います。
やめられるかどうかから先に片づけます。
まず、取りやめの手順が契約書のどこに書かれているかを見ます。次に、戻る額を決めているものが何かを見ます。
入居を取りやめる申し出は、例外的なお願いではありません。
厚生労働省が都道府県へ示している「有料老人ホーム設置運営標準指導指針」は、入居契約書の内容について「また、入居者、設置者双方の契約解除条項を入居契約書上定めておくこと」としています。施設からの解除と並べて、入居者から解除するときの条項も置いておくように、という指導です。
つまり、あなたの手元にある契約書には、あなたからやめると申し出るときの条項が最初から入っている前提になっています。事情を説明して許してもらう話ではありません。
出典: 厚生労働省 有料老人ホームの設置運営標準指導指針について
戻る額を動かすのは、次の2つです。
この2つになる理由は、返還の仕組みの立て方にあります。老人福祉法は、前払金を受け取る施設に対し、入居した日から一定の期間のあいだに契約が解除されたときは、決められた方法で計算した額を控除した残りを返す契約を結ばなければならない、と定めています。その期間と計算方法は、老人福祉法施行規則が定めています。
出典: e-Gov 老人福祉法
期間で区切りを決め、対象になる金の範囲は別に決めるという形です。ですから、「長く迷惑をかけたから多く引かれる」でも「早く言えば施設が大目に見てくれる」でもありません。日付と名目が決まれば、額も決まります。
申し出た時期は、次の4つのどこかに入ります。
扱いが大きく変わるのは、2つ目と3つ目のあいだです。自分がどこにいるかを先に決めてから、その段を読んでください。
契約書に署名する前なら、まだ契約は成立していません。解約ではなく、申し込みの取り下げの連絡になります。
問題になるのは、その前に払った金があるときです。「入居申込金」「予約金」「申込証拠金」など、施設によって呼び方が変わります。
この金をどう返すかを決めた条は、老人福祉法にも標準指導指針にもありません。標準指導指針の本文には、「申込金」「預り金」という語そのものが出てきません。ですから、判定は金の名前ではなく中身で行います。
代わりに、手元で確かめられることが2つあります。
1つ目は、その金が何の対価かです。老人福祉法は「有料老人ホームの設置者は、家賃、敷金及び介護等その他の日常生活上必要な便宜の供与の対価として受領する費用を除くほか、権利金その他の金品を受領してはならない」と定めています。家賃でも敷金でもサービスの対価でもない金は、そもそも受け取ってはならない金です。当たるかどうかを決めるのは領収書の表題ではなく、何の対価として受け取ったかです。
出典: e-Gov 老人福祉法
2つ目は、その金が前払金の一部かどうかです。標準指導指針は「前払金の内金は、前払金の20%以内とし、残金は引渡し日前の合理的な期日以降に徴収すること」としています。契約の前に払った金が前払金の内金であれば、それは前払金の一部なので、入居を始める前に取りやめたときの扱いに乗ります。
まだ契約を結んでおらず迷っている段階なら、同じ指針が別の道も示しています。既に開設されている有料老人ホームは、希望する入居希望者に対して、契約締結前に体験入居の機会の確保を図ることとされています。決める前に、一度泊まって確かめることもできます。迷っている理由が費用なら、その月額に制度で下げる余地が残っていないかを確かめる方法は、別の記事にまとめています。
出典: 厚生労働省 有料老人ホームの設置運営標準指導指針について
まず領収書と申込書を出して、その金が何の対価として書かれているかと、契約書に署名した日があるかどうかを見てください。
この段の答えは、はっきりしています。
標準指導指針は「入居開始可能日前の契約解除の場合については、既受領金の全額を返還すること」としています。何が既受領金に含まれるかまでは、この指針には書かれていません。それまでに払った金のうち何がここに入るかは、契約書と領収書の内訳で確かめてください。
出典: 厚生労働省 有料老人ホームの設置運営標準指導指針について
入居開始可能日は、入居契約書に書いてある日です。標準指導指針は、入居契約書に入居開始可能日を明示することも求めています。まだその日が来ていなければ、控除の計算は出てきません。
ただし、この指針は法律ではありません。厚生労働省が都道府県に対して示している指導の指針です。契約書にこれと違う定めが書かれていることはあります。その場合は、指針がこう示していることを伝えて、その定めの根拠の説明を求めてください。
入居を始めた後は、期間で扱いが変わります。最初の区切りが3か月です。
老人福祉法施行規則は、入居後3か月が経過するまでのあいだに契約が解除された場合について、控除の方法を次のように定めています。
家賃その他第二十条の九に規定する費用(次号において「家賃等」という。)の月額を三十で除した額に、入居の日から起算して契約が解除され、又は入居者の死亡により終了した日までの日数を乗ずる方法
月額を30で割った額が1日あたりの額で、それに実際に入居していた日数を掛けた額だけを引く、という意味です。
出典: e-Gov 老人福祉法施行規則
引けるのはこの日割りの額だけです。入居した時点で何割かを引く形の計算は、この期間には出てきません。この入居後3か月以内の扱いは、施設が渡す書面では「短期解約」と呼ばれていることがあります。
ここで気をつけることが1つあります。契約書に「解約は3か月前に申し出ること」といった予告の期間が書かれていることがあります。標準指導指針は、この予告の期間を使って前払金の返還の期間を事実上短くし、入居者の利益を不当に害してはならない、としています。予告の期間があることと、3か月以内の返還が減ることは別の話です。
出典: 厚生労働省 有料老人ホームの設置運営標準指導指針について
3か月を過ぎると、計算の仕方が変わります。
老人福祉法施行規則は、この場合について「契約が解除され、又は入居者の死亡により終了した日以降の期間につき日割計算により算出した家賃等の金額を、一時金の額から控除する方法」と定めています。
出典: e-Gov 老人福祉法施行規則
引く額ではなく、返す額を日割りで出す形です。基準になるのは、その施設が何か月住むと想定して前払金を計算したかという月数です。標準指導指針は、終身にわたる契約の前払金の額を「(1ヶ月分の家賃又はサービス費用)×(想定居住期間(月数))」に、想定居住期間を超えて契約が続く場合に備えて受け取る額を足したもの、としています。
出典: 厚生労働省 有料老人ホームの設置運営標準指導指針について
つまり3か月を過ぎた後の戻る額は、その施設が何か月を想定居住期間としているかで変わります。同じ日数住んでも、想定居住期間が5年の施設と10年の施設では、残る額が違います。この月数は、自分の入居契約書と重要事項説明書に書いてあります。
入居までに払う金は、だいたい次の4つに分かれます。
同じ日に振り込んだ1本の金でも、内訳ではこの4つに分かれていることがあります。振込の控えではなく、領収書と契約書の内訳を見てください。
契約の前に払う金です。名前は施設ごとに違います。
この金の扱いは、名前ではなく、前払金の内金かどうかで分かれます。標準指導指針が前払金の内金を前払金の20%以内としていることは、2-1で見たとおりです。払った額が前払金の20%以内で、領収書に前払金の一部と書かれていれば、それは前払金の内金です。
出典: 厚生労働省 有料老人ホームの設置運営標準指導指針について
前払金の内金であれば、扱いは前払金と同じになります。判断がつかないときは、施設に「この金は前払金の内金として受け取ったものですか」と聞いてください。名前ではなく、この一言で分かれます。
敷金は、前払金の計算に乗りません。別に精算される金です。
標準指導指針は敷金について「敷金を受領する場合には、その額は6か月分を超えないこととし、退去時に居室の原状回復費用を除き全額返還すること」としています。上限は家賃の6か月分で、返すときに引けるのは居室の原状回復の費用だけです。
出典: 厚生労働省 有料老人ホームの設置運営標準指導指針について
入居していなければ、原状回復の費用も生じません。前払金の返還の話と混ぜずに、敷金は敷金として全額の返還を求めてください。
前払金は、名前で決まりません。
老人福祉法施行規則は、前払金に当たるものを「入居一時金、介護一時金、協力金、管理費、入会金その他いかなる名称であるかを問わず、有料老人ホームの設置者が、家賃又は施設の利用料並びに介護、食事の提供及びその他の日常生活上必要な便宜の供与の対価として収受する全ての費用」としています。敷金だけが、この範囲から外れています。
出典: e-Gov 老人福祉法施行規則
領収書に「協力金」「入会金」「管理費」と書かれていても、家賃やサービスの対価として一括で受け取った金なら前払金です。前払金であれば、2章の3か月の区切りがそのまま当たります。
なお前払金には、施設が事業を続けられなくなったときに備えた保全措置という別の仕組みもあります。こちらは契約を結ぶ前に確かめるもので、取りやめたときに戻る額の計算とは別に動きます。
前払金を払っていない場合は、2章の3か月の区切りは出てきません。
月払いの方式だけで契約しているなら、その月のサービスの対価を月ごとに払っていることになります。返してもらう前払金がないので、確かめるのは、いつまでの分を払う契約になっているかです。これは契約書の解除の条項に書いてあります。
現物の例を1つ挙げます。ある有料老人ホームの重要事項説明書には、「ただし、料金プラン「月払方式」の場合は、短期解約には該当しません」という注記があります。ここでいう短期解約が、2-3で見た入居後3か月以内の扱いです。1施設の書き方であって全施設の条件ではありませんが、同じ施設でも支払いの方式によって扱いが変わることは、この1行から分かります。
出典: 東京都住宅供給公社 明日見らいふ南大沢 重要事項説明書
戻る額は、施設が決めて教えてくれるものではありません。契約のときに渡された書面に、計算の仕方が書いてあります。
探す先は3つです。
初めの2つが有料老人ホームで渡される書面、3つ目がサ高住で渡される書面です。手元にどれがあるかを、先に確かめてください。
標準指導指針は、入居契約書に明示すべきものとして、契約解除の要件及びその場合の対応、前払金の返還金の有無、返還金の算定方式及びその支払時期などを挙げています。
出典: 厚生労働省 有料老人ホームの設置運営標準指導指針について
読む順は、この並びのとおりです。解除の条項を見て、返還金があるかどうかを見て、算定方式を見て、最後に支払いの時期を見ます。ここまで読めば、自分の場合に戻る額がどう決まるかを読み取れます。算定方式は施設ごとに違うので、読み取った式と、施設が出した数字を突き合わせる形になります。
契約書と一緒に渡されたもう1枚が、重要事項説明書です。
この書面には、法令にも名前が出てきます。老人福祉法施行規則は、有料老人ホームの届出に必要なものとして「入居契約書及び設置者が入居を希望する者に対し交付して、施設において供与される便宜の内容、費用負担の額その他の入居契約に関する重要な事項を説明することを目的として作成した文書」を挙げています。この2つ目が重要事項説明書です。
出典: e-Gov 老人福祉法施行規則
ここに、返還金の算定方式が数式や表の形で載っています。先ほどの重要事項説明書には「※償却期間経過後は、返還金はありません」という注記もあります。何か月を過ぎると返還金がゼロになるかは、この注記と算定方式で読み取れます。
出典: 東京都住宅供給公社 明日見らいふ南大沢 重要事項説明書
サ高住でも、入居して3か月以内の計算は有料老人ホームと同じです。サービス付き高齢者向け住宅の登録の基準を定めた省令の第12条が、同じ3か月と、同じ日割りの計算を定めています。住まいの種類でこの区切りは動きません。
違うのは、それがどこに書かれているかです。サ高住には、有料老人ホームより1つ手前の段階で渡される書面があります。
同じ省令の第20条は、契約を結ぶ前に交付して説明する事項として「家賃等の前払金の返還債務が消滅するまでの期間」と「前号の期間中において、契約が解除され、又は入居者の死亡により終了した場合における家賃等の前払金の返還額の推移」を挙げています。
出典: e-Gov 国土交通省・厚生労働省関係高齢者の居住の安定確保に関する法律施行規則
返還額の推移は、いつやめたらいくら戻るかを並べた一覧です。契約の前に渡されているので、探しに行くのではなく、契約のときの書類の束を見返してください。
順番があります。日付を書き出し、書面で申し出て、返還の内訳を文書で求めます。この3つを、この順で行います。
先に日付を書き出します。書くのは次の4つです。
2章の区切りは、全部この日付で決まります。老人福祉法施行規則の計算も「入居の日から起算して契約が解除され、又は入居者の死亡により終了した日までの日数」を使います。標準指導指針の全額返還も「入居開始可能日前」かどうかで分かれます。
出典: e-Gov 老人福祉法施行規則
この4つが書き出せれば、自分がどの段にいるかは自分で決められます。施設に聞く前に、ここまでを済ませてください。
電話だけで伝えると、伝えた日が残りません。
契約書に予告の期間が定められていると、申し出た日と契約が終わる日は別の日になります。2つの日が別々に要るので、申し出た日そのものが形に残る伝え方をします。
メールでもかまいません。書くのは次の5つです。
理由を書く必要はありません。入居契約書には、入居者から解除するときの条項が最初から入っている前提になっています。
金額だけを口頭で聞かないでください。求めるのは次の5つです。
この5つを求めてよい根拠は、入居契約書そのものにあります。契約書には返還金の算定方式と支払時期が明示されていることになっているので、施設はその式に数字を当てはめて計算しているはずです。当てはめた数字を見せてもらうだけです。
出てきた内訳と、自分が契約書から計算した額を並べてください。合っていれば、そこで終わりです。
自分の計算と施設の計算が合わないことがあります。そのときに取れる手が2つあります。
額が合わないときは、施設が出した返還の内訳と、自分が契約書の算定方式から計算した額を並べて、どの費目でいくら違うのかを先に絞ります。そのうえで、違約金や解約に伴う損害賠償として請求されている額があるときは、その根拠の説明を求めることができます。
消費者契約法は、事業者が解除に伴う損害賠償や違約金の支払を請求する場合について、「当該消費者から説明を求められたときは」、その算定の根拠の概要を説明するよう努めなければならない、と定めています。
出典: e-Gov 消費者契約法
求めるのは金額の交渉ではなく、根拠の説明です。何を平均的な損害として見積もったのかを聞けば、そこに入っている費目が自分の場合にも生じたものかどうかを、自分で見られます。
同じ条は、平均的な損害の額を超える部分を無効とも定めています。ただし、無効かどうかを施設との話し合いの場で確定させることはできません。まず根拠の説明を受け取ってください。
説明を受け取っても納得できないときは、外に相談先があります。
1つは、公益社団法人全国有料老人ホーム協会です。同協会の苦情対応規程は、会員が設置する有料老人ホームとサ高住に関する苦情のうち、調査の対象とする事項に「入居契約又は介護保険の各種利用契約等に関する事項」を挙げています。入居契約そのものが対象に入っています。
もう1つは、その施設のある都道府県です。老人福祉法は、有料老人ホームの設置者に対して運営の状況の報告を求めたり、立入検査をしたりする権限を都道府県知事に与えています。施設を指導する立場にあるのが都道府県です。
出典: e-Gov 老人福祉法
どちらに相談するときも、持って行くものは同じです。
この5つがあれば、話は事実の突き合わせから始まります。
取りやめは、迷惑をかける話ではなく手続きです。戻る額を決めるのは施設の気持ちではなく、いつ申し出たかと、何の名目で払ったかの2つでした。
入居を始める前なら、指針は既受領金の全額を返すこととしています。ただしこれは法律ではなく都道府県への指導の指針なので、契約書に違う定めがあれば、その根拠の説明を求めることになります。入居して3か月以内なら、省令が定めているとおり、引けるのは月額を30で割った額に入居日数を掛けた分だけです。3か月を過ぎた後は、その施設の想定居住期間で残りが決まります。
次にすることは1つです。契約書と重要事項説明書を出して、4つの日付を書き出してください。
ここを飛ばして先に施設へ電話をすると、出てきた額が高いのか安いのかを確かめる材料が手元にないまま、返事をすることになります。
あなたの手元には、4つの日付と、契約書に書かれた返還金の算定方式が残ります。
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