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「まだ早いですよ」と言われて、その日はそうかもしれないと思って帰ってきた家族がいます。
それから何か月たっても、いつになったら早くないのかは誰も教えてくれません。
在宅で親の介護をしていると、この宙ぶらりんが続きます。
「まだ早い」と言われたことのうち、資料を開けば白黒がつくのは一部だけです。
残りは、言った人から見えている範囲についての意見です。
この記事では、どこまでが制度で決まっていて、どこからが聞き直して初めて分かることなのかを住まいの種類ごとに分け、待つと決めるときに先に決めておくことまでを説明します。
「まだ早い」という一言は、3つの違うことを指して使われます。
このうち、資料を開けば自分で確かめられるのは最初の1つだけです。
残りの2つは、言った人に聞き直さないと分かりません。
どれだったのかが分かると、次に何を確かめればよいかも決まります。
いちばん確かめやすいのは、要介護度が足りないという意味で言われた場合です。
介護保険の施設のなかには、入れる要介護度が決まっているものがあります。
特別養護老人ホームがその代表です。
これは施設が独自に決めた条件ではなく、国が定めた要件です。
そのため、この意味の「まだ早い」なら、あなたが自分で読んで確かめられます。
ただし、要介護度で入口が決まる住まいは一部だけです。
どの住まいに要件があり、どの住まいには無いのかは、住まいの種類ごとに違います。
2つ目は、その人が受け持っている範囲の話として言われた場合です。
ケアマネジャーが行う居宅介護支援は、家で暮らし続けられるように配ることを基本方針として定められた仕事です。
省令には「要介護状態となった場合においても、その利用者が可能な限りその居宅において、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるように配慮して行われるものでなければならない」とあります。
在宅で使えるサービスから案が出てくるのは、その人が請け負っている仕事が家での暮らしを組み立てることだからです。
これは制度の仕組みの話であって、目の前の一言の理由を決めつける材料にはなりません。
そのため、施設を考えていることは、こちらから言葉にして伝える必要があります。
出典: e-Gov法令検索 指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準 第1条の2
3つ目は、その人から見えている暮らしについて言われた場合です。
週に一度顔を出す親族に、夜中に何回起きているかは見えていません。
診察室で親を診る医師に見えるのも、その時間の状態です。
一方で、特別養護老人ホームが入所の必要性を判断するときには、本人の状態と並べて家族の状況も見ることが省令で定められています。
家族が持ちこたえられているかどうかは、制度が判断の材料として数えているものです。
そう考えると、それを見ていない人の一言は、その人に見えた範囲での意見であって、施設の判断に代わるものではありません。
出典: e-Gov法令検索 指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準 第7条
要介護度が決まっているのは、介護保険の施設と認知症のグループホームだけです。
有料老人ホームとサービス付き高齢者向け住宅には、住まいそのものに要介護度の下限がありません。
「まだ早い」がどの住まいの話だったかで、確かめる先が変わります。
ここでは5つの住まいを1つずつ見ます。
特別養護老人ホームに入れるのは、原則として要介護3・4・5の人です。
介護保険法施行規則の第17条の9が、対象になる区分を要介護認定の省令の第1条第1項第3号から第5号までと定めています。
その3つが要介護3・要介護4・要介護5にあたります。
「まだ早い」が特別養護老人ホームの話で、親の要介護度が1か2なら、この一言には制度上の根拠があります。
ただし、そこで話は終わりません。
出典: e-Gov法令検索 介護保険法施行規則 第17条の9
要介護1・2でも、特例入所として申し込める道があります。
同じ施行規則の第17条の10が、要介護1・2の人であっても「その心身の状況、その置かれている環境その他の事情に照らして、居宅において日常生活を営むことが困難なことについてやむを得ない事由があると認められるもの」を対象に加えています。
厚生労働省の通知は、この「やむを得ない事由」として次の4つを挙げています。
同じ通知は、申込みの受け取り方についても書いています。
申込者側から特例入所の要件に該当している旨の申立てがある場合には、入所申込みを受け付けない取扱いは認めないこととする。
要介護1・2であることだけを理由に、申込書の受け取りを断ることは認められていません。
ただし、申し込みを受け付けてもらうことと、入所が決まることは別です。
特例入所にあたるかどうかは、施設と市町村が情報を共有したうえで判断されます。
出典: 厚生労働省 指定介護老人福祉施設等の入所に関する指針について(全国介護保険担当課長会議資料)
認知症対応型共同生活介護(グループホーム)の入口は、要介護度と認知症の有無の組み合わせで決まります。
省令は、対象を「要介護者であって認知症であるもののうち、少人数による共同生活を営むことに支障がない者」と定めています。
入居のときには、主治医の診断書などで認知症であることを確認することも定められています。
ここで引いた省令が定めているのは、要介護の人が使う認知症対応型共同生活介護です。要支援の人が使えるのは介護予防の別のサービスで、対象は要支援2の人に限られ、根拠となる省令も契約するサービスの名前も別になります。
ここで「まだ早い」と言われたなら、要介護度ではなく、認知症の診断があるかどうかの話である場合があります。
出典: e-Gov法令検索 指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準 第94条
有料老人ホームとサービス付き高齢者向け住宅には、住まいそのものに要介護度の下限がありません。
老人福祉法が定める有料老人ホームは、老人を入居させて介護や食事の提供などを行う施設であり、定義に要介護度は入っていません。
サービス付き高齢者向け住宅の登録基準も、入居できる人を「高齢者又は当該高齢者と同居するその配偶者」と定めており、要介護認定を条件にしていません。
そのため「まだ早い」がこの2つの話なら、要介護度を根拠にした説明にはなりません。
ただし、法令に下限が無いことと、そのホームが受け入れるかどうかは別です。
1軒ごとに契約の条件も受け入れの体制も違うので、確かめる先はそのホームになります。
出典: e-Gov法令検索 高齢者の居住の安定確保に関する法律 第7条
介護老人保健施設(老健)は、住み続ける場所ではなく、家へ戻るための施設として定められています。
省令の基本方針に「その者の居宅における生活への復帰を目指すものでなければならない」とあります。
ここで「まだ早い」と言われたなら、早いか遅いかより先に、目的が合っているかを見ることになります。
長く住む場所を探しているなら、老健は探している相手ではありません。
出典: e-Gov法令検索 介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準 第1条の2
特別養護老人ホームの順番は、申し込んだ順では決まりません。
決めるのは施設で、見るのは介護の必要の程度と家族の状況です。
そのため、待っている人の数を見て諦める必要もありません。
この章では、順番の決まり方と、待機者の数が何を表していないかを見ます。
特別養護老人ホームの入所は、申し込んだ順番では決まりません。
省令にはこう書かれています。
指定介護老人福祉施設は、入所申込者の数が入所定員から入所者の数を差し引いた数を超えている場合には、介護の必要の程度及び家族等の状況を勘案し、指定介護福祉施設サービスを受ける必要性が高いと認められる入所申込者を優先的に入所させるよう努めなければならない。
早く出した人から入る仕組みではないので、「今は早い」という理由で申し込みを遅らせても、順番の上で損をするわけではありません。
逆に、出しておけば早く入れるわけでもありません。
出典: e-Gov法令検索 指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準 第7条
判断に入るのは、親の状態だけではありません。
前の節で引用した条文が見るとしているのは、「介護の必要の程度」と「家族等の状況」の2つです。
同じ条は、施設が入所にあたってケアマネジャーの事業所へ照会するなどして、本人の心身の状況・生活歴・病歴・サービスの利用状況を把握するよう努めることも定めています。
市町村ごとの指針には、もっと細かく書かれています。
横浜市の指針では、要介護度・入所希望者本人の状況・主たる介護者である家族の状況などを点数にして、合計点の高い順に優先順位を決めるとされています。
本人や介護している家族の心身の状況が急に悪化した場合には、点数によらず優先入所を決められるとも書かれています。
これは横浜市の決め方であって、全国で同じではありません。
あなたが読むのは、親が住んでいる市町村の指針です。
出典: e-Gov法令検索 指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準 第7条
特別養護老人ホームの申込者の数は、待ち時間を表したものではありません。
厚生労働省の集計では、2025年4月1日時点の申込者は22.5万人でした。
内訳は、要介護3以上が20.6万人、特例入所の対象になる要介護1・2が1.8万人です。
このうち家で暮らしている人は、要介護3以上で8.6万人、要介護1・2で0.9万人でした。
厚生労働省自身が、この数に注意を添えています。
当該数値には、長期間にわたり各施設の申込者名簿に登載されている方も含まれておりますが、入所を希望する時期や条件、生活環境の変化等の様々な事情により、必ずしも現に入所を必要としている場合に限らない点に留意する必要があります。
この数からは、あなたが何年待つことになるかは出てきません。
数の大きさを理由に申し込みを見送ると、必要性を見て順番を決める判断に、そもそも載りません。申し込んだ後に順番がどう決まり、家族が何を届け出るかは、別の記事にまとめています。
出典: 厚生労働省 特別養護老人ホームの入所申込者の状況(令和7年度)
確かめることは4つあり、順番に意味があります。
最初にどの住まいの話だったのかを決めないと、あとの3つは空振りします。
聞く相手は、言った人・ケアマネジャー・地域包括支援センター・市町村の4か所です。
最初にすることは、言った人に、どの住まいの話だったのかを聞くことです。
2章で見たとおり、要介護度で入口が決まるのは一部の住まいだけです。
「施設はまだ早い」とだけ聞いていると、要件のある住まいと無い住まいが1つに混ざったまま残ります。
聞くときは、次のように言えばそのまま伝わります。
「まだ早いというのは、特別養護老人ホームの話でしょうか。有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅も含めた話でしょうか」
「要介護度が足りないという意味でしょうか。それとも、いま申し込んでも順番が来ないという意味でしょうか」
施設に入りたいという希望は、言葉にして伝えます。
省令には、介護支援専門員が何をするかがこう書かれています。
介護支援専門員は、適切な保健医療サービス及び福祉サービスが総合的かつ効率的に提供された場合においても、利用者がその居宅において日常生活を営むことが困難となったと認める場合又は利用者が介護保険施設への入院又は入所を希望する場合には、介護保険施設への紹介その他の便宜の提供を行うものとする。
「希望する場合には」と書かれているので、希望を伝えていなければ、介護支援専門員がここでいう紹介を行う場面になりません。
「まだ早いですね」で話が終わっていたのなら、入所を希望すると伝えたことにはなっていません。
伝え方は短くて構いません。
「介護保険の施設への入所を希望します。紹介をお願いできますか」
ここで名指しされているのは介護保険施設です。
特別養護老人ホーム・介護老人保健施設・介護医療院の3つがこれにあたり、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅は含まれません。
出典: e-Gov法令検索 指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準 第13条
聞く先は、担当のケアマネジャーだけではありません。
介護保険法は、地域包括支援センターを「地域住民の心身の健康の保持及び生活の安定のために必要な援助を行うことにより、その保健医療の向上及び福祉の増進を包括的に支援することを目的とする施設」と定めています。
市町村が設置するもので、担当のケアマネジャーとは別の相談先です。
同じことを2か所で聞くのは、相手を疑うためではありません。
「まだ早い」が制度の要件の話なのか、受け持ちの範囲の話なのかを分けるには、受け持ちの違う相手に同じ質問をするのが早い方法です。
ただし、地域包括支援センターが入所の可否や順番を決めるわけではありません。
決めるのは施設で、要件を定めているのは法令と市町村の指針です。
要介護度が実際の介護の重さと合っていないと感じるなら、区分変更を申請できます。
介護保険法は、要介護認定を受けた人が、いまの区分以外の区分に該当すると認めるときに、市町村へ区分変更の認定を申請できると定めています。
申請に対する処分は、原則として申請のあった日から30日以内に行うこととされています。
心身の状況の調査に日時を要するなどの理由があるときは、処理に要する見込みの期間と理由を通知したうえで延ばすことができます。
申請すれば重い区分になるとは限りません。
今より軽くなることも、変わらないこともあります。
それでも、要介護度が「まだ早い」の理由として出されたのであれば、その数字がいまの暮らしに合っているかを確かめる手続きは用意されています。
確かめたうえで、やはり今は待つと決めることもあります。
その場合に決めておくのは、次に確かめ直す日と、状態が変わったときの連絡先の2つです。
「もう限界だと思ったら」を条件にすると、その日が来たときには決める余力が残っていません。
待つと決めたら、次に確かめ直す日をカレンダーに入れます。
決め方は日付です。
要介護認定には有効期間があり、期間が終わる前に更新の申請ができます。
その満了日を起点にして、いつ確かめ直すかを先に決めておきます。あわせて、「もう限界」を日付と数で決めごとにする方法は、別の記事にまとめています。
確かめ直すのは、1章で分けた3つのうち、自分に当てはまったものです。
要介護度の話だったなら、区分が変わっていないかを見ます。
受け持ちの話だったなら、施設を希望すると伝えた後に何が動いたかを見ます。
見えている暮らしの話だったなら、その後に変わったことを日付で書き足します。
もう1つは、状態が変わったときにどこへ知らせるかを、先に聞いておくことです。
3章で見たとおり、順番を決めるときには本人の状態と家族の状況が見られます。
横浜市の指針のように、急に悪化した場合を別に扱う決まりを持つ市町村もあります。
知らせなければ、申し込んだときの状態のまま順番の判断が続きます。
申し込みを出しているなら、申込先の施設と市町村に、次の2つを聞いておきます。
まだ申し込んでいないなら、聞く先は市町村の介護保険の窓口か、地域包括支援センターです。
「まだ早い」のうち、資料を開いて確かめられるのは一部だけです。
残りは、言った人から見えている範囲での判定です。
制度が決めているのは一部の住まいに入れる要介護度だけで、そこから先は聞き直して初めて分かります。
次にすることは1つです。
「まだ早い」と言った人に、それがどの住まいの話だったのかを聞いてください。
ここを飛ばすと、いつまで待つのかを、あなた以外の人の見え方に合わせて決め続けることになります。
どの住まいの話だったのかが分かれば、待つか動くかを、あなたが自分で決められるようになります。
介護のあんしんでは、「まだ早い」と言われた後に何を確かめられるかも含めて、介護に向き合うあなたに信頼できる情報を提供しています。