※1999年創業の会社が運営する「シニアのあんしん相談室」よりサービス提供を受けております。

夜中に何度も起こされた朝は「もう限界かもしれない」と思い、デイサービスから帰った親が笑った日には「まだやれる」と思い直します。在宅で介護をしていると、この行き来が何度も続きます。
この行き来には、あなたの気持ちの弱さとは関係のない、はっきりした理由があります。
この記事では、その理由と、「どうなったら施設を探し始めるか」を疲れ切ってしまう前に決めておく方法を、順に説明します。
理由は2つあります。1つは国の調査票の選択肢に、もう1つは「疲れた」という言葉の性質にあります。
夜中の1時、3時、4時半と、トイレの介助で3回起こされた朝には、「もう無理だ」と思います。
その3日後、デイサービスから帰った親が、めずらしく笑っていました。それだけで、「まだやれるかもしれない」に戻ります。
答えが3日で入れ替わります。おかしいのは、あなたではありません。
実は、国の調査も同じ前提で作られています。市町村が介護する家族に配る「在宅介護実態調査」という調査があります。設問は「今後も働きながら介護を続けていけそうですか」というものです。選択肢は、「続けていける」「難しい」の2択ではありません。
「何とか」と「やや」。続けていけるかどうかの2択ではなく、迷ったままでも答えられる選択肢が、あいだに2つあります。
この設問が尋ねているのは、働きながら介護を続けられる見通しであって、限界かどうかそのものではありません。それでも、迷ったままの答えを受け止める選択肢があることは、調査票から確かめられます。
では、なぜ行ったり来たりするのか。
「疲れた」には、数字が無いからです。
体重なら「先月より2キロ増えた」と言えます。血圧なら、朝の数字を並べれば一目で分かります。数字が残っているからです。
「疲れた」は残りません。先月の「疲れた」と今月の「疲れた」は、そのままでは並べて比べられません。重くなったのか。それとも自分が慣れただけなのか。いちばん近くで見ているあなたに分からないのは、感じ方が鈍いからではなく、比べる材料がどこにも残っていないからです。
裏を返せば、こう言えます。
数字にして残せば、来月のあなたは、今月のあなたと比べられます。
スマホのメモ帳だけで足ります。数えるものは3つ。決めておくことは1本です。
今夜からのメモは、次の3つだけです。
朝起きたら、スマホのメモ帳に1行だけ打ちます。たとえば「23時10分に寝た。1時40分と4時に起こされた。続けて眠れたのは2時間半」。そこまで書けない朝は、「夜中に2回。3時間くらい眠れた」だけでかまいません。3つ目は、1日の終わりに「ほとんど1日」「半日」「2〜3時間くらい」のどれかを選んで足すだけです。正確さは要りません。
なぜ、この3つなのか。
1つ目の「続けて眠れた時間」。厚生労働省の国民生活基礎調査が、介護をしている家族の睡眠時間そのものを調べています。2025年の集計では、介護時間が「ほとんど終日」の人のうち、睡眠が6時間未満の人は50.2%。「必要なときに手をかす程度」の人の34.6%を上回ります。眠れた時間をメモするのは、国が調べているものと同じものを、自分の夜で数えることです。
2つ目の「夜中に起こされた回数」。在宅介護実態調査は、「日中の排泄」と「夜間の排泄」を別々の選択肢にしています。夜は、昼と分けて見るもの。調査票が、そう扱っています。ただし、回数までは尋ねていません。昨夜が2回だったのか、4回だったのか。それは、あなたのメモにだけ残ります。
3つ目の「介護で家を離れられなかった時間」。これに近いものは、国民生活基礎調査の介護票が尋ねています。設問は「主に介護をしている方の1日の平均的な介護時間はどのくらいですか」。選択肢には「1 ほとんど終日」「2 半日程度」「3 2〜3時間程度」「4 必要なときに手をかす程度」が並びます。最後の1つだけ、時間の長さではありません。国も時計では測っていないのだから、あなたも分単位で測らなくて大丈夫です。この4つのどれに近いかを選べば、記録として足ります。
決めごとは、1文で作ります。「どの数が」「どこまで来たら」「そのとき何をするか」。この3つを、この順につなげます。
「続けて眠れる時間が」「3時間を切る週が2週間続いたら」「ショートステイを増やす相談を始める」。区切ってみると、3つがそのまま並んでいます。
「そのとき何をするか」は、2段で決めておきます。1段目は、人手を増やすことです。ショートステイ(短期入所生活介護。施設に泊まって介護を受けてもらう利用の仕方)の泊まりを増やす。ヘルパーの訪問回数を増やす。2段目は、人手を増やしても数が元に戻らなかったときに、施設を探し始めることです。
別の例も、同じつなぎ方で作れます。「夜中に起こされた回数が3回以上の日が週に4日を超えたら、泊まりの日数を増やす相談を始める。増やして1か月たっても減らなければ、施設を探し始める」。「家を離れられなかった時間が『ほとんど1日』の日が月の半分を超えたら、ヘルパーの回数を増やす相談を始める」でもかまいません。
決めておくのは、まず1本で足ります。メモを2週間ほど続けて、いちばん気になる数を1つ選んでください。
決めた1本を書く欄は、ケアプランの1枚目にあります。
ケアプランは、ケアマネジャーが作る「どの介護サービスをいつ使うか」の計画書です。その1枚目(第1表)に、「総合的な援助の方針」という欄があります。
厚生労働省が示す記載要領は、この欄について「あらかじめ発生する可能性が高い緊急事態が想定されている場合には、対応機関やその連絡先、また、あらかじめケアチームにおいて、どのような場合を緊急事態と考えているかや、緊急時を想定した対応の方法等について記載することが望ましい」としています。
書かなければならない義務ではありません。それでも、どうなったら動くかを書く欄は1枚目にあり、そこへ書くことが望ましいと厚生労働省が示しています。しかも、この欄は「利用者及び家族を含むケアチームが確認、検討の上」で書くこととされています。あなたは、検討に加わる側です。
同じ第1表には、本人と家族の意向を書く欄もあります。記載要領には「利用者及びその家族の生活に対する意向が異なる場合には、各々の主訴を区別して記載する」とあります。親の希望と、介護しているあなたの希望は、分けて書けます。
頼むときは、次のように言えばそのまま伝わります。
「次にケアプランを見直すときに、第1表の『総合的な援助の方針』の欄へ、『続けて眠れる時間が3時間を切る週が2週間続いたら、ショートステイを増やす相談を始める』と書いてもらえますか」
「母は家にいたいと言っています。私は、夜が今のままだと続けるのが難しいと感じています。第1表の意向の欄には、母の希望と私の希望を分けて書いてもらえますか」
決めた1本は、書いて終わりではありません。ケアプランを見直す場では、いまのメモの数と決めごとの線が合っているかも一緒に確かめてください。親の状態が変われば、3時間という線も、1段目に置いた手も、その時点で合わなくなります。そもそも限界に近いことを言い出せないときに、どこへ何を伝えれば相手が動けるかは、別の記事にまとめています。
人手を増やしても、数が元に戻らなかったとき。次に来るのが、施設探しです。始める前に知っておくと慌てずに済むことが、2つあります。
特別養護老人ホーム(特養)の入所は、申し込んだ順では決まりません。国の基準に、空きより申込者が多い場合は「介護の必要の程度及び家族等の状況を勘案し」、必要性が高いと認められる人を優先して入所させるよう努めなければならない、と定められています。親の状態だけで決まるのではありません。介護しているあなたの状況が、判断の材料に入っています。
同じ基準は、入所にあたって施設が「その者に係る居宅介護支援事業者に対する照会等により」本人の心身の状況やサービスの利用状況などを把握するよう努める、とも定めています。照会が行く先は、ケアマネジャーの事業所です。毎朝の1行のメモを続ける意味は、ケアマネジャーとの相談の場で、いまの状況を言葉ではなく数で渡せることにあります。
出典: e-Gov 指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準
在宅を続けるか。施設に入るか。この2つのあいだには、まだ選べるものが残っています。
2-2で決めごとの1段目に置いた、泊まりや訪問の回数を増やす手のほかに、夜のあいだだけ人手を増やす方法もあります。夜間にヘルパーが来てくれる夜間対応型訪問介護などです。施設を探すのと同時に、こちらを先に試せます。夜を任せられるサービスの種類と費用は別の記事にまとめていて、どう組み合わせるかは、ケアマネジャーとの相談で決められます。
「どうなったら施設を探し始めるか」は、疲れ切ってから考えることではありません。まだやれるうちに、自分で決めておけます。決めるのは、1本だけです。
次にすることは1つです。今夜寝る前に、スマホのメモ帳を開いて、寝る時刻を1行打ってください。
この1行があれば、来月のあなたが、今月のあなたと比べられます。重くなったのか、それとも自分が慣れただけなのかを、数で確かめられます。
あなたの手元には、今夜から数えられる3つのメモと、その数から作る1本の決めごとが残ります。
介護のあんしんでは、どうなったら施設を探し始めるかを疲れ切る前に自分で決めておく方法も含めて、介護に向き合うあなたに信頼できる情報を提供しています。