※1999年創業の会社が運営する「シニアのあんしん相談室」よりサービス提供を受けております。

契約の話が、もうそこまで進んでいる。
書類も揃った。あとはハンコを押すだけ。
でも、なんとなく引っかかっている。家族だけで決めてしまっていいんだろうか、と。
契約の前に、もう一度、親御さん本人を連れて見学してください。できれば体験入居まで。
ただ、難しいのはその先です。
連れて行きたいのに「施設なんか行かない」と嫌がられる。やっと連れて行けたのに、当日何を見ればいいのか分からない。
多くのご家族がつまずくのは、決まってこの部分です。
本人同行が必要な理由、嫌がる親の誘い方、当日の観察ポイント、そして万一合わなかったときにかかるお金まで、順に書きます。
理由は、次の4つです。
まず、当たり前の話ですが、そこで暮らすのは家族ではなく本人です。
そして、食事の味、スタッフの声かけの心地よさ、トイレやお風呂の使いやすさ。これらは、本人が体験しない限り誰にも判断できません。パンフレットには絶対に載っていない情報です。
納得感の話もします。本人が納得しないまま入居すると、環境になじめず、早期退去につながることがあります。逆に「自分で見て、自分で決めた」という感覚があるだけで、入居後の落ち着き方がまるで違う。
4つ目は、施設側の目線です。スタッフが本人の歩き方や会話、体の状態を直接見れば、「うちで対応できるか」を正確に判断してもらえる。本人と施設の食い違いは、ここでかなり減らせます。
たとえば、こんな話があります。
家族だけで契約を済ませた。ところが入居後、本人が「食事がまったく口に合わない」「同じフロアの雰囲気が怖い」と訴えはじめ、数か月で退去することになった。
これは、入居相談の現場でよく聞かれる失敗パターンです。
しかも、失うのはお金だけじゃない。本人の心に「施設は嫌な場所だ」という傷が残る。そうなると、次の施設探しがいっそう難しくなります。
契約までの流れは、こうなっています。
家族だけの見学で候補を2〜3か所に絞る。本人同行の再見学で、本人の反応を確かめる。体験入居で数日〜1週間、実際に寝泊まりして最終確認をする。それから契約です。
どの段階からでも、引き返せます。
本人同行の見学で反応が悪ければ、別の候補に戻ればいい。体験入居で合わなければ、契約しなければいいだけ。
「もう話が進んでいるから」と焦る必要は、まったくありません。
知っ得メモ① 「重要事項説明書」は見学前に取り寄せられる
有料老人ホームには「重要事項説明書」という書類の開示が義務付けられています。契約時だけでなく、見学前の段階でも請求できます。施設や都道府県のホームページで公開されていることもあります。
注目したいのは、3つ。「前年度の退職者数(職員の入れ替わりの多さ)」「入居率」「入居者の要介護度の内訳」です。
職員がすぐ辞めてしまう施設は、ケアの質が安定しにくい傾向があります。
パンフレットには載らない施設の「素顔」が、数字で分かる。家族だけの見学の段階で候補の施設に請求して、並べて比べてみてください。厚生労働省の「介護サービス情報公表システム」でも、無料で職員数などを調べられます。
多くのご家族が、最初にぶつかる壁がここです。
嫌がる親を誘うときの手だては、次の4つです。
拒否の理由が違えば、届く言葉も変わります。テクニックの前に、まず本人の気持ちからです。
「施設に行かない」という言葉の裏には、たいてい次のような感情があります。
ここを飛ばして、正面から「施設に入る話」として説得しにいく。
これをやると、感情を刺激して、だいたいこじれます。
具体的には、こうです。
「入るかどうかは別として、一緒に見るだけ見てほしい。決めるのはお母さん(お父さん)だから」
これで、選ぶ権利は自分にあると伝わります。
「私が安心したいから、付き合ってほしい」
こう頼めば、老いを認めさせる話になりません。
「ランチが美味しいらしいから、食べに行こう」
これなら、施設見学ではなく、ただのお出かけとして受け止めてもらえます。
ただし、ひとつだけ絶対にやめてほしいことがあります。
「病院に行く」など、事実と違う嘘で連れ出すこと。
着いた瞬間に、裏切られたと感じます。そして施設そのものへの拒否感が、決定的になります。
これ、けっこうあります。
親は、子の言葉より第三者の言葉を受け入れる。
ケアマネジャーからは「一度見に行きませんか」と。主治医からは「体のためにも環境を整えましょう」と、健康の話として。
同じ内容でも、言う人が変われば、身構えられにくくなります。
認知症の進行や体調の問題で、どうしても連れて行けない。そういうケースも当然あります。
その場合は、次の3つでリスクを減らしてください。
相談員が自宅や病院まで出向いて面談する対応は、多くの施設がしています。まず聞いてみてください。
書面を渡しておけば、本人と会えない施設側でも、対応できるかどうかを判断できます。
それでも入居後に食い違いが出ることはある。だからこそ、解約したときの費用の扱いを、契約前に確かめておく。
これが最低ラインです。
知っ得メモ② 「まだ早い」の先延ばしには、法律上のリスクがある
施設の契約は、原則として本人名義で結びます。そして契約には、本人が内容を理解して判断できる力(意思能力)が必要です。
認知症が進んで意思能力が不十分と判断されると、本人は契約を結べません。家族が代わりに署名することも、原則できません。
その場合は「成年後見制度」の利用が必要になり、家庭裁判所への申立てから数か月の期間と、継続的な費用がかかります。
つまり、「本人が嫌がるから、もう少し落ち着いてから」と先延ばしを重ねるほど、手続きの面でも選択肢が狭くなっていく。
本人が自分で見て、自分で判断できるうちに動く。これが気持ちの面でも法律の面でも、いちばん負担が少なく済みます。
設備や料金を確認する一般的なチェックリストは、家族だけの見学で済ませておいてください。
本人同行の日は、本人の反応を見ることだけに集中する。
本人同行の日に確かめることは、次の3つです。
見学中の様子と、帰り道に聞き出せた言葉。この2つがそろうと、本人が納得しているかどうかが、かなり見えてきます。
見るのは、この4つです。
入口を入ったとき、表情がこわばっていないか。食堂や談話室で、表情がゆるむ瞬間があるか。
普段より極端に無口になっていれば、緊張か拒否のサインです。
スタッフに話しかけられたとき、目を合わせて応じるか、顔をそむけるか。
掲示物や、他の入居者の活動に、自分から目を向けるかどうか。
本人の気持ちは、言葉よりこういうところに出ます。
知っ得メモ③ 本人同行の見学は「午前中」が狙い目
見学は、時間帯によって本人の様子の見え方が変わります。
認知症のある方は、夕方になると不安や混乱が強まる「夕暮れ症候群」と呼ばれる状態が出やすい。夕方の見学では、本来の反応が見られないことがあります。
認知症でなくても、高齢の方は午後になると疲れが出やすいものです。
おすすめは、本人の調子が良い午前中に見学を始めて、そのまま昼食を試食させてもらう流れ。
普段の雰囲気が分かる「食事どきの見学」と、本人の調子が良い「午前中」。これが一度に両立できます。
「どうだった?」
これ、いちばんやりがちな聞き方です。そして、だいたい「まあ、いいんじゃない」で終わります。
聞き方を、こう変えてください。
具体的に聞くほど、本音が出ます。
あと、もうひとつ。
その場では言えなかった気持ちが、数日たってからぽろりと出ることがあります。
だから、見学直後の一言だけで判断しないこと。
言葉での感想が難しい場合でも、判断材料はちゃんとあります。
見学中、落ち着いて座っていられたか。そわそわして出口を探していなかったか。スタッフの声かけに、穏やかに応じていたか。
こうした様子は、本人の「心地よさ」を映す、立派なサインです。
できれば見学に2回行って、反応が安定しているかを見る。そこまでできれば、かなり確かです。
ここまで手間をかける価値があるのか。
失敗したときにいくらかかるのか、数字で見ておけば判断しやすくなります。
かかる費用と、合わなかったときに戻るお金。両方を先に知っておくと、判断を急がされずに済みます。
多くの有料老人ホームには、体験入居制度があります。
費用は1泊あたりおおむね5,000円〜1万円程度(食費込み)が目安。キャンペーンで無料や割引になる施設もあります。
数万円の出費で、数百万円規模の失敗を防げる。
投資としては、かなり分のいい話だと思います。
有料老人ホームには、契約から90日以内に解約した場合、前払金(入居一時金)が原則返還される制度が、法律で定められています。
実際に滞在した日数分の費用や、原状回復費などは差し引かれます。
「合わなければ90日以内に判断すればいい」
この決まりを知っておくだけで、判断を急がずに済みます。
ただし、戻らないものもあります。
月払いの費用や引っ越しの負担は戻りません。何より、本人の心の負担は、制度では取り返せない。
90日ルールはあくまで最後の保険で、大事なのは事前の本人同行です。
契約前であれば、キャンセルに費用はかかりません。
申込金(手付金のようなもの)を求められた場合も、契約前の返還条件を、必ず書面で確認しておいてください。
「もう申し込んだから」と、迷いを飲み込む必要はありません。
契約前に確認したいのは、この5つです。
老人ホームの契約は、確かに大きな決断です。
でも、引き返せるポイントは何度もあります。
そして、これは覚えておいてほしいのですが、良い施設ほど「ぜひご本人と一緒に、もう一度どうぞ」と歓迎してくれます。
逆に、本人同行の見学や体験入居を嫌がる施設。
そこは、少し立ち止まって考え直したほうがいいサインです。
本人の目と気持ちで確かめてからでも、決して遅くはありません。