親の施設入居前に渡す引継ぎ票の作り方と渡し方

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シニアのあんしん相談室


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入居の契約が終わって、荷物と書類の準備をして、あとは入居日を待つだけ。そこで手が止まる人がいます。「普段の様子って、どこまで伝えればいいんだろう」「こんな細かいこと書いたら、迷惑じゃないかな」と考えているうちに、面談の日が来てしまう。

荷物と書類を渡すだけでは、親御さんの「普段」と「連絡してほしい境目」は伝わりません。

朝食をあまり食べない。夜に一度トイレに起きる。急かされると混乱する。そういう、家族にとっては「わざわざ言うことでもない」情報こそ、スタッフが親御さんを知るための手がかりになります。そしてこれは、家族にしか書けない部分です。

家族が用意する引継ぎ票について、そのまま書き写せる様式、言いにくいことの言い換え、いつ誰に渡してどう見直すかまでをまとめます。

荷物と書類だけでは普段は伝わらない

書類には、必要なことが書いてあります。ただ、何時ごろ起きるのか、どう呼ばれると嬉しいのか、どんな場面で機嫌が悪くなるのかは載りません。そこを埋めるのが、家族の一枚です。

  • スタッフは入居時の姿から知ることになる
  • 正式書類と重ねずに一枚を分ける

どちらも、家族の一枚が必要になる理由です。

スタッフは入居時の姿から知ることになる

スタッフが最初に出会うのは、環境が変わった直後の親御さんです。

普段はよく笑う人なのか。もともと口数が少ない人なのか。それを知らなければ、「いつもと違う」の判断ができません。比べる材料がないからです。

家族が渡す情報は、その比較の材料になります。

高齢の方は、不調をはっきり言葉にしないこともあります。だからこそ、普段の姿を先に共有しておく意味があります。

正式書類と重ねずに一枚を分ける

家族が書く一枚は、医療や契約の書類を置き換えるものではありません。診療情報提供書やお薬手帳、契約書、施設が行う正式なアセスメントの代わりにはなりません。それらと重ねない「補足の一枚」として作ります。

薬の内容は、お薬手帳や医療機関からの書類が正本です。介護の計画は、施設が正式な手順で作ります。

家族の一枚は、その手前にある「暮らし方」と「連絡の希望」をまとめたもの。役割を分けておくと、渡す側も受け取る側も迷いません。

家族が伝えた情報が計画に反映される仕組み

「メモを渡しても、どうせ読まれないのでは」。ただ、家族が伝えた希望は、施設がケアの計画を作るときに勘案するものとされています。

  • 施設サービス計画は家族の希望も勘案する
  • 緊急時の連絡先は名簿として整備される
  • 様式や担当は施設によって異なる

根拠になるのは、厚生労働省が示した運営基準と指導指針です。

施設サービス計画は家族の希望も勘案する

介護老人福祉施設の運営基準では、施設サービス計画を作るときに、入所者本人の希望、アセスメントで得られた専門的な見地、そして家族の希望を勘案するものとされています。

さらに計画には、本人と家族の生活に対する意向、生活全般の課題、介護や看護、食事などの目標を具体的に置くという解釈が示されています。

つまり、家族が伝えた内容は、その場かぎりの雑談ではなく、計画を組み立てるときの材料として扱われます。

出典:厚生労働省「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準について」

緊急時の連絡先は名簿として整備される

有料老人ホームの設置運営標準指導指針では、緊急時に迅速かつ適切に対応できるよう、入居者と身元引受人等の氏名・連絡先を記載した名簿を整備するよう示されています。

連絡先は、施設が整えるものとして指針に書かれています。

だからこそ家族の側でも、誰に、どの番号に、どの時間帯ならつながるのかを、あらかじめ書いた形で渡しておくと話が早い。

出典:厚生労働省「有料老人ホームの設置運営標準指導指針について」

様式や担当は施設によって異なる

正式な書類、聞き取りの担当者、医療と介護の契約関係は、施設の種別や運営方法によって異なります。

家族が作る一枚は、全国共通の必須書式ではありません。あくまで補足として渡すものです。

「これを出せば手続きが済む」ものではなく、「これを見ながら担当者と話す」ためのものです。

出典:厚生労働省「高齢者向け住まい」

そのまま使える引継ぎ票の様式

理由がわかっても、いざ書こうとすると手が止まる。そのまま書き写せる様式を用意しました。

  • 引継ぎ票のひな形
  • 空欄のまま渡してかまわない
  • 服薬と受診は所在と担当だけ書く

書き写して、書ける欄から埋めてください。

引継ぎ票のひな形

紙でも、スマホのメモでもかまいません。

【入居前の引継ぎ票(家族から施設へ)】

本人の氏名: 記入者: 続柄: 記入日:

■ 呼ばれたい名前と意思表示

本人が呼ばれたい名前:

意思の伝え方(言葉/うなずき/表情など):

伝わりやすい話しかけ方(どちら側から・どのくらいの速さで):

■ 1日の過ごし方

起床/就寝:

食事(時間帯・量・好きなもの・食べにくいもの):

入浴(好みの湯加減・苦手な手順):

排泄(日中と夜間の様子・声かけの要否):

落ち着く習慣(飲み物・音楽・日課など):

苦手なこと(急かされる・大きな音など):

■ できることと手伝ってほしいこと

自分でできること:

声をかければできること:

見守りがあると安心なこと:

介助が必要なこと:

■ 服薬と受診(薬の名前や量は書きません)

お薬手帳の所在:

医療機関からの書類の所在:

これまでの薬の管理者(本人/家族/その他):

かかりつけの医療機関:

薬と受診の内容を確認する相手:

■ 家族の連絡先

第一連絡先(氏名・続柄・電話・つながりやすい時間帯):

第二連絡先(氏名・続柄・電話・つながりやすい時間帯):

■ 連絡の希望(施設と相談して確定する欄)

すぐ連絡してほしい場面:

次回の報告でよい場面:

施設と話し合って決めたこと:

■ 確認と見直し

施設側の確認担当者(氏名・役割):

内容を確認した日:

入居後の見直し日:

空欄のまま渡してかまわない

細かく正確に書く必要はありません。ここを勘違いして、完璧なものを作ろうとして、結局何も渡せずに終わるのがいちばんもったいない。

全部埋める必要はありません。

わからない欄は「わかりません」と書いておけばいい。むしろ、家族が把握できていない部分がわかることにも意味があります。

書き方も、専門用語はいりません。「急かされると混乱します」「頭を洗われるのを嫌がります」。ふつうの言葉のほうが、人柄が伝わります。

同居していないなら、本人やきょうだいに聞いてみてください。自分の知らない情報が出てきます。

服薬と受診は所在と担当だけ書く

ここだけは、書くことと書かないことをはっきり決めてください。

薬の名前や量を、記憶だけで書き写さないこと。

家族が書いた薬の情報が、そのまま服薬の指示として使われる形になるのは危険です。書くのは、お薬手帳や医療機関からの書類がどこにあるか、これまで誰が管理していたか、内容を確認する相手は誰か。この三つだけで十分です。

参考までに、公的な入院時情報提供書にも、生活歴や趣味、ADL、薬剤管理、お薬に関する特記事項といった欄があります。これは施設入居用の必須様式ではありませんが、暮らしの情報と薬の情報を分けて渡すという考え方の例にはなります。

知っ得メモ① 「できること」も必ず書く

家族はつい、「できないこと・心配なこと」ばかり書きます。

でも、「ここまでは自分でできます」という情報も同じくらい大事です。

できないことだけを並べた紙を渡すと、受け取る側は安全を優先して考えます。当然です。

「着替えは時間がかかりますが、自分でできます。見守りだけお願いしたいです」

この一行があるかないかで、伝わり方が変わります。引継ぎ票に「できること」の欄を置いているのは、そのためです。

出典:厚生労働省「入院時情報提供書の標準様式」

言いにくいことを角が立たない形で書く

書いていて手が止まるのは、たいていマイナスに聞こえそうな情報のところです。「頑固」「怒りっぽい」「失敗を隠す」。書きかけて、消す。でも、伏せたままにすると、スタッフは判断材料を持たないまま対応することになります。

  • 起きやすい場面とうまくいく対応で書く

書き方を変えれば、十分に渡せます。

起きやすい場面とうまくいく対応で書く

コツはひとつだけ。

「困った性格」として書かない。「起きやすい場面」と「家でうまくいった対応」をセットで書く。

言いにくい本音こう書くと角が立たず、正確に伝わる
とにかく頑固で困るこだわりが強く、急かされると混乱しやすいです。本人のペースを待つと落ち着くことが多いです
怒ると手が出ることがある興奮すると手が出ることがあります。〇〇(きっかけ)の場面で起きやすいので、先にお伝えします
失禁を隠す癖がある失敗を恥ずかしがって自分から言えないことがあります。さりげなく確認していただけると助かります
人の悪口を言う気を許した相手に厳しい言い方をすることがありますが、本人なりの親しみの表現のようです
お金への執着が強い財布や通帳のことを気にします。家では「家族が預かっている」と伝えると落ち着くことがありました

こう書くと、引継ぎ票がそのまま対応の手がかりになります。

知っ得メモ② 本人の前で話しにくいことは分けて渡す

入居前の面談に、本人が同席することがあります。

本人の目の前では言いにくい内容もあります。

その場合は、その部分だけ別の紙にして、面談の前後に担当者へ渡す方法があります。「本人の前では話しにくい内容です」と一言添えれば伝わります。

後日あらためて電話や書面で伝えてもかまいません。渡し方は、施設の担当者に相談して決めてください。

言えなかった情報が、いちばん渡したかった情報だった。そうならないための逃げ道です。

いつ誰にどう渡すかの手順

一度に全部そろえなくて大丈夫です。書き始めるのは入居前、渡すのは面談、見直すのは入居後です。

  • 入居前に書き始める
  • 面談で渡して口頭でも補足する
  • 確認担当者と見直し日を決める

渡す相手も量も、場面によって変わります。

入居前に書き始める

引継ぎ票を印刷するか、スマホのメモに写して、思いついたときに書き足していきます。

一気に完成させようとしないこと。それだと終わりません。

書ける欄をひとつ埋めるところから始めてください。

面談で渡して口頭でも補足する

施設側から生活状況の聞き取りがある場合、そのときに紙かデータで渡して、特に大事な点だけ口頭で補足します。

口頭だけだと、伝え漏れと聞き漏れが起きます。

形に残すこと。ここは譲らないでください。

そして、当日に現場で顔を合わせる場面があるなら、伝えるのは一点か二点に絞ります。多く言おうとするほど残りません。

確認担当者と見直し日を決める

ここが、この一枚のいちばん大事な部分です。

渡して終わりにしないこと。

誰がこの内容を確認したのか。いつ見直すのか。

引継ぎ票の最後にその欄を置いているのは、そのためです。担当者の氏名と役割、内容を確認した日、そして入居後に見直す日を、その場で書き込んで合意します。

連絡の希望も同じです。「すぐ連絡してほしい場面」と「次回の報告でよい場面」は、家族が一方的に決める話ではありません。

急変や事故のときの医学的な判断は、家族との連絡の取り決めだけで決まるものではありません。どの場面で連絡するかは、施設と相談して決める。だから、あの欄は「施設と相談して確定する欄」と書いてあります。

入居後は、家族が気づいたことを足していけばいい。施設側から様子を聞ける機会でもあります。

やりとりは、家族から施設への一方通行ではありません。

まとめ

親御さんの入居前に、家族が用意するもの。

荷物と書類のほかに、もう一枚あります。

普段の暮らし方と、連絡してほしい境目を書いた引継ぎ票です。

この一枚には、呼ばれたい名前と意思表示の方法、1日の過ごし方、できることと手伝ってほしいこと、薬と受診の書類の所在と担当、家族の連絡先、連絡の希望、そして確認担当者と見直し日を書きます。

薬の名前や量は書きません。診療情報提供書やお薬手帳、契約書、施設の正式なアセスメントの代わりにもなりません。役割を分けたうえで、補足として渡します。

家族が伝えた希望は、施設サービス計画を作るときに勘案するものと運営基準に書かれています。緊急時の連絡先も、施設が整えるものとして指針に示されています。

難しく考えなくていい。

今日、この記事の様式を書き写して、書ける欄をひとつ埋める。それだけで最初の一歩は終わりです。

完璧な一枚を書ける人が、いい家族なのではありません。

渡して、確認して、見直す日を決めた人が、親御さんの新しい暮らしを支えています。