入居一時金と月払い、総額はいくら変わる?実額シミュレーションでわかる後悔しない選び方

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老人ホームのパンフレットを開くと、同じ部屋なのに、料金が2つ並んでいます。

「入居一時金プラン」と「月払いプラン」。

どちらを選ぶかで、最終的に払う総額は変わります。しかもその差は、数百万円になることも珍しくない。

分かれ目は、たったひとつです。入居する方が、何年住むか。

この記事では、2つの方式の仕組み、実際の金額でのシミュレーション、入居期間の見積もり方、見学でそのまま使える質問リストまで書きます。

介護の知識がゼロの方でも分かるように、言葉の意味から順に説明します。

【結論】総額は変わる。分かれ目は「何年住むか」

同じ施設でも、支払い方式によって支払総額は変わります。

長く住むほど、入居一時金(前払い)が有利になりやすい。

短期間で退去するなら、月払いが有利になりやすい。

そして、その分かれ目は、多くの場合「償却期間」と呼ばれる年数の前後にあります。

つまり、どちらを選ぶべきかは、入居する方が何年住みそうかで決まります。

まず仕組みを3分で理解する

損得の話をする前に、押さえるべきポイントは2つだけです。

ひとつは、どちらの方式も、払っているのは「家賃」だということ。

もうひとつは、損得を生んでいる「償却期間」と「初期償却」という2つの言葉です。

入居一時金は、特別な料金ではありません。家賃をいつ払うか、という違いが損得を生んでいるだけです。

どちらも払っているのは「家賃」。違うのは払うタイミングだけ

入居一時金と聞くと、権利金のような、よく分からないお金を想像しがちです。

でも正体は、将来の家賃の前払いです。

入居一時金方式は、数年分の家賃をまとめて先に払う方式。その分、毎月の支払いは安くなります。

月払い方式は、前払いがない代わりに、家賃を毎月そのまま払う方式。だから毎月の支払いは高くなります。

払っているものは同じ。タイミングが違うだけ。

損得を生む2つのキーワード「償却期間」と「初期償却」

では、なぜ損得が生まれるのか。

契約書に出てくる、次の2つの仕組みのせいです。

償却期間は、前払いした一時金を「何年分の家賃とみなすか」という期間のこと。

たとえば「600万円・償却期間5年」なら、5年分の家賃を先払いした扱いになります。そして多くの施設では、償却期間を過ぎても追加の家賃は発生しません

初期償却は、一時金のうち20〜30%程度を「入居した瞬間に受け取ったことにする」仕組みです。

この部分は、たとえ1か月で退去しても戻ってきません

「長く住むと前払いが得、早く出ると月払いが得」の正体は、この2つです。

長く住めば、償却期間の後は家賃の負担がなくなる。早く出れば、初期償却の分だけ戻ってこない。

それだけの話です。

【実額シミュレーション】数字で比べてみよう

言葉の説明だけでは、金額の差がどれくらいになるのかが見えません。

なので、現実的な条件を置いて、実際に計算してみます。

同じ部屋で、一時金600万円のプランと月払いのプランを並べる。そして途中で退去したときの返還金まで含めて、負担額を比べます。

モデルケースの条件

  • 前払いプランは、一時金600万円、月額20万円
  • 月払いプランは、一時金0円、月額30万円(差額の月10万円が家賃相当)
  • 初期償却25%(150万円)、償却期間5年、残りは均等償却
  • 途中退去時は、未償却分が返還される契約

住んだ年数別・実質負担の比較

返還金まで考慮した「実質負担額」で比べると、こうなります。

住んだ年数前払いプラン月払いプラン差額
1年480万円360万円月払いが120万円安い
3年1,140万円1,080万円月払いが60万円安い
5年1,800万円1,800万円同額(損益分岐点)
7年2,280万円2,520万円前払いが240万円安い
10年3,000万円3,600万円前払いが600万円安い

この表には、大事な性質が表れています。

前払いの「損」には上限があるけれど、「得」には上限がないということです。

早期に退去しても未償却分は返ってくるので、損は最大でも初期償却分。このケースなら150万円で止まります。

一方、長く住んだときの得は、住む年数に比例して大きくなり続ける。10年住めば600万円、それ以上ならさらに開きます。

損は頭打ち、得は青天井。ここが一時金という仕組みの本質です。

ただし、これは「均等償却・償却期間後の追加負担なし」という契約が前提です。

定率償却(早い時期ほど多く償却する方式)だったり、初期償却率が高い契約だと、早期退去したときの返還金は減ります。

だから最後は、ご自身の契約条件で計算し直してください。ここが一番大事です。

知っ得メモ① 月払いプランの「割高度」は検算できる

これ、パンフレットだけでできる裏技です。

「月払いと前払いの月額の差」に「償却期間の月数」を掛けて、入居一時金の額と比べてみてください。

このモデルケースなら、差額10万円×60か月=600万円。一時金とぴったり同額です。つまり、中立的な設定。

掛け算の結果が一時金より大きい施設は、月払いをかなり割高に設定しています。

言い換えると、その施設が長期入居者をどれだけ優遇しているのかが、パンフレットの数字だけで分かります。

「何年住むか」をどう見積もればいい?

損益分岐点が分かっても、まだ半分です。

「うちの親は、それより長く住むのか」が分からなければ、判断できません。

ここで役に立つのが、平均入居期間という目安です。

有料老人ホームの平均入居期間は、一般に3〜5年程度と言われています。

ただし、これはあくまで平均。実際には、次の要素で大きく変わります。

入居時の年齢。要介護度と健康状態。そして性別です。

若いうちに入居するほど、入居期間は長くなる傾向があります。自立や軽度で入居した場合も、長期になりやすい。平均寿命の差から、女性のほうが長くなる傾向もあります。

たとえば「78歳・要支援で入居、損益分岐点は5年」なら、前払いが有利になる可能性は十分あります。

逆に「90歳・要介護4で入居」なら、月払いのほうが現実的かもしれません。

損益分岐点と、ご本人の見込み入居期間を並べて比べる。

これが、判断の基本形です。

知っ得メモ② その施設の「リアルな入居期間」は重要事項説明書でわかる

全国平均より、はるかに役立つ数字があります。検討中の施設そのもののデータです。

有料老人ホームには「重要事項説明書」の開示が義務付けられていて、都道府県のホームページや施設のサイトから、契約前に誰でも見られます。

ここには、入居者の平均年齢や年齢構成、前年度の退去者数(生存退去・死亡退去の内訳)まで載っています。

たとえば入居者100人で、年間の退去が20人前後。それなら平均入居期間は、ざっくり5年程度と推測できます。

見学に行く前に、一度のぞいてみてください。

3つの質問でわかる、わが家に合うのはどちらか

見込み入居期間に加えて、資金事情も入れた判断の目安です。

次の3つに、答えてみてください。

  • 手元資金に十分な余裕がありますか
  • 見込み入居期間は損益分岐点を超えそうですか
  • 数年内の住み替え・転居の可能性はありますか(他施設への移動、家族との同居再開など)

1つ目が「いいえ」なら、月払いです。

一時金で貯蓄を使い切ると、医療費のような不測の出費に対応できなくなります。総額でやや不利でも、手元にお金を残す価値のほうが大きい。

資金に余裕があって、2つ目が「はい」なら、前払いです。長く住むほど、差は開いていきます。

3つ目が「はい」なら、月払い。初期償却のリスクを避けられます。

それでも迷うなら、まず月払いで入居して、様子を見てから前払いへの変更を相談する、という手もあります。

ただし変更できるかどうかは施設によります。これは施設への質問リストに入れて、必ず確認してください。

よくある失敗例と防ぎ方

仕組みを知らずに契約して後悔するパターンは、おおよそ決まっています。

代表的なのは、次の3つです。

そしていずれも、契約前に書面で確認しておけば避けられます。

【失敗例1】初期償却を知らずに契約し、半年で200万円近く戻らなかった

「途中で退去すれば、返してもらえる」

そう思い込んで契約したものの、体調の変化で半年後に退去。初期償却30%の契約だったため、まとまった額が返ってこなかった。

これが、一時金をめぐるトラブルの典型パターンです。

防ぐには、契約前に「初期償却率は何%か」「◯年で退去した場合の返還額は具体的にいくらか」を書面で確認すること。

口頭説明だけで済ませない。ここが分かれ目です。

【失敗例2】「90日以内なら全額返還」を過信していた

入居から90日以内に解約すれば、一時金が原則返還される。

これは「短期解約特例(90日ルール)」といって、法律で定められた、かなり心強い制度です。

ただし、落とし穴が2つあります。

ひとつは、滞在日数分の実費や原状回復費は差し引かれること。

もうひとつは、起算日が「契約日」か「入居日」かは契約によって異なることです。

契約から入居まで日が空くと、思ったより早く期限が来ます。

防ぐには、起算日と、差し引かれる費用の内訳を、契約前に確認すること。それだけです。

【失敗例3】返還金の受取人を決めておらず、相続で揉めた

入居者が亡くなって契約が終了すると、未償却分の返還金は、原則として相続財産になります。

数百万円規模になることもあります。

受取人を決めていなかったせいで、家族間のトラブルに発展するケースは、実際にあります。

防ぐには、契約の時点で、返還金の受取人を家族で話し合って決めておくこと。受取人指定制度がある施設も、けっこう多いです。

見学・契約時にそのまま使える質問リスト

聞きにくいお金の話ほど、セリフのまま用意しておくと、驚くほどスムーズに聞けます。

見学時に、そのまま印刷して持っていってください。

  • 「初期償却率と償却期間を教えてください」
  • 「償却方式は均等償却ですか、定率ですか」
  • 「3年、5年、7年で退去した場合の返還額を、それぞれ具体的な金額で教えてください」
  • 「償却期間を超えて住んだ場合、追加の前払金や家賃は発生しますか?」
  • 「90日ルールの起算日は契約日ですか、入居日ですか」
  • 「入居後にプラン変更(月払い⇔前払い)はできますか?」
  • 「一時金の保全措置は、どの機関とどんな契約になっていますか?」

特に要チェックなのが、「償却期間後の追加負担の有無」と「プラン変更の可否」の2つ。

この2つは、パンフレットに書かれていないことが多いからです。

あと、保全措置(施設が倒産したときに一時金を500万円まで保護する仕組み)が未加入の施設は、避けたほうが無難です。

知っ得メモ③ 一時金には「算定根拠」を聞く権利がある

実は、入居一時金は、施設が自由に決めていい金額ではありません。

老人福祉法により、家賃やサービスの対価以外の「権利金」などを受け取ることは禁止されています。そして前払金には、算定根拠(想定する居住期間と家賃相当額など)を書面で明示する義務があります。

つまり「この600万円は、何年分の、何の費用ですか?」と、堂々と聞けます。

ここで根拠を説明できない施設は、契約管理そのものに不安が残ります。

金額が妥当かどうかと同時に、その施設が契約内容をきちんと説明できる相手かどうかも、この質問ひとつで分かります。

【まとめ】数字で比べれば、家族の話し合いは前に進む

支払い方式を選ぶときの判断材料は、この4つです。

1.一時金は「長く住む前提の先払い割引」、月払いは「割高だが、途中でやめても損が少ない都度払い」。

2.損益分岐点は、償却期間の前後。前払いの損は初期償却分が上限で、得は住むほど大きくなる。

3.どちらを選ぶかは、「損益分岐点」「見込み入居期間」「手元資金の余裕」の3つで決まる。

4.契約前に、初期償却・返還金・90日ルール・受取人を、必ず書面で確認する。

検討中の施設があるなら、この記事の表と同じ形で、「5年住んだ場合」「10年住んだ場合」の総額を両プランで書き出してみてください。

数字が並んだ瞬間に、ご家族での話し合いは一気に具体的になります。

そして書き出す途中で「これ、分からないな」という項目が出てきたら、それこそが施設見学で聞くべき質問です。